銀時の場合。


朝早く、万事屋の呼び鈴が鳴り響き、銀時はやる気のない声を出しながら戸を開けた。

「はーいどちらさんですか〜新聞ならいりませんよ〜・・ってあれ多串くんじゃない」
「土方だ」

そこにいたのは土方だった。

「あぁそうそう土方くん、どしたの?」
「これ」

そう言って手渡されたのは四角い可愛くラッピングされた箱。
そういえばと銀時は思い出した。
今日はバレンタインデー。早朝過ぎて頭が回っていなかった。

「え、なにこれもしかしてチョコ?」
「あぁ」
「ええええ!?まじで!?本当にチョコ!?」

驚きを隠せない。
なんていったってあの土方が自分にチョコを渡しに来たのだ。
一気に眠気が覚める。

「どうしよ銀さんちょー嬉しいんですけど!!」
「さっき見知らぬ女にもらったからやる」
「え゛・・・」

じゃぁこのチョコは誰かが土方にあげたチョコ・・?
持っているチョコレートの箱を見る。急に不味そうに見えてきた。

「なんだよそれ!自分が食えよ!てか土方くんからのチョコは!?」
「俺は甘いもんが苦手なんだよ。そしてなんで俺がお前にチョコをあげなきゃいけねぇんだ!」
「だって恋人でしょ俺たち!」
「ぐ・・・」

確かに土方と銀時は恋人同士の関係だった。
恋人でしょと言われ土方は反論が出来ず口を閉ざす。

「俺は男だぞ・・・・」
「男とか女とか関係ない!土方くんのが俺は欲しいの!」
「っ!」

真剣に訴える銀時に土方は地面の方を向き顔を赤くする。

「このチョコ返すから」

そう言って返そうとしたが、何故か土方は断固として受け取ろうとしない。

「いい!お前が食え!じゃぁな!」
「あ、ちょっと!土方くん!?」

吐き捨てるように帰って行ってしまった。
呆然と立ち尽くす銀時。一度チョコの箱を見、はぁとため息をつき戸を閉め部屋へと入っていく。



「どうしようかなこれ・・・」

ソファに座り机にチョコの箱を置き眺める。
自分に貰ったものではない。なんだか食べるのは申し訳ない気がする。
しかし捨ててしまうというのももったいない。甘いものを粗末になんてできない。

「気が進まねぇけど・・・いただきます!」

ラッピングされてある紙をちぎり箱を開ける。
すると美味しそうなトリュフチョコが沢山並んであった。

「うわぁ・・・うまそ・・・」

一口取りパクリと食べる。うめぇ。
ほっぺたが落っこちるのではないかというぐらいの美味さ。
何個も何個も口に運ぶ。

「うまかったー!!」

あっという間に完食しソファにもたれ掛かり天井を仰ぐ。
しかし急に虚しさがこみ上げてきた。
土方にあげようとした子はきっと一生懸命考えて選んだのではないか。
そしてそれをいらないと銀時に渡し、銀時も結局は食べてしまった。

(本当にこれで良かったのか?)

頭の中のもやもや。でも考えても仕方が無い。
ただ、土方はどんな気持ちで自分にチョコを渡したのか。それが一番の気がかりだった。


「旦那―、入りますぜぇー」

ひょっこりと顔を出したのは憎たらしいことこの上ない沖田だった。

「ちょっとー、勝手に入るのそろそろやめてくんない?」
「あれ、それもしかして土方さんに貰ったんじゃないですかぃ?」
「え、スルー?完全にスルーしたね今」
「まぁまぁ。で、それ土方さんに貰った奴でしょ?」
「そうだけど・・・」

何故彼が知っているのだろう。女の子に渡されていたとこでも目撃していたのか。
そんなことを思っていると沖田は「やっぱり」と言いニヤリと笑った。

「前日四越デパートで真剣にチョコ選んでましたからねぃ」
「え?」
「もうそりゃ真剣に。俺がいるのにも気付かないくらいでしたから」
「え?え?ちょっと待って?これ土方くんが買ったやつなの?」
「中身トリュフでしたでしょう?てか土方さんに貰ったんじゃないんですかぃ?」

(あんのバカ・・・)

おそらく土方は自分からと言うのが恥ずかしく、貰い物だという嘘をついたのだろう。
なんて分かりにくい男なのだ。
腹立たしい気持ちと愛おしい気持ちが交ざり変な感じがする。
だったらもう少し味わって食べるのだったと銀時は後悔していたのであった。








