ズボンを脱ぎ次の命令を待つ。

「今からオナニーしろ」
「自分で・・か?」
「他にオナニーにどんな意味があるんで?」
「っ・・・」

無理矢理犯されるのかと思ったが、そうではなかったらしい。
まだヤられた方が良かった。何も考えず、身を投げれば良いだけの話だ。
しかし自分でするとなると、話は別。
土方は恐る恐る自身に手をのせると、ゆっくりと動かし始める。

「んっ・・・・」

人前でのこの行為は初めてだった。
見られながら手を動かすのはかなりの羞恥。しかしそれに伴い、一人でしている時よりも、感じやすくなっている。
こんな状況だというのに土方の一物は既に元気よく上を向いていた。

「土方さん、もうそんなになってら。流石淫乱と言われるだけありますねぇ」
「も、やだ・・・」

羞恥に堪えられない。今すぐにでも手を止めたい。
けれどそれは儚い願いとなる。

「もっと速く手を動かせ」
「やっ・・も、むり・・・」
「一人でシてる時はもっと手を動かしてましたぜぃ?」
「・・・!」

銀八が遅くなったり、出張したりしているとき、寂しくて一人で行為を行った事が何度かあった。
それもきっと見られていたのだろう。

「も・・恥ずかしい・・から・・」
「恥ずかしい?じゃぁこの写真銀八に見せてもいいんですね?」
「うぅ・・」

土方は涙を流しながら手の動きを速める。
自業自得。自分でしてしまった過ち。逆らうことなんて出来ない。

「あっ・・!イく・・・!あああ!!」

背中を仰け反り絶頂へ達する。
土方の一物からドピュドピュッと精液が溢れ出す。

「はぁ・・はぁ・・」

息を整えていると沖田が近づき顎を掴む。

「最高でしたぜ土方さん。”また”よろしくたのみまさぁ」

これだけでは済まないという沖田の言葉の裏を読みながら、土方は止まらない涙をポロポロと流し続ける。

「あ、そうそう。高杉とはいままで通りセックスしといてくだせぇ」
「え・・・?」

意外な言葉に初めて沖田の目を見る。
その瞳は今から起こることが楽しみでしかたがないという瞳をしていた。

「じゃないと楽しくないでしょう?これは命令」

ニッコリと笑う沖田を見て寒気がした。
放心状態になっていると沖田は土方の頬にキスをし立ち上がり「じゃぁまた明日」と言って写真を片付け去って行った。
このままじゃいけない。そう思っても、高杉との関わりを無くすのも、銀八に高杉のことを言うのも、どれも恐ろしくて勇気が出なかった。

―どうして、俺は・・・

こんなことをしてしまった。銀八は自分に正しい道を教えてくれた。そして俺の家に住めとまで言ってくれて。なのに、俺は・・・。
幸せな時は何も見えちゃいない。こうやって事が大きくなってから本当に大事なものが分かる。
銀八のことが大好きだ。今でもずっと。
でも、本当は凄く不安で。もしかしたら同情で付き合ってくれたんじゃないかって。
だって銀八は俺とあまりセックスしようとしないし、「好き」って言葉も言ってくれない。
その時に高杉と会って。あいつは好きだと何度も言ってくれる。それが嬉しくて。
俺を必要としてくれてるって思えて。銀八は俺のこと本当に必要としてくれてるのかなって。
いつか捨てられちゃうんじゃないかって。
全部に、逃げてる。


土方は気付く。自分は楽な道しか進んでいなかったと。
人と向き合うことをしなかったと。


―こんな俺でも、変われるのかな。

逃げることしかできない自分を。

手のひらを見つめ、ぎゅっと握り締める。
銀八に嫌われてもいい、自分が好きな気持ちは変わらないから。
そう思いに秘め、土方は教室を後にした。



***


授業中、土方は屋上へと向かう。

「よォ。遅かったな」

一緒に帰ったあの日から気まずくなるのかと思えばそうでもなかった。
屋上へ行くと、いつものようにダラダラと煙草を吸いながらくだらない話をする。
今日はいつもより遅く行くと既に高杉は何本か吸っている感じだった。

「今日は、話があって・・・」

声が震えているのがわかる。
そしてその様子に何か感づいたのか高杉は煙草を消し、土方をじっと見つめる。

「もう、高杉とは会えない・・・」
「・・・・・・」
「俺、辛いんだ。高杉は、嫌じゃないならいいじゃんって言ってくれたけど、俺は違うと思う。・・・その、俺は、高杉よりも銀八が・・・・」

そこまで言って口を噤む。
次の言葉できっと高杉との関係は終わってしまう。
それでも、前に進まないといけない。

「・・・好きなんだ。だから、高杉とヤってると、辛い。銀八を悲しませてるんじゃないかって。勝手なこと言ってるのは分かってる。こんな俺を許してくれ」

そう言うと土方は高杉に深々と頭を下げる。
それを見ると高杉は煙草を取り出し火をつける。
そして一口吸うと、ゆっくり煙を吐き出す。

「・・・俺のこと嫌いか?」
「嫌いじゃないよ・・・でも」
「ならいい」
「え?」
「お前は人を傷つけるのが怖いと思ってるだろ」
「・・・」
「だから俺とヤった。俺を傷つけたくなかったから」

その通りだった。自分が拒めば高杉は悲しむと思ったのだ。
言い訳にも聞こえるかもしれないが、せっかく友達になった高杉の悲しい顔は見たくなかった。

「・・・俺はお前の性格を分かった上でセックスしてた。同情だろうと俺はお前とできればいいやって思ってた」

高杉も、同じだった。
3年になり学校に来るのが嫌で、人と接することを拒んだ。
だから屋上で空を見上げる。空は自分を包んでくれるから。
そして出会ったのが土方だった。
一目見た時から自分の体に衝撃が走った。それが一目惚れだと分かったのはもう少し後のことだったのだが。
そして噂を聞く。あいつは男に体を売っていたのだと。
その時普通の人なら抱かないだろう感情が芽生える。なんて嬉しいのだろうと。
高杉は土方を犯した。恋人がいると言ったのにお構い無しに。土方はそんな高杉に身を寄せた。

―こいつは、俺に傷ついて欲しくないんだな・・・。

直ぐに分かった。土方も自分と同じように友達というものを欲していたのだと。
それは態度や言葉に出なくても、自分と似ているということはなんとなく分かってしまう。
それを利用した。利用してしまった。
どんな形でもいいから土方との繋がりを無くしたくないと。

「結局はお前を利用してたんだ。悪かった」
「そんなこと・・・」
「嫌いじゃないなら、またここに煙草吸いにくればいい。大丈夫、もう俺はお前になにかしたりはしない」
「・・・いいのか?」
「いつでも来いよ、俺達”ダチ”だろ?」
「高杉・・・・ありがとう・・・!」

本当に言いたいことは言わなかった。
最近一人で吸う煙草はまずいとか、『もう高杉とは会えない』と言われた時、嫌われたかと思って足が震えていたとか。
土方の前では落ち着いた自分でいたかった。

「じゃぁ俺教室戻るわ」
「おう」

そう言って土方は屋上から去っていった。
一人残される高杉。

―俺も意地っ張りだよなァ・・・
―銀八か・・・。いずれか土方を奪い取ってやる。ククッ

煙草を吸って、吐く。
一人で吸う煙草は少し寂しくて、やっぱり不味かった。



Continue.......

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -