「完成した・・・やっと完成したぞ!!!」

大きなカプセルの中に入れられた見るからに人間だと感じさせるような物体。
それが後の土方十四郎という名のロボットだった。



「あれが高杉晋助だ。あいつがお前の面倒を見てくれるようになるだろうよ」

最初に見た時から衝撃が走った。
あの人は自分の思う道を誰にも邪魔させない力をもって前に進んでいた。
上司にもたまに偉そうな口をきくし、自分が納得しなかったら上司でも関係なく意見をずばずば言って。
俺には出来なかった。”上司に反抗する”なんてプログラムは入れられていなかったから。

人間と俺はそう変わりはないと思ってた。むしろ自分のほうが優れているのではないかとすら思ってた。
でも、高杉さんを見てから、その考えは変わったんだ。

―人間と俺は全く違うじゃないか。

自分の思ったように動く。そんなこと俺には出来ない。
結局は人に命令されないと何をすればいいのか分からない。
その時悔しくて涙が出るということを初めて知った。
人間にもこういうことがあるのだろうか。
人間が、羨ましいと思った。


「俺は高杉晋助。てめぇの名前は?」
「土方十四郎です。よろしくお願いします」

胸が高鳴った。体が熱くなっていくのが分かった。
俺もこの人のようになりたい。
そしたらもっと人間に近づけるような気がしたから。
心の底では人間になれないことは分かっていた。
でも、この人の隣りを堂々と歩きたい。そう強く思った。


けど、そううまくはいかなかった。

急に高杉さんが苛苛し始めて。
原因はきっと俺にあるのだろうけど何故怒っているのかさっぱりわからなくて。

「ロボットが人間のこと分かったような口きくんじゃねぇよ!!!!!」

―あぁ。やっぱりそうだよね。

壁を感じた。
高杉さんは俺のことを只のロボットにしかみていないんだ。
当たり前のことなのに、何を期待していたのだろう。
お風呂場に向かった高杉さんの背中を見つめながら、俺は沢山沢山涙を流した。
この締め付けられるような感覚はなんだろう。
苦しくて、苦しくて。
追い討ちをかけるように高杉さんは、俺を壊そうとした。
高杉さんの体の一部が俺の中に入ってきて、何度も打ち付ける。
どうしたらいいのか分からなくて、高杉さんが止めるまで只々我慢し続けた。
高杉さんの行動は理解できなくて、怖くて。
体は震えて咄嗟に高杉さんの手を引っぱたいてしまった。
けど本当はあの時、あのまま壊されてもいいかななんて思った。
どうしてあんなことをしたのかは分からないけど、高杉さんになら・・・って。
それを伝えようとしたんだけど、すぐに高杉さんは布団に入って喋らなくなってしまった。
この気持ちは一体なんなんだろう・・・?



***

「っつ・・・・!」

一瞬気を失っていたのか、目が覚めると体中が少し痛い。そして重い。
体を動かそうとしても動く気配はなかった。
自分の上に土方が覆いかぶさっていることに気がつく。

「土方・・・・?」

呼んでみるが返事は無い。
霞んでいた景色がだんだんと見え始める。周りは落ちてきた壁などでいっぱいだ。助かったのが奇跡に近い。

「土方、おい、土方!!」
「高杉・・・・さん?・・・良かった。怪我はないですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「でも、顔に傷が・・・」
「こんなの怪我のうちにはいらねぇよ。それより―」

お前の方こそ大丈夫か?そう言おうと土方を見て驚く。
土方の片腕は粉砕しており、体もボロボロで顔の一部は塗料も剥がれ金属が向きだしになっている。

「お前・・・体がっ・・・!」
「はは、もうこれは修正不可能かもしれません」

どうして、こうなってしまったのだろう。
あの時自分が意地になって勝手に飛び出したりしなければ今の状態ではなかったかもしれないのに。
悔やんでも悔やみきれない。

「そんな悲しい顔しないでください。直ぐに新しいロボットが配属されますから」
「どうして、お前は・・・」

そうやっていつも笑ってられる。苦しいはずなのに。もう自分はいなくなってしまうのかもしれないのに。
俺には出来ない。お前は俺なんかよりずっと人間らしい。

「でも、最後に高杉さんを守れて良かった・・・」
「っ・・!!」

土方の笑顔はいつもみたいな偽りの笑顔ではなかった。
本当に、守れて良かったと、心から思っているようなそんな表情。
その笑顔をみた高杉は痛みに耐えながらゆっくりと土方の頬に手を寄せる。

