はじめに。

サラリーマン設定で
土方の元カレがオリジナルキャラクターで登場します。
名前は出てきません。
オリキャラ等出てくるのが苦手な人はご遠慮ください。

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「新しく入ってきた土方だ」

別にその時は、何にも思っちゃいなかった。









***

「よろしくお願いします」

一礼して顔を上げると、皆笑顔で迎えてくれた。
よかった、ここは良い人たちが多そうだ。
そんな中一人だけ俺の方を見ないで何かの雑誌を読んでいる人がいた。
まぁこっちは後輩になるわけだし何も言えないけど、少しは俺の方を見てくれても良んじゃないかな、初めてなんだし。
そう思っているとその男は俺の方を向いた。一瞬心を読まれたんじゃないかってびっくりした。
その男は俺と同じくらいの歳みたいで、左目を隠すように前髪を伸ばしていて、目は釣り目、無表情。一発で「あ、この人苦手だ」って感じた。

「じゃぁそこの席が土方の席になるから」
「あ、はい」

・・・ってあの男の隣りじゃないか・・・。
最悪だ。なんでよりによってこの人の席なんだろう。
俺は恐る恐る声をかけた。

「あの・・・よろしくお願いします」
「・・・・・」

何も言わない、俺の方すら向かない。
雑誌を読んだまま体一つ動かさない。完全なる無視。

「あ、あの、お名前なんて言うんですか・・・?」

俺は何故か意地になってしまい、どうしてもこいつの口を開かせたくなった。
男はやっと俺の方を向いたかと思えば、首にぶら下げている名札を俺に見せる。
そこには「高杉晋助」と書いてあった。

「あ、ありがとうございます」

結局一言も喋らねぇのかよ・・・!
もういいと諦めかけたその時、そいつは口を開いた。

「別に、敬語じゃなくていいから」
「え・・?あ、はい」

ぼそっと言う高杉という男。急に話したので驚いた。なんだ、普通に喋るのか?
けれども相変わらずずっと雑誌ばかり見て仕事をしてない彼にため息をつきつつ、俺は任された仕事に取り掛かっていた―。






「(煙草、煙草、煙草!!!!!)」

頭の中はそれでいっぱい。
ここのオフィスは禁煙だから少し離れた喫煙所まで行かなければならない。
けどこの書類も中途半端で終わらせたくないし、もう少しで終わりそうだからそれまで必死の辛抱だな・・・。



「終わったー!課長、これ終わったのでお渡しします」
「ほい、サンキュ、お疲れ」

一段落し隣りを見ると、いつの間にか高杉はいなくなっていた。
仕事してんのかな本当にと思いつつ、俺は早足で喫煙所へと向かう。



「あれ?」

喫煙所に行くとそこには高杉の姿があった。

「高杉さんも煙草吸うんですね」
「・・お前が吸うほうがよっぽどか意外だったよ」

声をかけると高杉は驚いた表情で俺のことを見ていた。

「なんでですか」
「いや、真面目そうだったから”煙草なんて嫌いです”っていうキャラかと」
「はは、でもよく言われます。俺結構ヘビーな方なんすけどね」
「同じだな。つか敬語やめれ」
「あ、そうだった・・」

・・・・ってあれ?案外話せる?
てかめっちゃ話せてるよ俺。

「えと、じゃぁ・・俺も意外だったよ、高杉って愛想悪いのかと思ってた」
「は?」
「いや、ごめん、なんか、第一印象が怖くてさ、あんま話してくれないし、喋らない人なのかと・・・」
「・・・・・・・」
「あ、ごめん、気悪くした?」

何俺バカ正直に話しちゃったんだろ。気悪くするに決まってるよな・・・・。
高杉は何か考えてる様子だったが、俺がもう一度謝ろうとしたとき「いやそれはない」と言われたので言うタイミングを逃してしまった。
本当に傷ついてないかな・・・心配だ。
その後は喫煙者は肩身が狭いだの、色々愚痴を言い合ったりして案外盛り上がった。
なんだ、高杉って良い奴じゃん。
そろそろ戻ると言うと、「俺はもうちょい吸ってから行く」と言ったので先に戻ることにした。
あいつ一体何本吸う気なんだ・・・。


