「おかしい・・・何がどうなってやがる・・・!」

俺は今屯所の自室で布団を被りうずくまっている。
誰にも見つからないように、気付かれないようにと。

「くそ・・・総悟か?総悟の仕業なのか?」

ぶつぶつと呟きながらムカツク野朗を思い出す。
なぜ今このような状況なのかというと、数時間前にさかのぼる。




「くあぁ・・・」

早朝、自然に目が覚め背伸び。
ちょうど朝食の時間。少し寝ぼけながら隊服に着替え廊下を歩く。

「マヨ〜」

昨日は夜遅くまで仕事をしていた為目が開かない。
とりあえ大好きなマヨネーズめがけて食堂へと急ぐ。
食堂に着いた途端、俺を見た皆は動きを止めた。
不思議に思ったがあまり気にせず食事をとることにした。
椅子に座り朝食をとり始めたが、なんだか周りの様子がおかしい。

「なんか・・・副長エロくね?」「いつもよりセクシーだ」「むらむらする・・・」

そんな言葉が周りで飛び交っている。
それを聞きながら俺は自分の血管がぴくぴくと動いているのが分かった。我慢の限界。

「てめぇら!さっきからなんなんだよ!言いたいことあるなら面と向かって言え!!」

大きな声で怒鳴れば隊士たちは一気に恐縮する・・・・はずだった。

「副長に怒られた・・嬉しい」「どうしよ俺なんか股間がむずむず・・・」

怒られて嬉しがるなんてなんだが逆に怖い。額から汗が流れる。

「おおおい、てめぇらどうしたんだ、なんか変だぞ?」
「副長!好きですうううう!!!!」
「なんでだあああああ!?!?!?」

山崎が飛びつこうとするが寸前で避ける。気持ちわりいいい!!!
運よく回避したが、次から次へと隊士たちが言い寄ってくる。
とりあえずここは危険だと思いその場を勢いよく逃げた。

「ああ!副長おおお!!!」

叫びながら追いかけてくる。きっと「追いかけて来た奴は切腹だ」なんて言っても今の隊士達には意味をなさない言葉だろう。
廊下を走りぬけていると目の前に近藤さんが立っていた。助かった!

「近藤さん!ちょっと助けてくれ!」

近藤さんの後ろに回りこんで背中に隠れよう。

「どうしたトシ〜?って・・・っ!!」
「?」

あれなんか近藤さん急に顔赤くなってね?
え、ちょっと待って、いやいやいやいや・・・

「トシ・・・」

肩をガッと掴まれ引き寄せられる。って・・え?

「ちゅう〜〜〜」
「ええええええ!?!?!?」

俺にキスしようとしてる!?!?!?
近藤さんまでいったいどうしちまったんだ!顔が近い近い!!
自分までも顔が赤くなりながらもがくが一向に動く気配がない。さすが力はある。
くそ・・・でも近藤さんなら・・・って何考えてんだ俺は!!!

「あ、あそこにバナナが!」
「え!どこどこ!?」

気を緩めた瞬間突き飛ばした。っていうかアホだこいつ本当にゴリラだ。

「トシいいいい!!!」

背中で近藤さんの声を聞きながら自室へと入った。


―そして今にいたる。

とりあえず誰も今は俺を見て欲しくない。
ドタドタと駆け回る足音を聞きながら布団の中で身震いした。
どうやら皆俺の顔を見た途端に性格が変わってしまっているようだ。
だったら下手に動くことも出来ないが見つかるのも時間の問題だろう。
どうしようかと思った矢先、浮かんできたのはあの男。

「くそっ・・・なんでアイツなんだ・・・」

俺は布団から出て屯所を飛び出した。

他の奴も俺を見るとよってくるのだろうか。
心配になって一応隊服のジャケットを頭にかぶって歩くことにした。かなり不審者。周りから視線を感じる。
くそっ、早く行こう。走り出した瞬間だった。
曲がり角で誰かとぶつかりしりもちをつく。これなんていう少女マンガ?
いてててと言いながらぶつかった相手を見ると、オレンジ頭で三つ編みをした男の子。

