(白昼夢の鶴丸視点)

「大倶利伽羅? へぇ、それはまた」

 ずいぶんと懐かしい名だ。
 出陣から帰ってきて主から今日新しく入った刀の名前を教えてもらい思わず声に出していた。同じ隊の燭台切も声を出すことはなかったが少し驚いたような困ったような顔をしている。


 相変わらずあの子は不器用なのだろうか。

 この、不器用というのは手先が不器用とかそういうのを言っているわけではなく、寧ろそっちの方がいくらかマシな気さえするくらいだ。
 俺が伊達家に居た頃、あれは彼なりに最善を尽くしていたのだろうが毎回色々と省略し過ぎて相手に伝わらず誤解される様はこちらからするとなんとも歯痒いものだった。もっと上手に立ち回ったほうが楽しくなるぜ、と言ってみたところで「あんたとは違う」と聞く耳持たずだ、仕方のない子だ。

 ようするに彼は人付き合いが下手なのだ。
 いや、あの頃は人の姿を成していたものの肉体を持ち合わせてはいなかったしそもそも人ではないからなんと言ったらいいのか、まぁその話は置いておこう。
 なるべく人を避け一人を好むのにそのくせいざ話しかけると話を聞いてくれないわけでも無視をするでもなくちゃんと聞いてくれる上に、発する声色はとても優しく穏やかなものでものの言い方さえ変えれば随分と他者から好かれただろうに、と思う。それは彼にとって本意ではないのだろうが。
 無理に親しくなろうとする輩はそう居なかったがそれでもちゃんと彼の本質に気付いている者は少なくなかった。俺もその一人だと勝手に思っている。
 あいつは独りが好きなわけじゃなく、独りになりたくないから一人でいるのだろう。



 部屋に戻り防具一式を外して少し身軽になったところで空を仰ぎ見る。穏やかな昼下がりだ、たまに緩く肌を撫でる風が心地好い。このままぼんやり過ごすのもなんだか勿体ない気がしてふらりと部屋を出たところで今日入った刀のことが不意に頭を過ぎった。
 顔を見たい、本当になんとなくただそれだけの気持ちで気が付いたら既に体が動いていた。大倶利伽羅の部屋が何処だかも分からないというのに。

 ふらふらと普段は立ち寄らない辺りまで出歩いてみて改めてここの広さに驚いていた。人数が人数だ、それを収容する大きさなのだから当たり前ではあるんだがそれにしたって広い。
(隅々まで探索し始めたら軽く二、三日は費やせそうだな……)
 ここに来てもう随分と経ったがそういえばまだこの敷地内をちゃんと眺め回したことがなかったことに今更気付く。これからは暇を見つけて本丸の探索を少しずつしていこうなどと考えながら今までは使われていなかった部屋を何気なく眺め、そのまま体が固まった。
 使われていない部屋だったはずのそこには体を丸めて眠る大倶利伽羅の姿があった。まるで猫のようだ、昔から変わらないなと思わず小さく笑ってしまう。そろりそろりと忍び足で部屋に入り眠っている大倶利伽羅のそばに座り込んで暫く思案した後、ゆっくり横になりながら自分も少し体を丸めた。相手が目を覚まさないのをいいことに至近距離でまじまじと顔を眺める。
(今目を覚ましたらさぞや驚くだろうなぁ)
 ふふ、とつい声が漏れてしまいひやりとしたが大倶利伽羅は一向に目を覚ます気配がなかった。とても気持ち良さそうに眠っている。起こすのが勿体ない気がして少しの間寝顔を眺めていた。
 今日は絶好のうたた寝日和だ、日の暖かさにこちらまでうとうとし始めながらそう思った。




 よもやそのまま自分まで寝入ってしまうことになろうとは思いもよらず。

この後、大倶利伽羅に名前を呼ばれるちょっと前あたりで目を覚ますものの声をかけるタイミングを逃す、という流れ。

15/05/16
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