あの頃はまだ死ぬという概念などかけらもない生きることを楽しむだけの若造だった。でも明らかに今より充実した毎日を送れていた気がする。
 ――彼が、いたから。

 彼と共に生きる生活は永遠に等しいものだと信じていた。まさかこんなに呆気なく終わりを告げるなんて予想もしていなかったから初めは彼の死を拒むように思考を停止して考えないようにしていた。
 目の前には撃ち殺されたアルフォンスの姿。ついさっきまで語り合い笑いあっていた筈の彼は今はもう指一つ動かすことのない塊に過ぎなかった。あまりに一瞬の出来事で思考がついていかない。しかし確認するより先に本能が危険を察知しすぐにその場を離れていた。
 脳裏に焼き付く彼の姿、そして最後の言葉が頭を反芻する。

 ……エドワードさん。

 掠れた声でオレの名を呼び、その後吐き出す息と共に 逃げて、と一言。
 後ろを振り返らずただ一心に走り続け、人の気配がだいぶ遠退いているのを感じ取りもういいだろうと立ち止まった途端、じわりじわりと押し寄せる何かに戸惑いを隠せなかったがそれでも泣くことはなかった。仕方ないとそう頭の片隅で割り切って。


 ――それは、もう何十年も昔の話。
 しかしアルフォンスの事を忘れた事などなかった。だから人里であいつを見た時実は死んではいなかったのかと本気で疑ったのだ。他の村人と話をしているのを盗み聞いてみたら名前まで同一。だが近くで見た瞬間彼では無いことがすぐに分かった。目が、太陽と同じ色を湛えている。
 あぁやっぱり違うのか。オレの知っているアルフォンスは大きく広がるあの空と同じ青い色。分かっていたが少しだけ期待もしていたのだろう。残念がる自分がなんだか可笑しかった。

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