面白くて走るのが速かったら、小学校ではもてもて。そんな要件に飛びぬけて当てはまるのが一人いたもんだから、女子はみんなそいつに夢中だった。名を七松小平太という。無造作に伸ばしたスポーツ刈りは襟足が程よく長くて、よくおしゃれな女子が寄ってたかって髪を結んだりとめたりしていた。そんなことをされた日には名字からもじって七子ちゃんと呼ばれてもてはやされていて、本人も七子ですわーとか言ってたからまんざらでもなかったんだと思う。

正直私的にはアウト。オカマみたいなことを言ってくねくねしてる男子なんか面白くもなんともない。もっと男らしくあるべきだと思う。その点食満くんは完璧だ。適度に焼けた健康的な肌、真面目で成績もよくて運動もできる。それから女子に媚びない。食満くん日曜日遊べる?なんて誘いは即却下。ごめん、塾あるから。キャー食満くんカッコイー。もらったラブレターは数知れず。親友の善法寺くんが留三郎はすごくもてるよとにこにこしながら言っていたんだから間違いない。
隠れファンクラブくらい発足してもいいものだが、そんなものできるはずがない。ませている小学生女子は腹の探り合いを本職とし、グループ内での好きな人被りはご法度、リーダーの子と被ろうものなら裏切り者の烙印を押されてしまうようなシビアな世界だ。
だからこの学校に食満くんを好きな人がどれ程いるかわからなかったし、探し出そうとも思わなかった。その未知数で想像しうるだけで圧倒的な数のライバルにしり込みして、私は憧れているだけだからと言い訳まじりに自分に言い聞かせていた。


「南は好きな人いるのか?」

「いませんー」

「そうか!」


だから七子ちゃんの質問にも当たり前に嘘をついたし、今思えばそれが一番よかったのだ。

私の崇拝にも似た憧れは加速していって、こんな人になりたいと食満くんを観察するだけの日々は続いた。先生にあてられたら必ず正解を答える。その正答率から先生の信頼を勝ち得ていたため、みんなが答えられないとすぐにじゃあ食満と名指しされる。一部から煙たがれることもあったが、それはそれでプラスに働いていた。はっきり言って私の中で食満くんは完璧な存在だったのだ。
ある日、課題を忘れて算数のノートを集めて先生の所まで持ってくるように言われた。もちろん食満くんに声をかけるチャンスだと浮かれていたし、こっそりノートを覗き見てできる人のノートを真似てやろうとも思った。でも、そううまくはいかないもので、先生が放課後ノートを教壇に置くように言って、食満くんと話すチャンスは奪われた。それから、課題を忘れた私は放課後最後まで残ってドリルを解いて自分のノートを山に足してから職員室まで運ばなければならなかった。先生は鬼だ。
だからなのか、ちょっと魔がさした。食満くんの完璧なノートを写してやろうと思ったのだ。さぞ綺麗なノートなのだろうと期待に胸を膨らませ開けたノートは、1と7の区別もつかない汚い文字の羅列で埋められていた。


『なんだ、』





永遠にじ込めて
食満くんもただの人間じゃん



提出:さえ



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