「す、すまん大丈夫か?」

あわててその男の子に駆け寄る。
その男の子は俺の顔をじっと眺め・・・ニヤリと笑った。
手が俺の頬を触る。

「へぇ・・・お兄さん良い顔してるじゃん・・・」

な、まさか・・・!
両手で自分の頭を触ると被っていた隊服が無い!転んだ拍子に落としてしまった。
きょろきょろと必死に上着を探すと後ろにあった!早く被らねぇと!!
慌てて体を反転させ上着を掴むと後ろからおもいきり抱きつかれた。振り返る。

「ねぇ、お兄さん一緒に遊ぼうよ」

ニッコリと笑う男の子だったがその笑みは怖いくらいに作った笑顔。背筋が凍る。

「い、いや、俺今忙しいから遊ぶ時間なんて・・・」
「ぶつかってきたくせに?」
「それは本当にすまん!でも今まじで急いで・・・っ!」

ここは力ずくで逃げようと男の子を引き剥がそうとしたがピクリとも動かない。
こいつ・・・若いくせになんて力してるんだ・・・!

「お兄さんと一緒にイイコトしたいなぁ」

イイコトって何いいいいいいいい!?!?!?!?!?

バフッ

半分色んな意味で死を覚悟した直後周りが白い煙でいっぱいになる。
いきなりのことで訳も分からないし視界も殆ど見えない状態だったが今は逃げることしか頭にない。
今の衝動であの男の子の力が一瞬弱まり、その隙に一目散に駆け出した。

いったい今のはなんだったのか。結果的に助かったからよかったものの・・・
上着をもう一度被り歩みを進める。すると不意に後ろから肩をトントンと誰かに叩かれた。
振り向きそこにいたのは

「おぬし、大丈夫であったか?」
「お前は・・・桂・・・!?」

いきなり現在追跡中の指名手配と鉢合わせ。
捕まえるべきなのだが今はそんな余裕もない。ふと桂の手元を見ると発煙弾が握られていた。

「お前・・さっきの・・・!」

先ほどの煙はコイツが放ったものだったのか。
指名手配に助けてもらった情けなさ。借りをつくりたくない。今日だけ見逃してやるか。

「あぁそうだ。愛しいオナゴを守るのは武士の掟」
「・・・・・・は?」

がしっと肩を掴まれる。
え、何?愛しい・・・?おなご・・・・?
ちょっと待って、俺上着ちゃんと被ってるよね?・・うん被ってる。何で!?しかも俺男だし!!
あれか!?俺の顔見てしまった奴は今更顔隠しても無駄なのか!?!?

「お主・・・一緒に江戸を変えぬか?」
「いや俺警察だからあああ!!!お前を捕まえるポリスメーンだからああ!!」
「警察だとかポリスメーンだとか関係ない!愛で結ばれているのだからな!」
「ひいいいいい!!!!」

ダメだ何を言ってもダメだ。指名手配に食われるのだけは嫌だああああ!!
その時。俺の視界はまたもや真っ白になる。それと同時に桂の悲鳴が聞こえ俺の体から離れた。
一瞬の出来事にぼーぜんと立ちすくむ。桂は鼻血を出しながら干からびていた。
そして、目の前にいたのは白い・・・・なんだこれ。
全体は白く、黄色いアヒル口に足。・・あれ、すね毛生えてる?
こちらを向き近づいてくる。どうしていいか分からず固まっていると看板みたいなものを取り出した。
そこに書いてあったのは

「す・・・き・・・?」

好きいいいい!?!?!?まさかこんな化け物にまで・・・!
俺はゆっくりと近づいてくる化け物から全力で逃げた。



「ゼェ・・・ゼェ・・・・」

やっと目的地までたどり着いた。ここに着くまで足を止めることなく走った為体力は限界。
ゆっくりと階段を上り着いた先は―


「なんで上着頭に被ってんの・・?」
「うるせぇ、これには訳があるんだ!・・・とりあえず中入れろ」
「はいはい、まったく俺様なんだから〜」

万事屋。
他に行く宛てがなかったんだ。しょうがなかったんだ。そう何度も言い聞かせながら中へ入りソファに座った。

「で、どうしたの?」
「なんか変なんだ、俺・・・」
「そそそれはどういう意味で!?」
「・・・・?何興奮してんだ?」
「なんでもない!」

俺は全て話した。朝起きて他人に顔を見られると相手が急におかしくなってしまうこと。
こういう風に顔を隠せば大丈夫なこと。

「―ふ〜んなるほどねぇ。じゃぁとりあえず顔見せて?」
「は!?今のちゃんと聞いてたのかよ!?」
「ちゃんと聞いてるよ。大丈夫、銀さんを信じなさい!」
「信じる信じないの問題じゃねぇだろこれ・・・知らねぇぞ・・・」

