私はこの世界が大嫌いだった。親が、教師が、クラスメイトが、嫌いで嫌いでしょうがなかった。


当時の私は、いろんなものに反抗した。心に絡み付いたものを少しでも取り除きたくて。だが、それは暴れても暴れても振り払うことができなかった。それでもただひたすらに私は喧嘩に明け暮れた。


そんな私もたったひとつの出来事で変わったのだ。


『ねぇ、君!大丈夫!?』



ぼろぼろになって座り込んで居た私に声をかけてきた奴が居た。じんじんと、意識が遠退きそうな痛みの中で聞こえた声は私の意識を何とか引き戻した。
相手は貧弱そうな体に、女のような顔だった。そいつは私に触れようと手を伸ばしたが、私は迷わず振り払う。


『触んな』

私はできるだけ低い声でそう言って相手を睨んだ。
そうすれば、大抵の人間はどっかに消える。

今回もそうなるはずだったのに。


『嫌だよ』


そう言って相手は怯むことも逃げることもなく、私を真っ直ぐと見つめてきたのだ。私の瞳を。今まで誰ひとりとして、見なかった私の瞳を。


『怪我してる人を僕は放っておけないんだ』


そう言って優しく笑った相手に私の胸が高鳴った。まるで全身が沸騰しているんじゃないかというぐらい熱くなる。それは今まで感じたことのない感覚で、私は戸惑った。
だが、そんな私のことなど知る由もない相手はまた笑って言った。

『僕は三反田数馬っていうんだ』


世界が好きになった瞬間だった。










「三反田ー」
「あっ!!南ちゃん、また怪我してる!!」
「あぁ、こんなの傷のうちに入らないよ」
「入るの!!」

あれから半年。私は三反田と同じ高校に通っていたらしく、しかも同じ学年だった。


「三反田は細かい」
「南ちゃんが雑すぎるの!はい」

せっせと私の手当てをする三反田。あの時と変わらない彼の優しい手に触れる度に私の胸は高鳴っている。

「女の子なんだから傷ばっかり作っちゃだめだよ」
「はいはい。三反田は心配しすぎ」

心配してくれるの好きだけどさ。

「するに決まってるでしょ…好きな人なんだから」
「え?」


私はぽかんとしていたに違いない。彼はいつものように優しく笑って、手当てをした箇所に小さく唇を落とした。


「僕の初恋、もらってくれませんか?」



あまりにも急な展開に私はしばらく固まった。そして絞り出すように、私の初恋でもいいなら、と顔を真っ赤にして言ったのだった。



いずれはきみと

(名前を呼び合う関係になるまであと少し)


提出:狂太さん



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