作ったてるてる坊主を手のひらに乗せてぼんやり眺めていたら視界の端で赤色が揺れていたので顔を上げた。国永が珍しく傘をさして出歩いている。たまに水溜まりを避けるためにひょいひょい飛び越えるので彼が持っている番傘がひらひらと宙を舞った。薄暗い色彩の中でその番傘の赤色だけが妙に鮮明に映ってなんとなく目で追っていたら俺に気付いたのか彼がこちらへやってきた。揺れる傘の動きのせいか妙に楽しそうに見える。
「あんたも傘をさすんだな」
「その言い分だとまるでいつも傘をささずに出歩いてるみたいじゃないか」
「いつだったか雨にうたれて風邪を引いていただろう」
「きみは物覚えがいいな! まったく、去年の話だぞそれは」
もう忘れてくれ、そう続けながら肩をすくめたあと不意に視線が俺の手元で止まった。
「その手に持ってるのは?」
「ああ、これは」
言われて手のひらの上にある存在を思い出す。返事をする前に国永が手を差し出してきたのでその上に乗せてやったら予想外だったのか少しだけ不思議そうな顔をしたあと手の中の存在を見つめていた。
「てるてる坊主か。へぇ、きみがねぇ」
ずいぶんとまたかわいいことをするじゃないか、にやにやしながら続けられた台詞に居心地の悪さを感じつつ言葉を返した。
「……主に頼まれて作っただけだ。ちょうどこの広間にいたのが俺だけだったから」
この部屋の分と言われて小さな布きれを数枚渡したあと主は他の広間へと向かった。とりあえず本丸内にある広間すべてにてるてる坊主を付けておこうということらしい。渡すときに余分に貰った布は自分の部屋にでも吊るしておこうと黙々と作っていたが気がつけば全部で三つもある。
「なぁ大倶利伽羅」
「なんだ」
「これ、一つ貰ってもいいか」
「? 別に構わないが」
むしろ一つ余るのでその方が有り難いが意図が分からない。なんとはなしに国永のほうを見ていると傘を傾けてなにかしようとしているのか傘が不自然にゆらゆらしていた。
「……何してるんだ」
「いや、端に吊るしたいんだが傘を支えながらだと上手く結べないもんだな」
「国永」
名を呼べばそれで察したのか傘をこちらへ傾けてくれたのでてるてる坊主を受け取って端に吊るした。
「軽く引っ掛けてあるだけだからすぐ取れる」
「いやいや充分だ、ありがとう」
にこやかにそう答え軽やかな足取りで雨の降り続けている庭へ国永は再び戻っていった。彼の白い後ろ姿と傘の端で揺れるてるてる坊主を見ながら、てるてる坊主の親子みたいだなとぼんやり思う。あれだけ元気なてるてる坊主がいるのだからここ数日間降り続けているこの雨もいずれ止むだろう。
***
「ずいぶんご機嫌だね鶴丸さん。そのてるてる坊主くんとデートかい?」
「ああ、ちょっとそこまでお散歩デートだ」
16/06/19