あぁ 僕は、貴方のそんな姿は見たくなかったはずなのに。


「……アル、フォンス……?」
俯き黙り込んだ僕を訝しげに覗き込む彼の瞳を僕はそっと見つめ返す。彼の瞳はまるで暖かい太陽の光を宿したように輝いていた。
――でも、違う。
そうじゃない。
「……貴方は、森に帰るべきだ」
一緒に暮らしたい一緒に生きていきたい、そうはにかんで告げられた彼の申し出を静かに断った。
「アルフォ……、」
「貴方の居場所は此処じゃない」
はっきり言い切ると彼の表情が明らかに曇った。――出会った頃は全く感情を表に出さなかった彼が。
……僕と関わってから。
一緒にいる時間が増えてから。
「エドワードさん」
今にも泣きそうな彼の頬に手を添え真っ直ぐ瞳を見つめる。
あぁ、
あの頃の鋭さが、

「随分……弱い色になってしまった」

決して今の彼が嫌なわけじゃない。
……でもあの頃の、出会った当初に感じた野性としての独特の鋭さを帯びた、刃物のような冷たい雰囲気に憧れ憧憬した感情を今でも忘れられないでいるのだ、僕は。

はるか遠く ただ眺めて満足していた方が彼にとっては良かったかもしれない。


「これ以上一緒にいたら貴方は森に帰れなくなる」
ゆっくり告げると彼は小さく震えた声で言葉を紡いだ。
「…………て、いい」
「……え」
「別に森に帰れなくていい……仲間なんてとうの昔に皆死んだ。俺は……、俺はお前さえいれば」
「……エドワードさん、でもそれは」
「じゃあ……ッ、俺のこの気持ちはどうすればいいっ!」
言いかけた僕の言葉を遮り感情を高ぶらせて声を荒げた彼が大きく肩で息をした。初めて見る姿に戸惑い何も言葉が出てこないでいるとまるで独り言のように小さく、頼りない声色で、
「……こんなに好きなのに」
と彼は言った。
―――言われた瞬間、体中が軋むような感覚がした。本当は一番聞きたかった言葉、彼に出会ってからひそかに望んでいた

だって  僕も貴方が。

「………森に、かえって」
駄目だ、言ってはいけない。
必死に気持ちを抑えてそれだけなんとか発した。
泣きたかった。目頭が熱くてまともに彼が見れない。

僕も貴方が好きです。
そう言いたいのを必死で堪える。
今の貴方ももちろん好きだけれど、
………でも僕は、

貴方にはいつまでも気高く生きていてほしいんだ。
あの頃の貴方も同じくらい好きだから。

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