ダチと話しながら教室に入ろうとすると、勢い良く教室から飛び出してきた男にぶつかった。
「痛っ!」
その男は俺の肩に思い切りぶつかったのにも関わらず、こっちも見ないまま走ってどこかへ行ってしまった。
「なんなんだよあいつ、意味分かんねぇ」
「あぁあれネクラな土方じゃね?」
「土方?」
不満を呟いていると隣りのダチがそう話す。
後姿だけで顔は見えなかったが、土方なんていう奴クラスにいただろうか?
っていうか元々クラスには全く興味ねぇから名前なんて知らない奴ばっかだけど。
「土方っていう奴なんかいたっけ?」
まぁでも気になったから聞いてみる事にした。
「あぁオーラ薄いからなアイツ。だからいじめられるんだよ」
「いじめ?」
「ほら」
そう言ってそいつが指差した方向を見ると、教科書がばらまかれていた。
「なんだこれ」
近づき教科書を拾うと、『土方』という名前が書いてあった。
・・・・あぁ、そういうこと。全然いじめとか気付かなかったわ。
状況を理解し教科書を投げる。
そしていいことを思いついた。
「おい土方」
昼休み、一人で弁当食ってる土方に話しかける。
話しかけられたのがよほど意外だったのか、箸からご飯をぽろっと落としながら目を見開いて俺のことを見ていた。
「え、え、なんで高杉が俺の名前・・・・」
「知ってちゃ悪いのかよ」
「いや、そういう訳じゃ・・・」
「っていうかお前に頼みごとがあるんだけど」
「俺に?」
そういうと土方は胸を躍らせながら俺を見てきた。
その瞬間胸が痛む。こういうのは慣れているはずなのに。
「とりあえずなんか飲み物買って来いや」
「え・・・・」
一瞬にして土方の顔色が悪くなった。
・・・おかしい。こんな反応慣れているはずなのにどうしてこう変な感じがするんだろう。
俺はただこいつが俺にぶつかったにも関わらず謝りもしないでどっか行ってしまった罰としてパシリにしてやろうと思っただけだ。
「ッチ、行けって言ってんだろ!」
そう言って俺は土方の胸ぐらを掴み座っている土方を勢い良く起き上がらせ廊下の方に投げた。
「俺に殴られたくなかったら行って来い」
ドスを聞かせて言うと土方は少し怯えた顔をし、教室から出て行った。
「おいおい次の標的は土方かよ〜、俺らが先にいじってたのに取るなよな〜」
先ほどの成り行きを見ていたダチが話しかけてくる。
俺達は言わば不良って奴で、むかつく奴がいればとりあえず殴っとけな考え方だ。
見るからに弱そうな奴はこうやってパシリに使う。
どうやら土方は既にパシリにされていたらしい。
「別に取った訳じゃねぇよ。お前らも好きに使ったらいいだろ」
「そのつもりだよ」
そう言いながら笑った。
先ほどのもやもやとした感情は既に消え去っていた。
そして、土方と俺の関係は始まった。
とりあえずめんどくさいものは全て土方に任せた。
ちょっとでも遅れたりしたら容赦なく殴った。
すげぇストレス解消。
それでもあいつは俺達に笑顔だった。
普通の奴は怯えた顔しかしないし学校に来なくなるのがオチだっていうのに。
いつからか、ダチがあいつを殴ってるのをみると腹が立って仕方がなくなった。
あいつが他の奴と話してるのもなんだか気に入らない。
俺だけのものにしたい。そう思うようになった。この気持ちはなんだ、独占欲?
