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  愛してるから結婚しよう



カリカリと万年筆のペン先が書類を引っ掻く。
速乾性ではないそれらでほかの書類を汚さないようにちゃんと乾かしてから重ね、とんとん、と机の上で数十枚のそれらを揃えたところで、誰かが扉をノックするのが聞こえた。


『どうぞ』


「やあ名前」


『、ハンジさん』


どうかしましたか?と首を傾げる彼女に苦笑を浮かべたハンジ。
苦笑を浮かべた、ということは巨人関係ではないのだろうと判断した名前は無意識のうちに発動していた黒い靴を解き、お茶を淹れようと立ち上がる。


「あぁ、いいよ、ちょっと来てほしいところがあって」


『、来てほしいところ?』


そう言われてハンジについていった先は食堂。
心なしか扉の向こうから殺気が飛んできているような気がしてならないが、それにしては静まり返っていて、開けるに開けられない。
本能に従って扉を開けようとしたい名前の代わりに、無情にもハンジが扉を開いた。


「だから!俺が一番名前副兵長の事が好きだって言ってるじゃないですか!」


「あぁ?寝言は寝て言えこのクソガキ」


「あなたはチビ…」


「そうか…そんなに削がれてぇか」


ゴゴゴゴゴゴ…という効果音が似合いそうな空気を纏ったのが3人、エレンとミカサとリヴァイが何やら言い合っており、その中に自分の名前が含まれているのが聞こえた。
一体なんの話を、と怪訝な表情を浮かべた名前は、彼らの会話を聞いて目を見開くことになる。


「名前副兵長の涙目は滅茶苦茶興奮する!」


「細いわりに胸がある」


「実は寂しがりや」


「寒さに弱い!」


「寝るときは小袖」


「パンツとブラは基本セットもの着用」


『…………』


見たのか!?
お風呂入るときに、見た
何見てんだテメェ…!
ユミルは触ってた
ユミルてめぇぇぇええええ!!


そんな会話が繰り広げられているのを、ただ名前は茫然として見ることしかできなくて、隣に立っていたハンジがおーい、と彼女の目の前でひらひらと手を振った。
名前はそれに反応を示すのではなく、ただ静かに、あの、と小さく声を漏らす。


「何だい?」


『あの3人…一体いつから…』


「ううん、もう1時間くらいかな。周りの兵士も気まずくてて仕方ないだろうから名前のこと呼んだんだよ」


『そうですか…』


はあ、とため息をつく彼女の顔は赤い。
自分のいないところでこんな、まるで自分のプライベートを話されているような状況では誰だって恥ずかしくなるだろう。
片手で顔を隠しながら足早に彼らのもとに向かう名前の背中を見送って、未だ食堂に残っている兵士たちにハンジが言う。


「そろそろ戻ったほうがいいんじゃないかな、まだ知りたくないこともあるだろう?」


「「「……」」」


なんなんだ、知りたくないことって…!


ハンジのその一言がとても気にはなったが、名前が渦中の人物に駆け寄っていくのを見て、確かに何か起こりそうだ、と自己完結した兵士たちはさっさと立ち去ったハンジを追うように食堂を後にしていく。
かつんかつんっ、とブーツの音は響いているというのに全く気付く気配を見せない3人に呆れながら、口を開こうとしたリヴァイのそれを背後から塞いだ。


「……」


「あっ、名前副兵長…」


「名前さん」


『もう、恥ずかしいでしょ…』


ふう、と顔を赤らめながら困ったような表情を浮かべる名前を真正面から見たエレンは悶え、ミカサはひたすら心の中で「(名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さん可愛い名前さんかわ(ry))」とエンドレス。
名前に口を塞がれていたリヴァイは彼女の手を外し、背後に立っている彼女を不満そうな表情のまま振り返った。
リヴァイのすぐ後ろに立って口を塞いでいたので、振り返った彼と彼女の顔は近い。


