歩き続けて足が痛い。叫びすぎて喉が痛い。この先にある茶屋で一休みしていこうか。いつも迷惑かけられてんだ、少し位見つけるのが遅れたって構わないだろう。たまには焦ればいいんだ、と頭の中で呑気に笑うあいつらに悪態づきながら暖簾を潜る。
「いらっしゃいませーこちらのお席に…」
声をかけてきた店員と目が合った瞬間、お互いに固まった。暫し見つめあった後、恐る恐る口を開く。
「南…か?」
「もしかして…作ちゃん?」
予想は的中した。茶屋の看板娘は、幼い頃よく遊んだ仲良しの女の子だった。突然決まった引っ越し以来、もう会う事は無いと思っていたあの子が、今俺の目の前にいる。昔と同じ様に俺を見上げて、嬉しそうに笑いながら話しかけてくる。
すっかり女らしく成長しているってのに、こんなにもあの頃の面影が残っているなんて。心臓をわし掴みにされるような錯覚に支配されて、こいつから目を逸らす事ができない。
おかしい。こいつにこんな感情を抱くなんて有り得ない。だって、俺はあの時ちゃんと決別したんだ。もう会えないから、思いが叶う事はないから、いつまでも縋るわけにはいかないと。そうして俺の幼い恋心はあの日、
綺麗に死にました
死んだはず、だったのに、何で、
提出:壱也さん