しかし何故。
授業中屋上で煙草を吸っていたが急にトイレに行きたくなり近くのトイレに入る。
すると土方がいた。
「うっ、おえ・・・・」
「土方・・・?」
土方は洗面台の水を最大にし流しながら嘔吐していた。
「だ、大丈夫か・・?」
「う・・たか・・すぎ・・・?」
顔色も悪く俺はどうしていいか分からずその場に立ち尽くしていたが、土方の元へかけより背中を撫でた。
「!?」
「気持ち悪いんだろ、全部吐けよ」
そう言って俺は治まるまで背中を撫で続けた。
「あ、ありがとう・・・」
「具合悪いのか?」
「大丈夫」
そう言って笑うが顔色は優れないままだ。
俺は思い切って土方の腕を掴みトイレから出た。
「高杉!?」
「保健室行くぞ」
「え・・・」
保健室に着くと椅子に座っていた女の先生に声をかける。
「なんかこいつトイレで吐いてたから連れてきた」
「え、大丈夫なの!?」
あたふたしている先生を尻目に俺はその場を後にした。
「あ、高杉、ありがとう・・・!」
「っ・・」
保健室を出ようとすると慌ててお礼をいう土方。
振り向くと笑顔で、俺にパシリにされてる奴だなんて思えない。
なんだか急に顔が熱くなり俺は早足で保健室を出た。
けど何故か気になってしまい、ドアを閉めた後壁にもたれかかり保健室に向かって聞き耳を立てる。
『どうしたの?風邪でも引いたの?』
『いえ・・・・』
『・・・もしかして、なにかストレスでもたまってる?』
『・・・・・』
ストレス。
それを聞いた瞬間急に背中が寒くなった。
原因は俺だろう。
土方のことも考えず良いように使って。
俺はこの場にいたくなくなって走って屋上へ向かった。
屋上へ向かい煙草を取り出す。
煙草の煙を吸って吐くと少し落ち着いた。
・・・俺は何を考えているんだろう。
俺を怒らせたのが悪いんだろ?
ムカツク奴は殴ってきた。それが普通だったし何も感じなかった。
むしろ俺を恐れる姿が快感ですら思えていた。
けれどどうしてだろう。何故か土方に対しては違う。
最初は何も感じていなかったのに。
・・・いや、最初からおかしかった。土方に初めて話しかけた時から俺はいつもと違っていた。
まだ吸えたが美味しくない。俺は煙草を落とし足で乱暴に消して屋上を降りて行った。
放課後気になり保健室に立ち寄る。
ドアを開けると先生はいなかったがベッドはカーテンで閉めきられている。
誰か寝ている。少し期待してカーテンをゆっくりあけると土方がいた。
ぐっすりと眠っている。
俺はしゃがみ込み土方の顔をよく見る。
俺に殴られ痣になっているのが痛々しく残っていた。
よく見ると綺麗な顔をしている。睫毛も長い。
そっと痣を手の甲で触れる。
すると土方はゆっくりと瞼を開きながら目を覚ました。
急に起きたもんだから手を引っ込めるにはいかずそのまま停止。
そして土方も状況をつかめていないのか俺を見たまま停止。
「たたたた高杉!?!?!?」
状況を把握した土方は叫びながら飛び起きる。
「よぉ。気分は良くなったか?」
「あ、あぁ・・・ありがと・・」
「なら良かった。・・・よっこらしょ」
俺は立ち上がりベッドに腰を下ろす。
それを驚いた表情で見ながら土方は俯く。
「・・・高杉は何考えてるのか、よく分からなねぇよ・・・」
「・・・・・・・俺も分かんねぇ」
そして何も喋らず時間は過ぎていった。
「俺、嬉しかったんだ」
そのままの状態でどのくらいの時間が経っただろうか。
土方が急に口を開いた。
「高杉のこと憧れてた」
「は?俺に?」
「うん。かっこいいし、喧嘩は強いし。だから、話しかけられたとき嬉しくて。・・名前まで知っててくれたし」
「・・・・」
違う。俺は。
・・・俺は、何をやっている?
