「土方〜。土方〜?」
「せんせぇ〜土方さんは休みでさぁ」
「え、今日も?風邪か?全然学校には連絡来てないんだけどなぁ・・・」

まったく最近学校に来ていない土方。
学校はおろか俺にも連絡は来ていない。
終わったら家に行って見るか・・・




「あ、十四郎くんの担任の坂田ですけどお母さんですか?」
「はい」
「十四郎くんの調子はどうです?」
「それが・・・私もよく分からないんです・・。風邪ではないみたいで・・・」
「そうですか・・・」


学校での仕事も終わり土方の家を訪ねてみると、どうやら風邪ではないらしい。
いじめなどの報告もないし、どちらかといえば山崎を土方がいじめてるぐらいだ。
だとしたら何故学校へ来ないのだろう。え、待って、もしかして俺?俺が原因?
確か来なくなった前日は補修という名前のイチャイチャをした日だよな。
あれが嫌だったのか?いやでも向こうもなんだかんだ嬉しそうにしてた気がするんだけど・・・・
考えれば考えるほど自分が原因でないのではと思ってしまう。だって他に理由なんてあるのか?

「あの、もしよかったら十四郎くんに会わせてもらってもいいですか?」
「良いですよ。でも会ってくれるかしら。最近引き篭もりがちでご飯もろくに食べてないんです。私も心配で・・・」

どうしよう。俺が原因だったらどうしよう。家族にまで迷惑かけてると思ったら背中から変な汗が出てくる。
とりあえず会って話そう。そして謝ろう。
家にお邪魔し、二階へ続く階段へと上がる。

「十四郎―、坂田先生が来てるわよ、開けなさい」
「!!!」

土方はドアの向こうの母の声を聞きベットに潜り込んでいた体を勢い良く起こす。
おそるおそるドアを開けると母親の後ろに銀八はいた。

「せんせ・・・」
「お母さんは下にいるから先生と少し話しなさい」

そう言って母親は下へと降りていった。
銀八と目が合い逸らす。重い空気が流れる。

「入って・・・」

ドアを全開にし入るよう促す。銀八は「おぉ」と少し緊張した面持ちで土方の部屋へと入った。





ベットに二人並んで座る。
土方の姿を見て俺は驚いた。酷く痩せている。母親が食べてないと言っていたのは本当のようで、生気が無いように見える。
目の下の隈も酷く、あまり寝ていないことも分かった。

「なぁ、どうして学校に来ないんだ?」

勇気を振り絞って聞いてみる。土方は下を向き口を噤んだまま話そうとしない。

「もしかして、俺のせい・・・?」

すると土方は驚いたようにバッと俺の方を向く。やっぱり俺の所為なのか?

「ち、違う」

俺の考えを分かってたかのようにそう言う。

「じゃぁどうしてなんだ?俺には言いたくないのか?」

右手で土方の頬を優しく撫でる。俺の手に顔をすり寄せてくれたが、顔は今にも泣きそうな顔。

「・・・今から言うことで、銀八は俺のこと嫌いになるかもしれない・・・」

土方の目からは我慢しきれずに涙がぽろぽろと流れ始める。

「そう簡単に嫌いになんかならないよ。言ってみ?ゆっくりでいいから」
「・・・実は・・・」

そう言って土方は時折ひくひくと呼吸を乱しながらも、ゆっくりと話し始めた。









「なっ・・・・!」

全て聞き終えた俺は驚愕した。
知らない男に犯られ、汚れた自分を俺に見せたくなかったのと、また現われるのではないかという恐怖。
それで学校に行けなくなったという。

「ひっく・・・俺、銀八に・・・ひっく・・・嫌われるんじゃないかと思って・・・」
「そんなことで嫌う訳無いだろ!!」

怒りで声が大きくなってしまった。土方は驚いた顔でこちらを向く。
土方に怒っているのではない。痴漢したオヤジが許せない。
俺はきつく土方を抱きしめた。

「怖かったな・・・一人で苦しんでたんだな・・・もう大丈夫だから。俺を信じろ」
「・・ぎんぱちぃ・・・」

土方は俺の胸の中で長い間泣き続けた。








「もし帰るのが遅くても良いようなら俺が車で送ってやる」

少し落ち着いた後、そう問うてみた。

「え?でも・・・」
「生徒や先生にはバレないようにするからさ、一緒に帰ろう。な?」

土方は大きく頷き笑顔になった。
それを見て少し安心する。

「明日からはちゃんと飯食うんだぞ」

土方の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。

「わ、分かったって・・」

撫でられるのを嫌がる土方の腕を引き寄せキスをした。

「んっ・・・!」

舌で唇を舐め口を開けるように促すと素直に口を開いたので中に舌を進入させる。
舌と舌が絡み合い、くちゅくちゅといやらしい音が土方の部屋に響く。
名残惜しいように口元から離すと透明な液が現われる。