「俺はとんだバカ野郎だ。人間じゃなくて、ロボットなんかを好いちまうなんてよ」

そう言って土方の唇に口付けた。

「高杉・・・さん・・・?」
「なぁ、『セックス』って意味分かるか?」
「せっくす・・・・?」
「昨日の夜俺がお前にしたことだ。・・・これは好きな奴にしかしねぇ。まぁ、愛情表現、だな」
「愛情・・・表現・・・」

段々と理解してきたのか、土方は顔を赤くさせ高杉を見つめる。

「あれは、愛情表現だったんですか・・・?」
「そういうことだ。最初はただ好奇心でやったつもりが、いつの間にかお前をもっと触っていたいと思うようになった」
「ヘンタイ、ですか」
「なんとでも言いやがれ!・・・・・ごめんな。謝りたいことは沢山ある。こんな時にならないと俺は素直になれないのかと思ったら悔しい。もっと、早く言いたかった」
「高杉さん・・・・泣かないでください」
「泣いてねぇっ・・・!」

高杉は泣き顔を見られたくない思いと愛おしい思いが交ざり、土方を強く抱きしめる。
体温の無いひんやりとした体を、強く強く、抱きしめる。

「”好き”という気持ちはこんな感じなんでしょうか。とても、心が温かい・・・・」

片手が壊れてしまった土方は動くこともできなかったが、幸せそうに高杉に身を寄せていた。

「俺は、人間が、高杉さんが羨ましかった。けど、俺がロボットだからこそ高杉さんを助けられた。初めて、ロボットで良かったと思いました。そして、こんな俺を好きだと言ってくれて、本当に、嬉しか・・・・った・・・・・・・・・」
「土方・・・・?」
「俺・・・・・も・・・・たかすギさんのコトガ・・・・スキ・・デ・・・」

声が段々と機械が話しているような声に変り、瞳も薄汚れ、人間よりも機械に近い姿に変わっていく。

「モウ・・・アエナク・・ナル・・・・カナシ・・ト・・オモウ・・・」

土方の背中からシュウウッと煙が出始める。
もう限界が近い。

「おい、しかっりしろ!」

なんどもそう叫ぶが、もう土方が言葉を話すことはなかった。

「高杉―!土方―!中にいるのかー!?いたら返事しろー!!!」

同僚の声だ。助けにきたのだろう。高杉は大きな声で返事をした。
その声に気付いた同僚達が、高杉がいる場所へ近づいてくる。
そして同僚の声を聞いて安心した土方は高杉に微笑む。

「サヨウナラ」




***


「第2号のロボットが完成し、今日から俺達の課に派遣された。またお前に任せたいのだがいいか?」

第2号と呼ばれたロボットは第1号である土方十四郎と姿形がうり二つだった。
第1号が壊れてしまったが、まだ生きていたパーツは第2号に使うことにした。
その為第1号の意思が少しだけ残った状態になっているらしい。

「・・・なんでまた俺なんすか」
「・・・こいつがな、お前が良いって言うもんだから」
「土方十四郎です。よろしくお願いします」

―名前も同じなのかよ。

見た目は変わらない。
でも高杉は全く違うものとして見ていた。
あいつはあいつでしかないと。
代わりなんて出来る訳が無い。



そしてまた、”土方ではない土方”との同居生活が始まった。

「家事は全て俺にやらせてください」
「あぁ」

前にも聞いた、この言葉。
でも、言っているロボットは違うロボットだ。

「高杉さん」
「あ?」

土方は正座をし、真剣な顔で高杉を見る。

「俺は、前と同じように作られたロボットだけど、前の俺とは違います。けど、前の俺が今の俺の中にいる事も事実です」
「・・・・・・・」
「なにかを感じるんです。高杉さんの隣りにいると、安心します。これはきっと、前の俺から引き継がれたものなんだと思います」
「・・・・・・」
「俺は、前の俺じゃないけど、それでも俺はだめですか?」

高杉にも感じていた。今の土方の中に、前の土方がいると。

「・・・・なんか、ややこしいな」
「ですね」

そう言って二人は笑いあう。

満点の星空の下に照らされた影二つ。
その二つの影が一つに重なり合った。









END
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あとがき。
いろいろ突っ込みたいとこはあるとおもいますがスルーしてくだされば嬉しいです(苦笑)
やはりスランプした後の作品はどうもね・・・;




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