「こいつ、人間じゃなくてロボットだから」

これはどういう意味なのだろうか。
ロボットみたいに何でも従うという意味か、それとも本当にロボットなのだろうか。

「だからたまに充電きれたりするから気をつけろよ」

応えは信じたくないが後者だった。人間が充電なんてするはずが無い。休むという意味が充電なら話は別だが。

「つまりは電気で動くロボットってことっすか・・?」
「そういう事だ」

まじまじと土方と呼ばれているロボットを見る。
どう見ても見掛けは人間だ。しかし、最初に感じた違和感はそういう意味だったのか。
変に納得してしまった高杉は、あまり深いことは考えないことにした。

「よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げた土方を高杉は黙って見つめることしか出来なかった。

「あぁそれと」
「まだなにかあるんですか・・?」

半分嫌気が差してきた高杉に追い討ちをかける言葉が飛び出す。

「お前一人暮らしだろう?コイツと一緒に同居してな」
「はあああ!?!?!?」

流石にこれには反対だ。元々一人が好きだった高杉は高校の時から家を出ていた。
一緒に仕事をするというのも我慢していたのにこればかりは我慢できない。

「意味わかんねぇっす。なんでこいつと一緒に暮らさなきゃいけねぇんだ!!」

興奮しているせいか相手が上司ということも忘れて叫ぶ。
それをまぁまぁと諭しながら高杉を落ち着かせようという上司。

「決まったことは仕方が無い。じゃぁ、頼んだよ」

ポンと高杉の肩を軽く叩くと二人を置いて上司は消えていった。
唖然としながら上司の背中を見つめる。

―最悪だ・・・


新人の世話も仕事のうちだと心に何度も唱えて土方に基本的なことを教えていった。
やはりロボットの所為か飲み込みは早い。
一度言ったことは忘れないし、反抗したりもしない。案外人間より世話は楽かもしれないと思いつつ、仕事も終わり高杉と土方は家路に帰ることにした。

「俺んちここだから。合鍵は明日作ってくる」
「すいません、ありがとうございます」

2階建てアパート。その201が高杉の家。
とりあえず家にあがり二人とも座るが特に喋ることもなく気まずい空気がながれる。

「あの、俺、無理言って住まわせてもらったんで、家事全般は俺にやらせてください!」
「え、あぁ分かった」

気まずい空気を感じ取ったのかは分からないが急に口を開いた土方に驚きながらも高杉は頷いた。

「それから、この課は命の危険が伴うとても大変な所だと聞きました。もし犯人が銃やナイフのような刃物を持っていた場合は俺を使ってください。その為にこの課に呼ばれたようなものですから。跡形も残らないような壊れ方をしなければ俺の体は修理できるし、もし修理出来ないような状態でも新しいロボットが派遣されると思うので」

そう言って土方は少し寂しそうに笑った。
それに気付いた高杉だったが、特に気にしなかった。自分には関係ないことで興味もないからだ。
適当に「分かった」と流し、就寝の準備を始める。

「あ、俺床で寝ますから」
「当たり前だ」

急に同居することになった為布団は一つしか持ち合わせていない。
一緒に寝るなんてまっぴらごめんだった。
小さなアパートの為隣りに寝るということは変わらないのだが。


***


朝目が覚めると良い匂いがしてくる。
ゆっくりと起き上がり辺りを見回すと、台所で土方が黙々と料理を作っていた。

「おはようございます!朝食、もうちょっとで出来るので!」
「あ、あぁ」

小さな卓上に朝から豪華な食事が並ぶ。

「勝手に冷蔵庫にあるもの使ってしまったんですけどよかったですか?」
「別に構わないが・・・よくあんだけのもので作ったな」

料理をするのが面倒でいつもコンビニなどで弁当を買ってくる為冷蔵庫の中はたいした物は入ってなかったはずなのに。
本当に冷蔵庫に入っていたものだけで作ったとは思えない料理ばかりだ。

「なら良かった。どうぞ食べてください」

そう言われ一口食べる。

「・・・うまい」
「良かった!!」

素直な言葉が口からでる。
人の料理を食べるのは何年ぶりだろうか。
人と言っても相手は人ではなくロボットなのだが。
しかし店で食べるのとは違う、優しい味。
なんだか懐かしかった。