「明日俺の仕事が終わるまで教室で待ってて」
「分かった」
「よし、じゃぁ明日な」

そう言って一階にいた母親に挨拶し、土方の家から出た。

外はすっかりと暗くなっていた。
タバコに火をつけ、大きく吸い、煙を吐く。
絶対に痴漢男は許せない。もし出会ったならボッコボコにしてやると心に誓った。




――

ここのところ俺は学校から家まで銀八に車で送ってもらっている。
申し訳ない気もしたけど、「お前は俺の恋人なんだから当たり前だ」なんて言われて照れてしまう。
銀八のおかげで学校にも行けるようになってきたし体調も戻ってきた。
いつまでも迷惑もかけれないし、そろそろ大丈夫かななんて思ったりもする。
けどやっぱり、実際夜の道を通るとなると足が竦みそうだ。なんて乙女なんだろうと落ち込んでしまう。

「はぁ〜。もっとこう、力が強くなりたいよな」

いろいろと呟きながら早朝の通学路をとぼとぼと歩く。
すると後ろからトントンと方を誰かに叩かれた。振り向くと、そこにいたのは

「夜じゃなくても会いにいくよ?」

あの痴漢男だった。
ニタリと笑った顔に悪寒がはしる。体が震えて動けない。
尻を手を添えるだけの強さで触ってくる。
またあの日を繰り返してしまうのか。もうだめだ・・・。銀八・・・







「ちょっとオジサン、誰の男に手、出してんの?」

後ろから聞き覚えの声が。
バギッという鈍い音と共に振り向くと体を触っていた男がドサリと倒れこんだ。

「ぎん・・・ぱち・・・・」
「ヒーロー登場。やっぱ俺かっこいい〜」
「ぎんぱちぃ・・・!」

ホッとして銀八にぎゅうっと抱きつく。
恐怖と安心とで涙が止まらなくなってしまった。
優しく頭を撫でられる。それが凄く心地良い。

「大丈夫か?遅くなってごめんな」
「大丈夫・・・でもなんで・・・?」

学校へは一緒に行く約束はしていない。
銀八の家と俺の家は真反対な訳で。
通学が一緒になることなんて有り得ない。

「十四郎の”助けてー”っていう心の叫びが聞こえたから飛んできたんだよ」
「なんだよそれ・・・」

絶対違うはずなのに。
なんでだろう。嬉しさを隠せない。
顔が熱くなっていくのが分かったから銀八の胸板に顔を沈ませて見せないようにする。

「さ、このおっさんが起き上がる前にずらかるぞ」
「うん」

まだ冷めやらない顔を銀八から離す。
顔を見上げ銀八の顔を見ると、とても優しい顔をしていた。
あぁ。やっぱり俺は依存している。

「銀八」
「ん?」

進もうとする銀八の袖をぎゅっと掴みそれを静止させる。

「今日・・学校終わったら・・銀八の家に行って良い・・・?」

言った後に顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。
直視ができず下を向く。すると影が近づいてくる。
くいっと俺の顎を掴み上にあげるとキスをした。

「もちろんですとも。お姫様」
「お、お姫様ってなんだよ・・・!それにここ外!」
「いいじゃん別にー」
「よくない!!」

勢い良く背を向ける。
お姫様って言われて顔を赤くする俺っていったい・・・
乙女すぎる自分にまた落ち込んでいると後ろから手を握られる。

「途中まで、ね?まだ時間も早いしさ」
「・・・・」
「・・痴漢にあったことなんて俺がすぐ忘れさせてやるよ」

俺の顔を見ずにそう言った。向こう側ではどんな表情をしているのだろうか。
返事はしなかったけど、きっと忘れることができる。そんな気がした。
応える代わりに、俺は銀八の手をぎゅっと握り返した。





END
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あとがき

本当はこれ続く予定でした・・
銀八の家で十四郎を慰めながらあははん的な(笑)
続きをいつか書きたい!

お粗末様でした!

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