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  触れる理由



班全体の訓練を終えたリヴァイ班は、旧本部で休憩をしていた。
名前とペトラが入れた紅茶をそれぞれが飲み、ほっと一息ついていた時。


「名前さーん!会いに来たっスよー!」


「来たなこの犬野郎」


「げっ、兵長はお呼びじゃないっス!」


ばーん!、という効果音が似合いそうな勢いで彼らのいる部屋に入っていたリョウは、向こうにいたころと変わらない格好をしていた。
ハンジやリヴァイの様に調査兵団の服ではなく、白衣を身にまとっていて。
何だか自分だけがこちらに馴染んでしまったような錯覚に名前は陥った。
ぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた(リョウが一方的だが)2人を止めることなく彼らの姿をぼんやりと傍観していた名前に、エレンが控えめに声をかけた。


「あ、あの、名前副兵長…」


『ん?』


「止めなくていいんですか、あれ…」


『んー…向こうみたいに薬品とか武器が飛び交うわけじゃないからなあ…』


や、薬品っ…!?武器!?


彼女の言葉にどこか顔色を悪くしている一同は目に入らないらしく。
ふう、と手に持った紅茶を冷ましながら、名前は小さく口を開いた。


『リョウ、』


「っはいっ!」


なんスかなんスか!!と嬉しそうに名前のもとに駆け寄っていくリョウはまさに大型犬で。
目の前にいたリヴァイなどすでに眼中にないと言わんばかりの勢いで彼女のもとに行ったリョウに青筋を立てたリヴァイ。
リヴァイ班の面々はリヴァイの背後がどこか黒いのに怯えつつ、名前の太ももに両腕と頭を載せてごろごろと幸せそうな表情をしているリョウを恨めしそうに睨んだ(睨まれている張本人は全く気付いていないが)。


「名前さんを補給―…」


『ふふ、お疲れ様』


くしゃくしゃ、とリョウの短めの金髪を撫でたのち、手櫛で乱れてしまった髪を整える。
名前の白く細い指が梳く金髪も美しく。
名前はもちろんの事、リョウの顔も整っているため、リョウが大人しくしていれば二人は酷く絵になった。
それを傍から見ているリヴァイもエレンも面白くなく、黒い何かを纏うのが増えたことに彼らは各々の反応を見せる。


「…一抜けた」


「ちょ、オルオ!?」


ペトラの声にひらひらと手を振ることで答えたオルオ。
彼女に戻ってこいとかではなく「リヴァイ兵長のまねしないで!!」と怒鳴られていたのは仕方ないと諦めるしかない。
エルドとグンタはそんな彼らを見ていることが楽しいのか、にやにやと笑みを浮かべながら彼らを見ていた。


「いいじゃねえか、若いんだから」


「(兵長はそんな年じゃねえけどな…)」


心中でそんなことを思いながら、彼らは未だ膠着状態の4人に視線を向けた。
リヴァイとエレンに見られている名前は首を傾げ、リョウの顔はだらしなくゆるみきっているが。
いい加減名前からリョウを引きはがそうと口を開こうとしたリヴァイを遮るかのように、リョウが口を開いた。


「そういや思ってたんっスけど、」


『ん?』


「立体機動のベルトって、エロいっスよね」


『「「………は?」」』


リョウの言葉にその場にいた彼らの声が一致する。
まさかそんな真顔でそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
あっ、と焦ったように口を開いたリョウは、名前ににっこり笑む。


「俺が見てるのは名前さんだけっスから!勘違いしないでくださいっスね?」


『あ、うん…』


「なんかその反応微妙!」


うえーん、と自分の太ももの上で泣き始めた彼の頭を複雑そうな表情を浮かべながら撫でていたが、突如蹴りだされた足によってリョウの体はあっけなく名前から離され吹っ飛ぶ。
おぉ、と感心したような声を出した名前にリョウが再び飛びつかないよう、リョウと名前の間にエレンがガルルッ、と立ちはだかった。
2人の息の合った連係プレーに思わず拍手を送りたくなった一同は、犬がもう一匹…とエレンを見やる。
リヴァイのほうは恐ろしすぎて見ることができない。


「テメェ…名前にくっついた揚句にあいつのズボンを汚すたあどういう了見だ?あ?」


「いってぇな…!俺と名前さんがどうしようが関係ないでしょうあんたには!」


「関係ないだと?」


ほう、と口角を上げたリヴァイに、流石のリョウも背筋が凍る。
あ、この笑い方どっかで…と意識を飛ばしかけたリョウの襟を掴み、自分よりも大きな彼をずるずると引っ張ってその部屋を後にした。
あ…という名前の小さな声は届かず、リョウがくっついていたところに今度はエレンがくっついていた。


『、エレン?』


「リョウさんばっかりずるいです…」


俺だって名前副兵長とくっつきたい、と拗ねたような表情を浮かべて彼女を見上げるエレン。


「(あざとい…)」


「(あざといわね…)」


「(近頃の若いもんはすげえな…)」


傍観者3人がそんなことを考えている傍で、名前はこちらを上目づかいで見てくるエレンにきゅんとする。
狙ってるのかな…とは考えていても、エレンの可愛さに負けて、ほんのりと頬を染めながらエレンの少し硬めの髪に指を通していたら。


「どけ、エレン」


「ぐへっ」


ばきっと今度はエレンを蹴り飛ばしたリヴァイ。
痛そうな頬をさすりながらリヴァイを恨めしそうに見上げるエレンに、リヴァイがハンジが呼んでるという旨を伝えると、彼は椅子に座ったままの名前の腕をつかんでその部屋から退室した。


『り、リヴァイさん?』


「黙ってろ」


何だかとても機嫌が悪いようだ、と彼の言うとおりに口を噤む。
そのまましばらく歩き、辿り着いたのはリヴァイの自室で。
中に引きずり込まれるように一緒に入った名前はリヴァイにギュッと抱き込まれ、そのまま二人でベッドに倒れこんだ。


『、?』


「…癒せ」


『癒す?』


だったら一人で寝たほうが、と身じろぎした彼女の動きを封じるように、リヴァイの腕の力は強まる。
若干苦しそうな表情を見せた名前にむすっとした表情を向けた彼は、彼女の首筋に顔を埋めて深呼吸をした。


「一緒に寝ろっつってんだよ」


そのリヴァイの言葉に小さく笑った名前は、自身の細い腕も彼の背中に回して、少し強く抱きしめて目を閉じた。



(触れ合いたいと思うのは)
(生きていると実感したいから)
(君に触れたいと思うのは)
(君が特別な人だから)
(この想いもすべて)
((すべて、届けばいいのに))


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