「いきなり口を塞ぐな」


『リヴァイさん達があんなこと言いあってなかったら塞いでなんかいません』


「あんなこと?」


『ああもう…さっき言いたい放題言ってたじゃないですか』


名前は鈍い鈍いと言われているが、流石に自分の名前が出ている会話が自分のものと無関係であるだなんて判断をするほどではない。
彼らのせいで赤みの引かない顔が、思い出したせいでさらに赤くなる。
そんな名前にふっ、と笑ったリヴァイは彼女の赤い頬に手を添えた。
ぴく、と小さく反応したものの、リヴァイの手はそれを無視するかのように頬から首、肩、背中から腰へと滑り、『え、あ、ちょっ、』と言葉にならないそれを発することしかできない名前の腰を引き、自分の隣に座らせる。
そんなリヴァイの行動に目を細めたミカサは、彼を咎めるような声色で言う。


「セクハラもいいところ」


「は、じゃあ普段こいつに抱き付いて匂いを嗅ぎまくってるテメェの隣にいるのはどうなんだよ」


リヴァイの言葉にはねるエレンの肩。
どうやら自覚はあったらしいが、まさか自分にその矛先が向けられることになろうとは。
エレンが言葉を発しようとするものの、その前にミカサが口を開く。


「エレンは良いの、将来名前さんは私とエレンと結婚するから」


『は?』


「ミカサ!?」


「本当は名前さんは私一人で独占したい…でもそれじゃあエレンは幸せになれない。だから私は考えた。名前さんと、私とエレンが結婚すればいい」


カッと目を見開いたミカサ。
とても冗談を言っている顔ではない、彼女は本気だ。
まさか自分のいないところでそんな話が進んでいるとは思わなかった名前はぽかーん、と目の前にいるミカサを呆然と見やる。
そんな名前の隣にいるリヴァイはミカサの言葉を鼻で笑い、未だ呆然としている名前を引き寄せてそのまま抱き締めた。


「ちょ、リヴァイ兵長!!」


リヴァイと名前の取り合いをしていた2人がそんな彼の行動に目くじらを立てないわけがなく、エレンもミカサもリヴァイを睨み付ける。
2人の鋭いそれを平然として受け止めるのはやはり人類最強というかなんというか、とそんなことを思いながらリヴァイの腕の中でもぞもぞと動けば、まるでそれを制するように強まる彼の腕に名前は少し苦しそうに顔を歪めた。


「残念だったな。こいつはもう俺のもんだ」


なあ、そうだろ?と耳元で囁かれる低く、甘さを孕んだ声。
それだけで、かああ、と顔に熱が集まるのが分かる。


『(あぁもう、この人は何で…)』


何も言わず顔を真っ赤にしてうつむいてしまった名前。
それが一体何を意味するのかが分からないほど、エレンもミカサも鈍いわけではない(エレンに至ってはちょっと前までにぶちんと罵られていたが)。
エレンはそんな…と悲しさを滲ませた声で嘆き、ミカサはよくも私たちの名前さんを…!と背後に凶王をちらつかせながらリヴァイをすさまじい形相で睨んでいた。



(名前副兵長、リヴァイさんと付き合ってるんですか…?)
(え、あ…うん、一応…)
(…名前さん、エレン、安心して、)
((?))
(名前さんをたぶらかしたあのチビに制裁を、私がこの手で…!)
((ミカサちゃん…目がマジだ…))
その後、時折新兵二人と兵士長がやりあっている光景が見られたそうな


エレン&ミカサVSリヴァイでした。
…口喧嘩って難しいですね!←
本当はもっとアカンことも言わせようかとも思ったんですけど(いやいやいやこれはR指定ないやつ!)と自制したら案外普通の内容になってしまいました…ギャグとか書くのが上手い方は一体どうしてるんでしょうか…あの表現力を分けていただきたいです。
リヴァイ落ち、ということですでにリヴァイと名前が恋仲設定でした。
リクエストに添えているか不安ですが、宜しかったらどうぞ!
50000hit企画参加ありがとうございました!
これからも嘘花をよろしくお願いします^^*

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