小説 | ナノ


  神様、世界を壊してください



『イノセンスのことについて、ですか?』


「そう!前々から詳しく聞きたいと思ってたんだよねぇー!」


エルヴィンに書類を提出した後、廊下ですれ違ったハンジに腕をひっつかまれた彼女は来た道を逆戻り。
結局再びエルヴィンの部屋に連れて行かれたのだが、そこには先ほどはいなかったはずのリヴァイがいて。
二人でソファに座っているから多分お茶でもしていたのだろう。
邪魔しちゃ悪い、と場所を変えようとした名前だが、ハンジはエルヴィンたちも聞きたいんだって、と言い彼らの座っているソファの開いている場所へ座り、名前をリヴァイの隣に座らせると、冒頭のように切り出したのだった。
そんな唐突に言われても…と言い淀んだ名前だったが、ハンジのきらきらとした期待の眼差しを受けると拒否もできず、小さくため息をついた。


『イノセンスに3つの分類があるというのは以前お話ししましたよね?』


「覚えている。寄生型、装備型、結晶型の3つだろう?」


そう返事を返したのはエルヴィン。
そうです、と頷いた名前に、ハンジが詰め寄った。


「それでさ、イノセンスっていうものがまずどういうものなのかっていうのを聞きたいんだけど」


『そうですね…ある人の言葉を借りれば、"この世の物質ではない"らしいです』


「らしい…?」


『実はそれを武器に戦っている私たち教団の人間にとっても、イノセンスというのは「神の結晶」と呼ばれる不思議な力を帯びた謎の多い物質と定義されているだけで、詳しくは分かっていないんです。世界には109個有るとは言われていますが、敵側がしらみつぶしに破壊していってるので、数はそれに満たないでしょう』


へぇ、と興味深そうに声を漏らしたハンジ。
次に声が聞こえてきたのは、隣からだった。


「適合者ってのはなんだ。誰でもエクソシストになれるわけじゃねぇんだろ」


『そうですね…イノセンスとのシンクロ率っていうのがあるんですけど、測定してそれがある程度あればエクソシストになれます。適合者の可能性がある人に対してスカウトという形はとっていますが、教団に属さなければ大抵は伯爵たちに殺されるだけなのでほぼ強制的に教団に属しているようなものです』


「測定?機械かなんかで?」


『いえ、機械での測定ではありません。本部にイノセンスの番人、ヘブラスカというエクソシストがいるんです。イノセンスの保管、管理、イノセンスと適合者とのシンクロ率を測ることを仕事としています』


「ちなみにどんな感じで測るのかな!?」


興奮気味のハンジ。
他のエクソシストはどうかは分かりませんけど、と一言言った名前は自分の時はどうだったかを思い出そうとする。
もう何年も前の話ではあるが、なかなか衝撃的だったため思い出すのは容易だった。


『触手のようなもので体を包まれて…なんか不思議な感じでした。体に上手く力が入らなくて身動きもとれませんでしたし…』


「普通はどれくらいなんだ?」


『うぅん…70~80%行けば良い方じゃないでしょうか。元帥は100%を超えてるので、"臨界者"とも呼ばれます』


100%は大きな壁、いわば臨界点なのだといった名前の説明に頷く。
数自体が少なく、破壊され更に少なくなっていくイノセンス、それに適合する人間しかエクソシストという戦闘部隊になれないというのなら、その希少価値は十分に頷ける。
彼らにしか世界を救えない、AKUMAを破壊できないというならば、手段を択ばないようなこともあったのではないか。
時に組織とはそのような残酷な手段にさえ手を出すものだと理解していたエルヴィンもリヴァイもハンジも、表情を硬くする。


『ありましたよ、実際に』


「…聞いてもいいかな」


エルヴィンの言葉に目を伏せた名前は、静かに口を開いた。


『一つ目は、ヘブラスカが命令されて行ってきた、エクソシストの血縁者にイノセンスを強制的にシンクロさせる実験。これが100年もの間、行われました』


「…結果は」


『イノセンスの力に耐えられず、血縁者の殆どが死亡、重傷を負いました。咎落ちにならなかったのはヘブラスカがその前にイノセンスを取り出したおかげでしょう。もちろん今は、今の室長になってからはその実験は禁止され、行われていません』


