おはようからはじまって、すこし眠たそうなおやすみで終る一日がこんなにも愛おしくなるなんて、きみも思わなかったろう(
ねぐせの前日の話/うっすら事後表現有り)
眠気に身を任せ布団の中で微睡みはじめたとき不意に首筋へ吸い付かれて思わず肩が震えた。その反応に気を良くしたのか背後から小さく笑っている気配がする。
「っ……国永、何だ」
「美味しそうだったんで、つい」
なおもまだ喉の奥を鳴らしつつ唇を軽く触れさせながらそう囁かれた。律儀に体が反応してしまうせいで声が上擦りそうになるのを必死で耐えて言葉を返す。
「俺は食べ物じゃない。大人しく寝ろ」
「……せっかく一緒にいるのにきみの顔が見られなくて寂しいんだ」
さっきまでの楽しげな声の調子はどこへ行ったのか、今度はずいぶんとしおらしく呟いたかと思えばぽすり、と首元に彼の額が当たった。
毎回向かい合わせで眠るわけでもないし、お互い背を向けて寝ることもよくあることで今日に限ったことではなかった。それに顔なら一刻前に散々眺めていたじゃないか――と、浮かんだ言葉とともにそのときの熱まで思い出しかけて慌ててかき消す。背中に伝わる体温のせいかなかなか気持ちを落ち着かせることが出来ずその上さっき言われた言葉が頭から離れない。寂しい、とか普段は全く言わないくせに。身を寄せながらああ言われたらこのまま眠るなんて無理に決まってる。そう観念して国永のほうへ体を向ければずいぶんと機嫌の良さそうな笑顔が待ち受けていた。
「……それは寂しいって顔じゃないだろ」
「そりゃあ、今はきみの顔が見られたからな」
この視界の中じゃきっとぼんやりとしか見えていないだろうに彼の瞳はしっかりとこちらの眼を捕らえていた。頬を撫でる手が妙にあたたかい。じわりと上がる熱に内心ひやひやしつつされるがままでいると国永はそれで満足したのかおやすみ、と小さく呟いて案外あっさり目を閉じた。本当にただ顔が見たかっただけなのか。妙に熱っぽい触れ方をするものだから密かに身構えてしまったじゃないか。ここまで好き勝手やられたまま大人しく眠るのもなんだか癪な気がして、さっき彼がしたように頬に触れると薄く瞼を開いた双眸が笑みを作りながらこちらを見ていた。
「どうした? きみも早く寝たほうがいいぞ」
「……誰のせいで眠れないと思ってるんだ」
「はは、すまんすまん。なんならもう一回し」
「断る」
言いながらそっと腕が伸びてきて頭を抱えるように抱きしめられた。最近肌寒くなってきたせいもあってたまに抱き枕にされるようになったが、これはこれで心地よいのでこちらからも腕を伸ばし抱きしめ返して瞼を閉じる。
「おやすみ」
腕の中、頭を擦り寄せながら言うとさっきよりも少し眠そうな声で言うおやすみが耳に届いた。
お題配布元:へそ
16/10/23