いらいらする。伊作の不幸っぷりを見て笑えない程、俺は機嫌が悪い。何をそんな苛々しているのだ、と問われた。そんなの俺にも分からない。逆に問いたいほどだ。でも、1つだけ確かな事がある。

「…何だ」
「別に何でもねーよこっち見んな」
「お前が見てくるからだろ。集中出来ねぇ」
「あっそ」

このおっさん面をした潮江文次郎を見ていると苛々するのだ。でも、文次郎を見ていると、苛々と同時に心が満たされるような、そんな感じがする。それに、近付くだけで痛い位に心音が跳ね上がる。顔に熱が集まる。意味不明な現象だ。文次郎だけにしか起こらない。だから尚更苛々する。

「あーうぜー何なんだよ文次郎ー」
「お前が何なんだよ南。不機嫌な顔したり赤くなったり。風邪でも引いてんのか?」
「…引いてない」
「なら良いんだけどな。風邪でも引かれたら困る。」

困るって、なに。なんで俺ちょっと嬉しくなってんだよ。ほんと自分が分からない。
俺がこんなになってんのはお前のせいなのに。もう、頭がパンクしそうだ。何で、とか。嬉しい、とか。もう、飽和状態だ。

「お、前のせいだ…!」
「あ?なにが?」
「だって、お前見てると苛々するけどなんかドキドキするし、目ぇ合うと嬉しいとか思っちゃうし、近くに居ると頭ん中がごちゃごちゃになって、自分が、意味分かんなくなる…っ」

俺、すげかっこ悪い。多分真っ赤な顔して涙目で、思ってること全部吐き出して。文次郎はぽかんと俺を見ている。俺は恥ずかしくて情けなくて俯いた。

「それ、お前…まさか、いやそんな事は…」
「まさか、何だよ」
「いや、ありえねぇ…」
「いいから言えよ!」

俺が怒鳴り気味に促すと、文次郎は半笑いで冗談めかして言った。

「お前、俺の事、好きな訳じゃねぇよな?」

だよな、と言いながら、笑う文次郎を凝視する。更に、身体が顔が熱くなっていく。まさか。でも。南?という文次郎の問いかけに、跳ねるように立つとそのまま全速力で部屋を出た。背後から引き止めるような声が聞こえた気がしたけど、それどころではない。

俺は、俺は…

「文次郎が、好き…?」

高鳴った心音が、頷いているように思えた。



ショック!ショック!ショック!


提出:七瀬さん




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