「おーう、さっき高杉と一緒にいただろ、災難だったな」

喫煙所の前をたまたま通った課長が俺に話しかけてきた。

「災難、ですか・・?」
「だって”あの高杉”だ、気まずくなかったか?」
「いえ・・結構話に花が咲きましたけど・・・」
「ま、まじで!?あいつ何も喋らねぇから無愛想っつって有名なのに!」
「え、そうなんですか?」

か、考えられない。
確かに最初は無愛想な人だとは思ったけど、案外普通に話せて良い人だって思ったのに。
噂をしていると高杉が戻ってきた。
色々と課長に聞きたいこともあったし、課長も逆に聞きたそうにしていたが、本人の前だと何も言うことは出来ない。
自然に課長は俺から離れて行く。





「よし、今日は皆早めに上がって土方の歓迎会やらないか?」
「いいね!」「行きましょう!」
「え、良いんですか・・?」
「いいっていいって。よし、じゃぁあと1時間で終わらすぞ!高杉、お前も来いよ!」
「・・・・・・」

そうして一時間後、課長がよく行くという居酒屋に連れて行ってもらった。

「本当に来たよ高杉・・・」

社員達は高杉がいることに物凄く違和感があるみたいだ。
どうやら高杉は飲み会などめったに来ない、いや来た事がないのでは。というぐらい皆で集まることが嫌いらしい。

「いやぁ珍しいことがあるもんだなぁ〜!そんなに土方がお気に入りなのか?ん?」

そう言って課長がニヤニヤしながら高杉の肩にポンと手を置くが、高杉は特に何も喋ることはなかった。
課長も気まずくなったのか、「さぁ飲むか!」と言って注文をし始めた。
ある程度出来上がってきた頃。
俺はあまり酒が強い方では無かったし、初めてでベロンベロンに酔ってしまうのも恥ずかしくてあまり飲まなかった。
そんな時俺の携帯が震える。ポケットから取り出して表示された名前を見た瞬間、心臓がドキリと脈打った。
酔いなんて全部ふっとんで、逆に嫌な汗をかき始める。

「すいません、ちょっと着信来たんで外出ます・・っ!」

俺は急いで外に出て通話ボタンを押した。

「もしもし―」


***


「土方のやつ遅いなー」
「・・・俺、見てきます」
「え、あ、じゃぁ頼む・・・」
「高杉本当に土方のこと気に入ったんだなぁ・・まるで別人」


***


どうしてこんなときに着信なんて。
そう思いながら通話ボタンを押す。

「もしもし」
『十四郎・・・?今どこだ?』
「言ったところでどうするんだ・・」
『・・・そうだな。じゃぁ切るわ』

そう言って切られた。なんだ、そりゃ。
暫し携帯を見つめていたが、携帯をしまい店に戻ろうとした時

「十四郎」

背中が、ゾクリと寒気がした。
聞いたことのある声。
ゆっくりと、振り向く。

「なん、で・・・・」
「さっき十四郎が店に入って行くの、たまたま見たんだ。声聞きたくなって」

そいつはニッコリと笑っていたが、顔は笑ってない。恐怖すら感じる。

「ねぇ、」

一歩ずつ近づかれ、俺は後ずさりする。こいつは―

「もう一度やり直そうよ?」

俺の、元カレ。





***


転勤でこっちに来た。
けど、前の住んでいた所には同居していた彼氏がいた。
それがこの男だった。
大好きだった。こいつがいれば何もいらないって思ってた。
けど、俺に対する愛情が、重すぎた。