そう言いながら俺は被っていた上着をどけた。
おそるおそる万事屋を見ると・・・何も変わる様子はなかった。

「ほ〜らね」
「なん・・・で・・・?」

どうしてコイツには効かないのか。さっぱり訳が分からない。
俺が混乱していると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「やっぱり土方さん旦那のとこにいたんですねぇ〜予想通りだ」
「総悟・・・!おい、この騒ぎはお前の所為か!?・・・」

そう言うと総悟は腹黒い笑みを浮かべた。やっぱりコイツだったか!!
ってあれ?総悟も俺見ても何も変わってない・・・・?

「今『あれ総悟も俺見ても何も変わってない?』とか思いましたね。」
「うっ」

図星な応えに言葉を失う。

「じゃーん」

効果音を出しながら怪しいビンを取り出す。そこには”惚れ薬”と書いてあった。
惚れ薬だとおおおお!?!?

「寝てる間に土方さんに飲ましてあげました」
「てめぇ・・・どうやら斬られたいようだな・・・」
「まぁまぁ待ちなせぇ。これには注意書きがありましてねぇ」
「?」
「こう書いてあるんでさぁ。”この薬は好きな相手には効果がありません”」
「へ?」

信じられない言葉に声が裏返る。好きな相手には効果がない・・・?
いやいやおかしいよねなんかおかしいよね、何それ俺信じないよ。
だってそのことが本当だとしたら俺は・・・

「へぇ〜ということは土方くん俺と沖田くんの事が好きなんだ〜」
「ばっ!誰がてめぇらなんか!」
「でも現に俺達には効いてませんぜぇ〜」

確かに。確かにそうなんだ。他の奴は皆豹変してしまったのにこいつらだけはいたって普通。
本当に俺はこいつらのこと好きなのか・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・全っっっ然自覚ないんだけど。ていうか相手男なんですけど。

「しっかしよ〜二人も好きなんて欲張りだよ土方くん!」
「じゃぁどっちか好きか今決めてもらいましょうや」
「ちょ、ちょっと待て!俺はてめぇらのこと好きと一言も言ってないだろうが!!」
「でもちょっと今悩んでんじゃない?」
「・・・っ」
「実はこの薬が解ける方法、好きな奴に抱かれることでさぁ」

だ、抱かれ・・・

「はぁあああああああ!?!?!?」

抱かれるって何!?っていうかそうしないと薬解けない訳!?
え、俺男だよね、ちゃんと付けるもん付いてるよね!?

「だから気持ちよかった方が好きってことで」
「なるほどねぇ〜じゃぁヤろっか」
「ちょっとまてええええ!!!!勝手に進めるな!!!」
「変な体質のままじゃ嫌でしょ?」
「そう、だけど・・・うぁっ・・・ばか!やめっ・・・!!」





***

「あ〜あ〜結局土方さんが気絶するまでヤっちまいましたねぇ」
「でも最後のほうとか土方くんノリノリじゃなかった?」
「確かに」

ソファで寝入っている土方を見ながら二人は話す。

「でも何で俺を呼んでくれたの?」
「・・はっきりしたかったんでさぁ。土方の野郎、最近ふらふら旦那のとこ行ってるし」
「げ、知ってたの?」
「この件で旦那のとこに行くのは予想通り。だから旦那にも対抗薬を渡したんだけど、相手が気絶したら答えも聞けねぇや」

好きな相手には効かない。それは嘘。
銀時と沖田はあらかじめ対抗薬を飲んでいたのだ。
そうとはつゆ知らず信じ込んでしまった土方。

「でもなんか土方さんのアホ面顔見てたら戦意も喪失してしまいやした」
「ププッ、確かに」

先ほどの行為で疲れてしまったのか、涎を垂らしながらぐっすりと寝ている土方に二人は優しく微笑むのであった。




END
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あとがき

ノコノコさまのリクエストで土方総受けでした!
初めて桂と絡ませてみた(笑)
やっぱギャグ書くのは楽しいですね^^
ノコノコさまのみお持ち帰りOKです!
リクエストありがとございました!!



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