本丸から外へ通じる門はいつもはなんの変哲もないが、審神者である主が念じることで各時代に繋がる。
そうやって門を各時代に繋ぎ出陣する部隊を見届ける主に、非番で手が空いている日は大抵付き添っていた。
「危なくなったらすぐ帰ってくるんだよ」
そう言いながら主は皆にお守りを手渡していく。お守りには不思議な力が宿っており僕たち刀を守ってくれるんだそうだ、具体的な説明はしてくれなかったが。ただこのお守りには数に限りがあり今はまだ一部隊の人数分しか揃っておらず出陣する部隊に毎回こうやって手渡し、帰ってきたら主にお守りを返すということを繰り返してきた。
最初はなんとも面倒なことを、と思っていたものだが今では皆当たり前のようにそれが習慣になっている。
「無茶は絶対にしないさ。そのへんは安心してくれ、大将」
部隊長である薬研がお守りを握りしめ軽やかに答えた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
皆が門をくぐり姿が見えなくなるまでじっと見送る。そんな主の姿をやや後ろに控え眺めていた僕は薄くため息をついた。
「きみは本当に過保護だね」
「皆が無事帰ってくることが最優先だからの」
「あまりのんびりしすぎるのもどうかと思うんだけどね僕は」
のほほんと答える主にまた小さくため息をつきながらそう返した。
この人は何に対しても至極慎重に事を進め無理はせずゆっくり確実にこなしていくという姿勢を崩さない。あまりにのんびりしているものだから上からの使いが度々せっついてきたくらいだ。僕としてもたまにもどかしくなるときがある。
「ここのところずっと先への道へ進めていないし多少の無理は必要だろう? それに、もし万が一折れたとしても代わりは――……」
「そういう問題ではないんだよ、歌仙」
静かに、それでいて強い口調でそう遮断され言いかけた言葉を飲み込んだ。
「――分かっているよ」
彼は刀が折れることだけは絶対に阻止したいようだった。帰ってきた部隊に疲労が溜まっていればその日の出陣はたとえ疲労が回復しても行かせないことがあるし、小さな傷でも手入部屋へ向かわせる。最近は少々資源が足りずに苦悩しているようだが。
「しかし、わしにあれこれ言うがおぬしもだいぶ過保護だろうに」
ちらりと横目で僕を見ながら主が言う。毎回少しでも兵力が削がれれば律儀に撤退を繰り返している自分の属する第一部隊を思い出した。主の命とは言え撤退するかしないかはこちらの判断だ、隊長は獅子王なのだが最終判断は僕に任されていた。
さっきはついああ言ったが誰かが折れるところなど想像もしたくない。――ここへ来た当初ならこういう考え方などしなかっただろうに。
「きみに感化されたんだよ、全く」
「ほっほっ、そうかそうか」
そう言って主は嬉しそうに笑った。
初期刀の歌仙さんには近侍とか関係なく審神者のそばにいてほしい。
15/05/18