今私はフリーの売れっこ忍者と呼ばれているが、独立した頃は田舎育ちに劣等感があった。それは今も同じで、よく都会的なプレイボーイのフリをした。そんな私に言い寄ってくる女は多く、若い私は好きでもない女と一夜を共にすることがしばしばあった。その一瞬の後に必ずくる空虚に私は慣れて誤魔化していた。
ある時、私はいつものように父に会うため忍術学園を訪れていた。
そして彼女に出逢った。
私が彼女を見つけた時、彼女は泣いていた。くノ一の涙を信じてはいないが、流石に泣いているくのたまを他人の目もあり放っておけずどうしたのか問うた。彼女は世話をしていた毒虫が死んだのだと、涙を流しながら言った。何故虫が死んだ程度で泣けるんだ。しかし同時に彼女の無防備な感情に誠実を感じ、その姿が綺麗で何故か心が高ぶった。
それからというもの私は頻繁に学園を訪れて彼女に会い、その謎の心の高ぶりを感じながら彼女と徐々に仲を深めていった。
彼女の卒業も間近に迫ったある日彼女は私に言った。
「利吉さん。私、卒業したら結婚するんです」
何故か胸が痛んだ。良縁だが、相手の名前以外何も分からないようだ。
「結婚は仕方ないけど、恋したかったな」
「恋…?」
そうか私は、薄情な世界の中で、純粋で美しい彼女の心に惹かれ恋していたんだ。何だか目頭が熱くなった。
「いつか君も出逢えるといいね、私が君に出逢ったように」
それが私だったらいいのに
鼓動がきみの名を
「利吉さん何で泣いているんです?」
初めての淡い恋心
提出:篠さん