「咎落ち?」


新たな単語に首を傾げる。
名前は少し悲しそうな顔をした。


『イノセンスの暴走現象のことです。不適合者、所謂イノセンスとのシンクロ率が0%以下の人間がイノセンスとシンクロしようとしたり、適合者がAKUMAやノアに屈してイノセンスの意志を裏切ったりする場合に発生します。先ほど言ったのは前者の方です。咎落ちとなった人間は、肉体がイノセンスに取り込まれて強大なエネルギーを放出しながら破壊行為を繰り返し、24時間以内に命を消費しつくされて死に至ります』


「…諸刃の剣ってやつか」


『…そうかもしれませんね』


イノセンスは扱えれば、敵に対して強大な武器になる。
しかしイノセンスの意志に背けば、その強大な武器は適合者である自身に牙をむき、死に至らしめるのだ。
故にエクソシストは2つの恐怖に板挟みになりながら戦っていると言ってもいい。
AKUMAやノア、伯爵に殺されるか。
それとも、自身のイノセンスに殺されるか。


『二つ目は人造使徒計画…これによって生み出されたエクソシストを第二エクソシストと言いますが…実際に今生きているのは1人だけです』


「それ以外は…?」


『その研究に携わった研究者、および創り出された被験体も皆…その被験体のうちの一人に殺されました。現在生き残っている彼がその被験体をバラバラに破壊したため、結局生き残ったのは一人だけ、という状況です』


「どんな実験を?」


『…戦闘不能になったエクソシストの脳を、新たな体に移植することでイノセンスとの適合権を脳とともに新たな肉体に移らせるというものですが…実際そんなうまくいくはずがありません。脳と適合権には何の関連性もない…彼がエクソシストとして生きていることに、この実験は何の功も奏してないでしょう』


「…まだあるのか」


顰められるリヴァイの表情。
確かに、とても気分の良い話とは言えないが…このような思い真実があるということを、彼らにはなぜか知ってほしいと思った。


『第三エクソシスト計画というものがありました。AKUMAというのは、基本人間を殺して成長します。が、人間がいないAKUMAしか周りにいないような環境の場合、共食いを始めるんです。第三エクソシストはその原理を利用したようなもので…イノセンス適合者でない人間を、半AKUMAにして、AKUMAを食らわせることで戦闘能力を得ました。最終的に皆、AKUMAになってしまいましたが』


「……なかなか…いろいろしてるんだね」


ハンジの言葉に悲しそうな笑みを浮かべた名前は、大きな窓の向こうに視線を向ける。
それほど切羽詰っているということなのだが、それでも限度というものがあるだろうに。
幾度も繰り返される悲しい試みに心を痛める人間は、教団の中にも大勢いる。


『中央庁の命令には逆らえない…もう二度と、あんなことを繰り返したくないと思っているのに…実情を知らない彼らは非情です』


そう語った名前の瞳は仄暗く。
自分の知らないうちに、教団によって葬られた多くの命を思っているのだろうと察せられた。
名前の隣に座っていたリヴァイは彼女の腕をつかみ立ち上がらせると、そのままエルヴィンの部屋を後にしようと歩き出した。


「もういいだろ、クソメガネ」


「うん。話してくれてありがとう、名前」


『、いえ、これくらい』


そう言ってエルヴィンの部屋を後にした二人は、無言のまま廊下を歩き続ける。
こつん、こつん、と2人分のブーツの音は、リヴァイの部屋の前で止まり、そのまま中へと導かれていく。
ソファに腰を下ろしたと思ったら、名前はリヴァイに強く抱きしめられた。


「泣いちまえよ」


『、リヴァイさん…』


「失った命は重い。だが、お前が抱えてたって仕方ねーだろ」


ここで全部、流せ


その言葉を皮切りに、溢れる涙。
名前は震える腕をリヴァイの背中にまわし、そのまま強く抱きしめる。
彼女の嗚咽の混ざる声で必死に紡がれた言葉に、リヴァイは「当たり前だ」と返した。



(どうか、あなたは、)
(散らないで)
(いつまでも、生きて)
(、私の傍に)
(いて、ほしい)
title:識別

…暗いです、そして悲しい…。
お話の内容が内容なだけに明るいお話にしにくく…もっと明るいのがほしかったらすみません…!とっても暗くなってしまいました…!!
重々しいお話になってしまいましたが…宜しければどうぞ(いや宜しくないだろ…)
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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