「だから保健室連れて行ってくれた時は嬉しかった。あのさ、俺―「黙れよ」
しんと保健室が静まり返った。
「黙れ。俺はお前をただ良いように使ってるだけだ。勘違いすんな。お前がいなくなったら楽できねぇんだよ。ただそれだけだ。・・・・俺は、お前が大嫌いだよ」
土方は少し驚いた顔をしたが悲しい顔をしながら笑顔をつくった。
「そう、だよな。ごめん・・・」
土方は俯いて今にも泣くんじゃないかと思った。
これ以上ここにいたくない。
俺は何も言わずその場を後にした。
靴を履き上履きを戻す。
そしてそのまま身体が動かなくなった。
いつしか土方の悲しむ顔を見たくない。そう思うようになっている自分。
腹が立った。
「くそっ!」
俺は思い切り靴箱を蹴った。
だからといってイライラが消えるわけでもない。
ここは屋上でもないがなんだか我慢ができない。周りなんて気にせず俺は煙草を吸いながら帰った。
次の日学校へ行くと校門にダチがたむろっていた。
「おー、遅ぇよ。面白いもん見せてやるからさ、こっちこいよ!」
そう言って連れてこられたのは体育館。
今日は午前どこの学年も体育がないらしく人気は全く無かった。
倉庫へ案内され入り、その光景を見た瞬間心臓がドクンと鳴った。
「何やってんだお前ら・・・」
そこには両腕を頭の上に縛られワイシャツは乱れ下半身は下着姿になっている土方が。
「ん、んんっ!」
口元はタオルか何かで縛られ言葉が発せられないようになっている。
土方は涙目になりながら俺の方を見ていた。
「写真撮ってクラスに流そうぜ」
「おい、じっとしてろよ!」
そう言って一人の男が土方を殴った。
その瞬間俺の何かが切れた。
「ぐあっ!」
殴った奴を俺はその倍はあるであろう力で殴り飛ばした。
「な、何すんだ!」
「あ?ムカツクんだよてめぇ・・・土方に手ぇ出すんじゃねぇよ」
「い、意味分かんねぇよ・・!お前だって土方を―ぐっ!」
「お、おい高杉!お前何考えてんだ!?」
他の奴らも俺の異変に気付き俺から間合いを取る。
一体何人いただろうか。7,8人はいたと思う。
けれども俺はそいつらを全員殴り飛ばしボコボコにしてやった。
喧嘩だけがとりえなんだ。こんな奴らに負けるかよ。
そう思いつつ結構しんどかった。口の中は鉄の味がする。
「おい、お前どうしちゃったんだよ」
「いいからここから消えろ。今すぐにだ」
そう言うと皆この場から去っていった。
暴れて荒くなってしまった呼吸を抑えながら土方のもとへ向かい両腕と口を楽にしてやった。
「大丈夫か?」
「なん、で・・・」
信じられないという表情で俺のことを見ている。
俺は回りに散らかっている土方の服をかき集め土方に投げつけた。
「早く着ろ」
「なんで・・・」
「お前はそれしか言えねぇのか?」
「だって、俺のこと嫌いって・・・・」
呆然としている土方を俺は抱き寄せて乱暴にキスをした。そして抱きしめる。
「!?」
「・・・最初はほんと利用する為だけだった。けどなんでかなぁ。いつの間にか誰にも渡したくなくなって、俺のもんにしたくなった」
「・・・・」
「優しくしたいって思ってもプライドが許せなくて。けど今日お前がこんな姿にされたとき、もうプライドなんか関係なしにお前を助けたい一心で」
本当は好きだと自覚していた。
一目惚れだったんだと思う。最初はそんなこと気付かなかったけど。
名前を呼んで、振り向いて。その瞬間心臓の音が早くなって。
良いように使うことで土方との糸が切れないならそれで良いと思ってたけど、土方の気持ちなんか考えてなかった。
嘔吐するまで苦しんでいたのに俺は・・・。
でも自分のちっぽけなプライドの所為でこいつを苦しめ続けて。
「悪かった」
今なら素直に謝れる。
そして
「俺はお前が好きなんだ、・・・・十四郎」
いつの間にか覚えたフルネーム。初めて下の名前で呼ぶ。
「こんな俺を、許してくれるか・・・?」
すると土方は今まで見たこともないような優しい笑顔で笑った。
END
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あとがき。
ヅラさまのリクエストで意地悪な高杉に振り回される土方でした。
すいません、意地悪というよりガチで虐める高杉になってしまった(苦笑)
長い割には迷走してるきがします;
けれども楽しく書かせて頂きました!
ヅラさまのみお持ち帰りOKです!リクエスト有難う御座いました!!