小説 | ナノ


  お姉ちゃんが会いに来ました



所謂前世の記憶、というものを持ったまま生まれ、そしてその前世の力も持ったままこの世に生を受けた。
普通の人間からしたら気味が悪いであろうその力も、私の家族はすべて受け入れてくれて。
それだけで私は、この世界でも生きていける気がした。


『ん…』


朝…?と目をこすりながら起き上る名前。
カーテンから差し込む光が、既に日が昇っていることを示していて。
未だにぼんやりする頭を抱え、そういえば昨日は遅くまで書類整理をしていた、なんてことを思い出す。
机の上に乗っているのはすべて処理済みのもので、今日は副兵士長という立場にいる彼女に与えられた数少ない非番。
今日はゆっくりできそうだ、と大きく背伸びをした名前はふと思い出す。


そういえば、エレンたちはもう訓練兵団を卒業したな、と。


『…久々に顔を見に行こうか』


リヴァイやエルヴィン、ハンジやミケは既に会っているというのに、エレンに関してごたごたしていた間、名前は肉親ということで中々会わせてもらえなかった。
勿論それに不満こそあったものの、もうエルヴィンから会ってもいいぞと言われているから遠慮することはない。
調査兵団のジャケットのほうが何かと融通が利くだろうと判断した名前は、いつもと変わらぬそれらに手を伸ばした。


「、あれ、あれって…」


「どうしたベルトルト」


馬小屋の掃除を終えたベルトルトと、彼とともに行動していたライナーが足を止める。
ベルトルトの言葉に反応したライナーは、ベルトルトの視線が向いているほうに自分も視線を向けた。
そこには艶やかな黒髪を高い位置で一つに結い上げている、翡翠色の瞳をした美しい女性が一人。
女性兵、というにはあまりにも細く、とても兵士には見えない。
だが、彼女の顔には心当たりがあった。


「もしかして…名前副兵長…?」


「…まさか、いやでも…」


直接お目にかかったことはない。
何故なら名前は彼らの解散式に参加することもなく、壁外調査に出る時だって、リヴァイの指示でフードを深く被っているため、一般市民等々にその顔はあまり知られていない。
それでもベルトルトとライナーがその答えを導き出したのは、調査兵団のみならず、すべての兵団、一般市民に流れている噂だった。

絹糸のように流れる艶やかな漆黒の黒髪
宝石を凌駕するほどの美しさで魅せる翡翠色の瞳
日の光など知らぬかのような白磁を思わせる肌
人形のように整った顔、すらりと伸びた肢体

ベルトルトとライナーの視線の先にいる人物は、まさにそれらすべてに合致する。
噂も強ち嘘じゃないんだ、と名前に見惚れていると、2人の後ろから声がかけられる。


「何ボーっと突っ立ってんだよ、ベルトルト、ライナー」


「、ジャン」


「お前あれ見ろよ」


「あれ?」


掃除に使ったであろう箒を肩にかけながら現れたジャンに、黒髪の麗人を指さして見せるライナー。
素直にライナーの指さした先を見たジャンは目を見開き、手に持っていた箒をからんっと地面に落とす。
その音に気付いたのか、黒髪の彼女は3人のほうに視線を向けた。


「「「っ!」」」


か、可愛い!?美人!?どっちだ!?


そんなことを3人が考えているとは露知らず、3人のもとに歩み寄った黒髪の麗人は、あぁ、と口を開いた。


『ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバー、ジャン・キルシュタイン』


で、合ってる?


