ばれた、ばれてしまった。
胸の最奥に隠していたものをいとも簡単に暴かれてしまった。私の秘密を暴いた人は、どこか困ったように眉を下げ、静かに私を見つめている。対する私は大層間抜け顔をしていることだろう。沸き立つ感情は恥ずかしさよりも気まずさの方が勝っていた。小さな子供が、悪戯を隠して親に見つかった時のあれに似ている。

「…本当は、私が口を出すのは良くない事だと分かっていたんですよ」

お婆さん姿のシナ先生が、小さな子供に言い聞かせるように私に告げた。その瞳に私を咎めるような色はない。ただ、心配そうに気遣う眼をしていた。

「でも、貴女が今にも死んでしまいそうなくらい苦しそうで、つい。ごめんなさいね、年寄りのお節介だと思って許して頂戴」

そう言ってシナ先生は少し笑った。私はばれてしまった上に簡単にそれを認めてしまうのが何だか嫌で、無駄だというのに「嫌だ、シナ先生。何言ってるんですか」ととぼけてみせた。

「今更この年齢でなるわけないじゃないですか、私はくのいちですよ」
「南さん」

シナ先生の視線がしっかりと私を見つめる。それを見た瞬間、もう何も言えなくなってしまった。知らぬ間に手に力が入る。そうだよな、もう先生には全部ばれてるんだからごまかした所で意味ないか。息がうまく出来ない。観念した私が先生、と呼べばいつも通りに柔らかく「はいはい、何ですか」と笑って返事をしてくれた。シナ先生の皺だらけの温かな手が固く握り締めていた私の手を解いていく。彼女はもう一度私の名を呼んだ後、しっかりと私の目を見て告げた。

「くのいちだろうが、三禁があろうが、人は恋をするものよ。悪いことじゃないわ。それも、ひとつの経験だもの」
「…」
「諦めるのも諦めないのも、決めるのは貴女自身。でも自分の気持ちを全否定する必要もありませんよ」
「…シナ、先生」

だって、まさか、今更自分が恋をするなんて思いもしなかったのだ。寝ても覚めてもあの人の事を考えているなんてどうかしてる。本当はくのいちだからとか、三禁だからとかじゃなく、自分が傷付きたくないから。だから、この気持ちをなかった事にしようと思っていたのに。なのに、どうして、どうして私の心は諦めてくれないのだろう。

「一つだけ貴女に教えてあげるわ。女は恋をするだけ綺麗になるし、強くなれるのよ」

あ、ダメだ。泣く。そう思った瞬間、いつの間にかお婆さん姿から若い姿に変わった先生にぎゅうっと抱きしめられ、優しく頭を撫でられる。まるで母のような、姉のようなシナ先生の腕の中で、私はあの人を想って泣いた。



「ひとつだけおしえてあげる」


提出:トウノさん




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テーマ「人外ファンタジー」
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