「どこ行ってた?」
「どこって・・・仕事に決まってるじゃないか」
「いつもより30分も遅い」
「そんな・・・」
「ならもっと早く帰れるだろ!」
「んぐっ!」

少し遅く帰ってきただけでも浮気じゃないのかって俺を殴る。
セックスするときも、殴られてばっかだった。
毎日体は痣だらけ。仕事に行くと心配されていた。
そんな時に転勤の話が出た。
痣のことに何も触れなかった上司だったけど、この時は「開放されたいだろ?お前は遠くに行った方がいい」って言ってくれて。
俺は転勤を理由に一方的に別れを切り出した。一対一で話しても向こうは納得しないだろうって思ったから、置手紙を置いて逃げるようにその場を後にした。
もちろん行き先は教えずに。
次の日から着信が鳴り止むことがなかった。着信拒否をした。
すると数日後、メールが届く「声だけでも聞きたい」と。
俺は、まだ好きだった。あんなに暴力をされても、好きだった。
その一文を読んだ瞬間、俺は電話をかけていた。

『とう・・・しろう・・・?』

直ぐに繋がり、今にも死にそうな声で俺の名前を呼ぶ。
どれだけ待っていてくれたのだろうか。もしかしたら俺が電話するまで一睡もしていなかったかもしれない、そんな声。

「ごめん・・・」
『やっと声が聞けた・・・』

懐かしい声。そしてあいつはまた電話すると言って電源をきった。
それから今日までずっと連絡はなかったのに。
今目の前に彼はいる。
怖い。体中が危険だと叫んでいる。でも足は恐怖で竦み動けない。

「やり直そう?」
「・・・もうお前とは一緒にいれない・・・」
「なんで?」
「俺はもう前みたいに接することが出来ない」
「嫌いになったってこと?」
「・・・・・」

嫌いになった訳ではない。けど、このまま一緒にいると俺は壊れてしまう。
それに今は好きという感情より恐怖と言う感情の方が強い。

「ねぇ・・・」
「ぁ・・・」
「十四郎、好きだ・・・」

手が俺の頬に触れる。怖い。誰か。





「土方・・・?」
「!!!」

声をした方を振り向くとそこには高杉の姿があった。
・・・見られてしまった。
高杉は今の状況に勘付いたのか、俺に近づくと俺の腕を掴みそのまま連れて行かれた。

「た、高杉!?」

高杉は何も言わずどんどんと進んでいく。
かなり遠くまで連れてこられたところで手が離れた。

「大丈夫だったか?」
「え?」
「なんか、助けて信号出してた気がして連れてきたが、違ったか?迷惑だったか?」
「そんなことない!ありがとう・・・」

『十四郎・・・好きだ』

急にさっきの言葉を思い出し我に返る。
もしかして、あの言葉を聞かれたんじゃないのか・・・?
ちらっと高杉の方を見ると、煙草を吸おうとしている最中だった。
俺は、勇気を出して聞いてみる。

「・・もしかして、さっきの会話聞かれた・・・?」
「・・・・あぁ」

なにか体で崩れる音がした。
俺が、男が好きだとバレてしまった。
高杉はどう思っただろうか、気持ち悪いと思ったに違いない。
一番気が合う人だと思ってた。でももう今日でお別れかもしれない。
そう思うと泣きそうになった。

「土方・・・?」

それを察知したのだろうか。
高杉は不思議な顔をして俺の方を見る。

「気持ち悪い・・だろ?男が好きとかさ・・・」
「あいつ、元カレ、とか?」
「・・・うん」
「ふーん。ま、どうでも良いけど。店戻るぞ」
「え?」

そう言って俺の腕をまた掴み店へと足を運ぶ。

「き、気持ち悪くないのか?俺のこと。男が好きなんだぜ?」

俺と仲良くしてくれた同僚は俺がゲイだと知ると気持ち悪がって俺から離れていった。
だけど恨んだりはしなかった。だって気持ち悪いと思うのは普通のことだから。

「別に。男が好きだろうが女が好きだろうがそいつの勝手だろ」
「!!」

けど、高杉は普通じゃなかった。









「・・?おい、泣いてんのか?」
「うっ・・・っ・・・」

嬉しかった。そう言ってくれる人は初めてだったから。
いつのまにか目からは涙が出ていて。
それを不思議そうに高杉は見ていた。












Continue.......




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