さけびあい(浦富)
蝉が鳴いている、何種類もの蝉が一斉に。きっとこの音を聞かなければ夏が来たとは感じないだろう…、と誰もが思うことを藤内も思っていた。
「風物ってのは良いけど…さらに暑く感じるんだよね」
木陰に座りながら持ってきたうちわをパタパタと扇ぐ、生ぬるい風を感じながら藤内はどうしたもんかと考えていた。
「はぁ…静かになんないかなぁ」
「何言ってるの」
「孫兵!!いや、せみが鳴くのを止めないかな〜なんて」
「…本当に何を言ってるんだ藤内、知ってるか?蝉が鳴くのは―――――」
作兵衛は一人長屋の廊下を歩いていた。迷子も無事に届けたし、委員会も珍しくないし今日はゆっくり過ごせそう、と一人の時間を久しぶりに楽しもうと思っていた。そう、よく知った声がおかしな言葉を言ってるのに気づくまでは・・・
「みーん、みーん」
事実、おかしな行動をしている奴とは関わりたくないが、藤内は一応恋人ではあるし・・・暑さで頭がやられてるなら水でもぶっかけてやろう。そう作兵衛は思い藤内に近づき声をかけた。
「おい、藤内暑さで頭がやられたか?・・・」
「作兵衛!!!ちがうよ、予習だよ!」
「予習〜?蝉の真似がか?」
「そう!!」
変な理由だが、藤内が変な予習をするのはよくあることだ。暑さでやられたのではなくてひとまず安心した作兵衛は立ち去ろうとした。藤内にとって予習の時間も恋人といる時間も同じくらい大切だからだ。
「いっとくけど、ものは壊すな。じゃぁ、予習頑張れよ俺は行くわ」
「あっ、作兵衛ちょっと待って!!」
「?何だよ」
「作兵衛愛してる!!」
「・・・な、なぁ!?」
「愛してる、愛してる、愛してる!!」
「ちょっ、す、すとっぷ!!突然何いってやがる!?」
急に「愛してる」と叫びはじめた藤内に制止をかける。蝉の真似を予習していたのに、突然あんなことを言ってきて混乱しないほうがおかしいだろう。
「何って、予習の後は実行だろ?あ、愛してるより一等好いているの方がよかった?」
「蝉の真似と、それが何の関係があるんだよ!?」
蝉の真似と愛してると言うは作兵衛の中ではイコールにはならない。むしろ、ほとんどの人がそうならないであろう。ほとんどというのはここに一人いるからだ。
「孫兵から聞いたんだ」
「孫兵からぁ?…」
「蝉が鳴くのは、メスを呼ぶためなんだ。土から出て一週間ずっと愛を叫び続ける・・・ロマンティックだと思わないか」
「へぇ〜」
「なのに藤内は静かにならないかなんて!この素晴らしさが分からないのか!?」
「ご、ごめん。でも、愛を叫ぶかぁ」
藤内は少し胸を張りながらそのことを話していた。話を静かに聞いていた作兵衛はそれが終わった後あきれた顔をしていた。
「・・・呼ぶのはメスだろ」
「求愛行動だから別に良いだろ!?」
「それに…言い終わったら蝉は死ぬだろ。俺はそんなの嫌だかんな、もう止めろよ…」
真っ赤な顔をしながら、ぼそぼそと小さな声で作兵衛はそう言った。言い終わると、作兵衛がでれたぁなんて言葉も無視して駆け足でその場から逃げだした。
その後、二人とも蝉が鳴いていると意識するたびに真っ赤になったのは言うまでもない。
―――――――――――季節ネタが書きたかったのです。浦富は藤内がSって言うのも好きだけど純情同士も好きです。
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