小説 | ナノ


  赤に濡れた白



※ブルーマーズ戦後

がちゃり、と扉が開く音がして、渡久地が帰って来たことを知らせる。
調度夕食を作り終えた名前はシチューを温めていた火を止めて、ひょこりとキッチンから顔を出す。


『おかえり』


「…ただいま」


おや、何か不機嫌


表情に出さないようにしてはいるのだろうが、1年も一緒に居ればどんなに些細な変化でも気付ける。
いつもよりも声色が不機嫌なように聞こえた名前だったが、あえて触れないことにする。
何かして欲しいなら渡久地のほうから動いてくれるからだ。
渡久地自身の時は勿論、名前が不安定なときも。


『ご飯もう食べれるけど』


「…こっち先な」


リビングのソファにどかっと座った渡久地の傍に、エプロンを外して椅子に引っ掛けた名前がスリッパを鳴らしながら近付く。
ぽんぽんと隣を叩かれて其処に腰掛けるが、直ぐに渡久地の細いながら鍛えられた両腕に身体を捕らえられる。
彼の足を跨ぐように座るけれど、背もたれが邪魔で足が窮屈だ。
もぞもぞと動いていると渡久地がそれに気付いたのか、背中を背もたれではなく、肘置きの方に向けて長い足をソファに投げ出す。
両腕を彼女の背中と腰に回して自分に密着させる。
渡久地の顔は見えなくなり、彼の肩越しの見慣れた部屋しか見えない。
背中に回されている腕によって上手く動かせない腕は彼の白いYシャツを軽く握り、自由な方の手で綺麗な金髪に触れる。


『(何かあったのかなー)』


そうは思うけれど、詳しくは聞かない。
きっと今日のブルーマーズ戦のことだろうと予想がついたからだ。
あの試合、いつも通りスタジアムには行かずにテレビの生放送で見たけれど、どうも動きが怪しかった。
一体何故と聞かれたならその原因は答えられないだろうが、渡久地がこんな状態なのだ。
恐らくあの違和感は気のせ、


『っひぁっ!』


べろり、と肩から首を舐められる。
Vネックのカーディガンは肩口が広かったため、渡久地が顔を埋めている首筋は肌がむき出しだ。
彼女の肌色が先程よりもほんのりと色づいたように見えるのは、多分気のせいではないだろう。
一度離れようと足に力を入れようとするが、がっちりと腰をホールドされているのでそれは叶わない。
背中に回されている腕により、上半身さえ離すことが出来ない。


『、ん…ちょっと、東亜…っ』


「動くなって」


『ふっ…ん、くっ…』


ぢゅう、と吸い付かれたり、甘噛みされたり。
ちゅくちゅくと、まるで深くキスされているかのような音を首筋と言う耳の近くで出されては堪ったものではない。
自分の体温がぐんぐん上昇していくのを感じつつ、名前は渡久地のまるで焦らすような愛撫に耐えた。
びくり、と反応するのに気がよくなったのか、更に刺激を強くしてくる。
それが一体何分続いただろうか。
最後にちりっ、と鎖骨に吸い付くと、漸く渡久地の腕から解放される。
長かった、と熱の篭った息を吐き出した名前は、ほんの少し気だるさを孕んだ身体を動かして渡久地から離れる。
機嫌はすっかり良くなったのか、帰って来た頃の不機嫌さは無く、僅かに口角が上げられている。
安堵の溜息を漏らし、キッチンに向かえばシチューが少し冷めてしまっていたので、ピ、とIHのボタンに触れた。


「くくっ」


『、?』


「首、真っ赤だな」


『!東亜がやったんじゃないか…!』


くつくつと笑いながら首と肩を指差されて、恥ずかしさがぶり返す。
渡久地の視界に入らぬようにと手で覆い隠そうとして触れた瞬間。
その場所が僅かに湿っているのを感じると、余計に顔が熱くなった。



(林檎みてー)
(!、っ…暫く首出せない…)
(見せ付けてやればいい)
(無理だよそんな恥ずかしいこと…!)
((牽制も込めているのに絶対気付いてねーだろうなぁ…))



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