―本当に人間みてぇだな

美味しいと言われ笑顔で喜ぶ土方を見て思う。

「あれ、おめぇは飯食わねぇの?」
「俺は人間のものは食べれませんから」
「あ―」

そうだったと高杉は思い出した。
さっき人間”みたいだ”と思ったはずなのに。
一瞬で忘れてしまうような土方の表情、言葉。
食べれないと言った時の表情はあの時みたいな悲しい―

そこで高杉はハッと我に返る。
自分以外に興味は無い。脳裏に土方の事が入っていってしまっていることに苛立ちを覚えながら、仕事へ行く準備をし始めた。





「おい、依頼がきた。二人で捜査をお願いしたい」
「分かりました」

署に着くと早速二人に仕事が回ってくる。
連続殺人事件の犯人逮捕の依頼だ。女性を無差別に強姦した後殺害していて今現在逃走中のこと。
全く居場所が掴めない事と、薬をやっている可能性があり大変危険な人物ということでこちらに回ってきたのだろう。

「死ぬのが怖いからってこっちに回してきてる訳じゃねぇだろうな。上の奴らは俺らをなんだと思っていやがる」

難題事件の為に発足した課なのだが、実際は危険だと思われた事件をなりふり構わずこちらへ回している状態だ。
この課に来て命の危険に晒された人たちは後を絶たない。実際一人殺されている為、辞めていく者も多い。

「しっかし全く居場所の特定がついていない犯人を捜せと言われてもなぁ・・・この資料で見つかるわけねぇだろ!」

自分のデスクに座り煙草を吹かしながら渡された資料を読んでいた高杉だったが、あまりにも基本的な情報しか書かれていなかった為苛立ち資料を放り投げ叫ぶ。

「あの、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「あん?見ても分かんねぇだろ」

そう言いつつ隣りの席になった土方に資料を渡す。
すると微かにピピピ・・・という音を”体から”だしながらその資料を熟読し始め

「居場所を突き止めました」
「・・はぁ!?!?」

その資料を読んだだけで分かるはずがない。そう思った高杉は大きな声を出してしまう。

「そんなんで分かるわけねぇだろうが!!」
「多分あそこにいるはずです、一緒に来てもらってもいいですか?」
「・・・・」

いるはずがない。そう思ってはいるものの、他に行く場所も見当がつかない為着いて行くことにした。


「ここは・・・」

着いたのは警察署近くの川沿い。
そこにはいわゆる”ホームレス”といわれる人たちが沢山いる場所だった。

「あの人!」

土方が指をホームレスが数人いる中の一人に指す。
髪も髭ももじゃもじゃで一見犯人の顔と断定できなかったが、スーツ姿の二人を見て警察関係者だと分かったのだろう。
指を指された男は、二人を見るや、一目散に逃げ出した。

「待ちやがれ!」
「俺に任せてください!」

そう言って走り出した土方は尋常じゃない速さで犯人を追いかけ、あっという間に捕まえた。

「くそおおお!!!」

腕を掴まれた犯人は自由になっている手の方を動かしナイフを取り出し土方に向けて振り下ろす。

「死ねええええ!!!!」

グサッ

腹部に入ったナイフは深く刺さっていく・・・が、血は流れることはなかった。
そして刺した時の違和感。
何度も人を刺してきた犯人だったが、今回のは何かが違う。
今までが女だったからだろうか。固すぎる皮膚に違和感を覚え抜こうとするが、全くナイフは動かない。

「!?!?!?」
「高杉さん、手錠を!!」

犯人の気が動転している隙に後ろから追いかけていた高杉が到着し、手錠をかける。

「ふー。これで一件落着ですね」

ニッコリと微笑む土方とは裏腹に、高杉はもやもやとして納得がいかない表情をしていた。

「てめぇ・・・化け物か・・・」

手錠につながれ少し怯えたようにも見える犯人が土方の方を見ながらそう呟く。
それを聞いた土方は困ったように笑い、

「確かに化け物かもしれません。・・・俺はロボットだから」

また、悲しそうな表情でそう言った。



Continue.......





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