そう言って首を傾げた名前にひたすら頷く3人。
黒髪の麗人はゆるり、と小さく笑みを浮かべた。


『はじめまして、調査兵団副兵士長の名前です』


早速で悪いけど、と名前は3人の返事を聞かずに話を進めた。


『エレン・イェーガーに、会いたいんだ』


そういえば3人は快く案内を引き受けてくれて。
食堂までのそう遠くない距離を和気藹々と会話を弾ませる。
副兵士長、さらには美しい彼女が自分たちの事を知っていることもあり、3人は上機嫌だった。


「エレンは多分食堂に居ます」


『そっか、そろそろお昼だもんね』


それで、あの、とジャンが口を開く前に食堂に到着してしまった3人と名前。
態々副兵士長である彼女がエレンのもとを訪ねてくるなんて、一体どんな関係なのかを尋ねようとしたのだが仕方ない。
後で聞こう、とジャンがため息をつくが、後にその必要はなくなる。
名前がぐるり、と食堂を一瞥すれば、懐かしい3人の姿が目に入る。
あぁ、ちゃんと元気そうでよかった、と安堵しながら、彼らの名を呼ぶ。


『エレン、ミカサ、アルミン』


名前の声に反応し、ばっと振り返ったエレンはその瞳を見開く。
ひらり、と手を振った名前に駆け寄り、自分よりも小さいその体を抱きしめた。
それを間近で見たジャンたちは「副兵士長にこいつなんてことを…!」と似たようなことを考えていたが、その思考はエレンの言葉に打ち砕かれる。


「姉ちゃん!」


『ふふ、相変わらずだねエレン』


「会いたかった…!」


『私も。エルヴィンからやっと会ってもいいって言われたから会いにきた』


「名前」


『ミカサもアルミンも、元気そうでよかった』


「名前さんもお元気そうで」


仲睦まじく話す4人。
黒髪の麗人と、親しく話す3人に呆気にとられた様子の彼らの中で、ジャンが震えた声でいう。


「エレン…お前の、お姉さん、なのか…?」


「だからそう言ってんじゃねーか?」


『あぁごめん、姓まで言ってなかったね』


改めまして、調査兵団副兵士長の名前・イェーガーです


そういえば、食堂は一気ににぎやかになった。


「エレン!!お前のお姉さん美人過ぎだろ!!?」


ミカサのみならず、実の姉もこんな美女だとは。
思わず涙が溢れそうになったジャンは声を張り上げる。


「何だよ、姉ちゃんはやんねーからな」


ぎゅう、と実の姉を抱きすくめるエレンに、名前は苦笑を浮かべながらその腕を優しく叩いた。


『苦しいよエレン』


「あっ、ごめん…そういえば姉ちゃん、どうしてここに?」


『折角の非番だったし、卒業おめでとうって、まだ言ってなかったからね』


エレン、ミカサ、アルミン、卒業おめでとう


そう言って笑った名前に、3人は顔を綻ばせる。


「へへ…あ、非番なんだよな?じゃあ午後一緒に出掛けようぜ!ミカサとアルミンも一緒に!」


『いいよ。久しぶりに皆で出かけようか』


「!行く」


「久しぶりだなあ、名前さんと一緒に居れるの」


ほのぼのとした雰囲気を醸し出す4人の周りでは、未だに信じられない、と言わんばかりの声が上がっていた。



(あ、貴方、サシャ・ブラウス?)
(は、はいっ!)
(キース教官から聞いたよー、芋食べてたんだって?)
(やはり食べ物は美味しいうちに食べないと…!)
(うんまあ、作り立てが一番おいしいけどね)
((教官…サシャのこと話したのか…))
(名前副兵長…)
(惚れたかベルトルト?)
(うわー!エレンの姉ちゃん副兵長だったのか!すげー!)
(なかなか可愛いじゃねえの。ま、クリスタには敵わねえけど)
(副兵長…綺麗な人…)
((スルーか))


エレン中心訓練兵…エレン中心…じゃないですねこれ…
思いのほかジャンベルライの件が長くなってしまいました…申し訳ありませんんん!!
でも悔いはありません…欲を言えばもっとエレンにお姉ちゃん大好きオーラをふりまかせたかった…「姉ちゃん姉ちゃん」言ってるエレンが書きたかった…(この時点で悔いありますね(笑))
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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