この絵(17/07/23)を描いたときに一緒に添えようと思っていた文。気が付いたら随分経ってしまった。


 最近、暇を潰すときは大抵あてのない散歩の末に大倶利伽羅の部屋を目指していた。

 この本丸の屋敷は大きく分けて中央に一つ、そこにある主の部屋を短刀達の部屋が囲うように配置され、短刀以外の男士が寝泊まりする西棟と東棟がその中央の屋敷を囲うように建っている。和と洋を変則的に織り混ぜた作りでその三つの他にも大小様々な屋敷が連なり随分迷路じみた構造なものだから来た当初はよく探索したものだった。ここがそんな迷路屋敷になった原因は上の連中から本丸と一緒に預けられた式神たちが人数に応じて増設と改装を繰り返した結果だそうだが、ずいぶん混沌とした作りになったものだなと思う。まあ、おかげで退屈はしない。
 新しい刀が来たときや審神者から全体への報告がある日には中央の広間で全員集まって食事をし、普段は西と東にそれぞれ小さな厨が配置されているのでそちらで各自済ますようになっていた。部隊編成も昔とだいぶ変わってきたが俺と大倶利伽羅が同じ部隊で出陣することは昔と変わらずほとんど無く棟も違うので会わないときは数週間会わないのもざらだ。別に一緒にいないと寂しいとは言わないが会えない日が続くと顔が見たくなるものでたまにわざと部屋の近くを通ったりするものの、ここ最近は時間が合わないのか部屋の中はいつも空だった。
 
 今日も大倶利伽羅の姿はない。なんとなくこのまま帰る気になれず部屋の前で立ち止まりしばらく考えを巡らせていた。いつだったか、彼が部屋から半身を乗り出して寝転んでいたのを思い出して試しに横になってみる。朝餉を終え日もだいぶ高いところに移動していたが板張りの廊下は朝方と同じくひんやりとしていて接している側から伝わる冷たさが心地よい。頬を付けたまま庭先をぼんやり眺めているとそのままうっかり寝入ってしまいそうだったので寝返りをうつようにゆるゆると体を動かしてそれを凌いだ。せっかくここまで出向いたのだから寝入るのは勿体ない。
 そうやって眠気と葛藤していた暫しの後、部屋主が帰ってくる足音が床から伝わってきたので視線をそちらへやった。
「……おい、そこで何をしている」
「涼んでるんだ」
 お前もたまにやってただろう? 言いながら向けていた視線を外し、また床へ頬を寄せて目を閉じた。自分の体温で温まってしまったがまだ充分ひんやりしている。
「これは確かに気持ちがいいな」
「少なくとも俺はそんな中央で寝転がるようなことはしない」
 そう言ったあと気配が動くのを感じ衣擦れの音に耳をすませた。そばに腰を下ろしたのだろう、小さく息を吐く音が存外近くで聞こえる。
「それで、」
「?」
「……なぜ俺の部屋の前なんだ」
「わざとに決まってるだろ?」
 察しのいいお前はもう気付いているんじゃないか、と出かかった言葉を呑み込んでから伝えてみれば今度はあからさまに大きな溜め息をつき静かに気配が遠退いていった。
「はは、つれないなぁ」
 取られた行動は予想通りで軽く笑いつつ後ろの気配に意識を向けていたら部屋からまたこちらに戻ってきたようで少し驚く。てっきりそのまま部屋から出てこないのだと思っていたがーーいや、そもそも彼はそこまで素っ気ないわけではなかったし部屋の前で居座られたら放ってはおかないだろう。身内のような間柄にはずいぶんと甘いよな、と光忠や貞宗とのやり取りを見掛けるたびに思うが自分もその枠に収まっているのかと考えるとなんだか良い気分だった。

 ちょうど真後ろに腰かけているのだろう彼のほうからそよそよと心地よい風が髪を撫でる。寝返りをうって大倶利伽羅のほうへ顔を向けると少し眠そうにしながら手に持った団扇を扇いでいるのが目に入ってきた。
 組まれた足の上へやや強引にずいずい乗り上げるも抵抗はなく、すんなり受け入れられたうえに体を支えるよう背中に腕を添えられた。視線は外を捉えたまま添えた手で軽く背中をぽんぽんされる。
「……なぁ」
「ん」
「暑くないのか」
 なんとはなしに出てきた言葉だったがそれを聞かれた大倶利伽羅は少し目を見開いたあと抑えぎみに笑い、
「あんたがそれを言うのか」
 と呟いてまた静かに笑っていた。頭にその振動がゆるく伝わる。ーー確かに、原因である俺から聞くのもおかしな話だった。
 不思議なことにこうやってくっ付いていても俺は別に暑いと感じていなかった。さっきまで床の冷たさをあれだけ堪能していたというのに、伝わる体温のあたたかさがむしろ心地よく感じる。そのせいか当初の目的もままならず再びやって来た眠気と葛藤しなければならなかった。

19/07/14
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