高杉の場合(3Z)

今日の日をどれだけ待ち望んだことか。結局一睡もしていない。
なんと言ったって今日はバレンタインデー。
きっと土方からチョコを貰える。
まだ恋人になって数ヶ月な俺と土方。けど俺からしてみれば結構ラブラブなはずだ。
たまに・・・いやほぼ毎日殴られたり蹴られたり死ねとか言われるけどこれは愛情表現。問題ない。

学校に着き急いで教室へと向かう。
教室が近づくにつれ、胸の行動も早くなっていく。

「土方ァ!チョコくれぇ!」

ガラガラーッ!

勢い良くドアを開け土方に向かって叫ぶ。教室にいた生徒が皆俺の方を向いた。
が、土方の姿はどこにも見当たらない。
キョロキョロとよーく辺りを見回すと、いた。

「土方・・・」
「あ、高杉おはよう」

椅子に座ったまま俺の方を向き挨拶をする。
土方の周りには女子が沢山たかっていた。机にも沢山のチョコが山積みされている。
そして気付いた。こいつは物凄くモテる男だったと。
いや確かに分かるよ。可愛いし。キュートだし。あれ?おんなじ意味か?
でも土方は俺のだから。誰にも渡しませんから。

「おい!」
「うわぁ!?」

女子の軍団を掻き分け土方を引っ張り出す。

「なぁ!俺にチョコは?」
「は?別にお前宛のチョコなんて預かってないけど・・・」
「違う!土方から俺に!」
「俺から・・?」
「そう!だって俺たち愛し合ってる仲・・・・ぐはぁ!」

俺の腹に土方の拳がジャストミートした。本気で殴ったろ・・・。

「意味わかんねぇよ!なにが愛し合ってるだ!死ね!」

いや、大丈夫。これも愛情表現だよな、うん。だってほら顔真っ赤っ赤じゃん。
けど泣きそうになるのはどうしてだろう。

「うぐ・・土方ァてめぇ覚えとけよ・・・」

今日は絶対俺の家に連れ込んでやる。絶対アンアン鳴かせてやる。覚えてろよ!

しかし、土方の机の中に女から貰ったものとは別のチョコが入っていたなんて、その時は知るよしもなかった―。








高杉の場合


「土方ァ、今日なんの日か知ってるよなぁ?」
「今日?なんの日だ」

月が部屋を照らす夜。
小さな宿の布団の上に背中を合わせ高杉と土方は煙管とタバコを吸っていた。

「今日はバレンタインだろう」
「はっ、お前がそんなこと言うなんて可笑しい話だ」
「俺ァ、ロマンチストだからなぁ」
「黙れよ」

そう言って土方は笑う。

「そんなに俺からチョコが欲しかったかよ」
「当たり前だ」
「はは、そりゃすまねぇな。・・・まぁ会えただけ良いじゃねぇか」

真選組とテロリスト。敵同士の恋。
誰にも悟られないように会うのは容易なことではない。
今日会えたのも久しぶりのことだった。

「それにお前甘いもの嫌いじゃなかったか?」
「土方から貰えば食べる」
「・・ばか言ってんじゃ・・ねぇよ」

分かりやすい奴だ。
高杉はそう思った。背中から感じる温もりはきっと羞恥からのもの。
きっと顔をみたら想像通りの顔をしているのだろう。

「まぁいいさ。俺とお前の関係はチョコよりも甘い。だろ?」

そう言いながら土方の方を向き顔を覗き込む。
あぁやっぱり。思った通りの顔をしてやがる。

「ほんとお前ってバカ。バカ杉」
「ククッ。なんとでも言いやがれ」

土方の咥えていたタバコを取り口付けを交わす。

「今日は甘いチョコの代わりに、甘い一時をお願いしたいものだな」


離れていた影が、今度はぴったりと重なるように一つの影を作った―。







END
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あとがき

アンケート1位の高土
アンケート2位の高土(3Z)・銀土でした!
久しぶりに銀土を書いたら楽しかった!かなり長くなった・・
やはり公式(笑)なだけありますね。
うちの高土は基本高杉の頭が可哀想になってることが多いので(笑)
通常高土は少し大人っぽい感じを出してみたのですが出てるかな(>_<)
3Zで真面目なのはなかなか書けないよ私・・・(苦笑)

最後まで読んで頂きありがとうございました!



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