それはあまりにも一瞬で。

ガラス玉を通してみた景色も定かではなかった。

窓からは夕日がこぼれでている、なんてロマンチックな教室だったけど、そんなの私には関係ない。

離された唇の先にいたのは他でもない、友人の鉢屋三郎だったのだから。

固まる、固まる、固まる。

私にはただ固まる事しかできなかった。
友人からの突然の口付けは私にそれほど大きな衝撃を与えたのだ。
それから果たして何分たっただろうか、鉢屋は私に何も告げずに教室をさっていった。

何も告げずに。

仮にも人のファーストキスなるものを奪ったのだから何か一言くらい言っていってもいいくらいなのに鉢屋ときたら無言でさっていったのだ。

何考えてんの、あいつ。

それが口付けをされてから私が最初に思った事だった。

それからはもう悲惨な毎日。鉢屋に話しかけようとするものの、避けられるわ、1日前までよく話す仲だったというのに目さえ合わせてもらえないわで。
鉢屋がそんな態度なものだから当然、突然の口付けの理由なんて聞けない。
そんなこんなで頭を悩ませ続けて早数年。

私達はとうとう一言も話さないまま、高校2年生となってしまった。
しかし、年月が年月なので夜眠れなくなるくらいまで悩み続けるとか、そういうのもなくなって今ではこんな事もあったっけくらいの思い出の出来事となっていた。

あの出来事はまだ少しのモヤモヤした何かが残っているものの、私はかなり割り切る事が出来ている。

いや、出来ていたっていうのが正しいか。

「なぁ、」

今、私に話しかけてきたのは私のファーストキスを奪ったあげく、私を無視し続けた鉢屋三郎だった。

今頃何のようだ。

それが私の正直な感想だ。

「何…鉢屋くん…」

私が仏頂面で返した返答に鉢屋は悲しそうな顔をした。
"鉢屋"昔は確かにそうよんでいたのだ。
だけど今はこの名前のあとに"くん"と敬称をわざわざつけている。

それは私達の数年間の溝が生んだ結果だった。

もうもとには戻らない、という私の意思でもある。

だからいくら鉢屋が傷ついた顔をしたとしてもこれはどうしようもないんだ。


私だって鉢屋と同じ気持ちだった。

初めての口付けが鉢屋で嬉しかったんだ。鉢屋が好きだったんだ。

だけどそれだけ。

まだ幼い私達には恋愛なんてうまくいくはずもなくて、お互い素直になれなかった。


「そんな顔しないでよ。鉢屋くん」

二度目の敬称。
頭の良い鉢屋ならきっとわかってくれたはず。
もう私とあなたはただのクラスメイトだって事を。

ごめんね鉢屋、もう昔の私はここにはいないんだよ。
ここにいるのは今の私。

だからさようならだ。

鉢屋、いや、鉢屋くん。


逃げ出したその先へ



(私達の初恋は終わりを告げました)

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素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!


提出:こけしさん



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