「あー、いたいた! ちょっといいか三日月――と、何か用事あるならあとでいいんだけど」
「いや、別に用事はないな」
 そう答える三日月に対し獅子王は少し眉間にしわを寄せた。
「アンタの部屋からここまでだいぶ距離があるけど……用事ないなら何してたんだ?」
「ただの散歩だ、ここは広いからな」
 主から貰った地図でも充分だが自ら足を運んだ方が間取りが覚えやすい、言いながら辺りを見渡す。三日月の言うように本丸の敷地内は無駄に広かった。それこそ一日では把握しきれないほどに広く、屋敷の中は入り組んでいて迷路じみた場所もある。獅子王もここに来たばかりのころは人数も少なかったせいか何故こんなに広い敷地なのかと思ったものだ。
「なんなら軽く案内しようか、俺も暇してるし」
「用があったのではないか?」
「ああ、別に急ぎじゃないしな」
 言いながらお互い歩を進める。前はしょっちゅう出陣していた第一部隊も今はどちらかというと他の部隊の補助的な役回りになっているためだいぶ出る回数が減っていた。もとよりここの審神者は本丸に訪れるのがまちまちなせいか出陣自体あまり多い方ではない。居たかと思えばふらりと出ていき、かと思えばこちらに長く留まることもある。気まぐれな上に加えてあの慎重な性格、慎重……というかちょっと怠惰な気がする主のあの性格はここにいる刀達に少なからず影響を与えている気がした。もしかしたら顕現される際に影響を受けるのかもしれない。どことなく皆のんびりしている。
「たまに演練っつって、あっちにある広場で結界を張ってから他の本丸の奴らと模擬戦みたいなことをやるんだけど俺たちと雰囲気が違ってて面白いぜ」
「ほほう」
 全く同じ顔、声、そして体格。しかし纏う雰囲気はそれぞれ違う。自分と対峙したときも鏡を見るような気持ちには少しもならなかった、そのときのことを思い出しながら獅子王が話す内容を興味深く三日月は聞いていた。
「それはなかなか面白そうだ。……まずここ以外にもこのような場所が存在していることに驚いたが」
「なんだったかな、確か時空? が違うとかなんとか……あんまり詳しく聞いてねぇからその辺は説明できないけど」
 初めて他の本丸の獅子王と戦ったあと別人のような自分に対してあれこれ主に聞いた気がしたがいまいち理解しきれなくて最終的には理解するのを諦めたのだ。審神者は主一人ではなく他にも存在し、ここと同じく顕現された刀達が本丸で生活しているというのは理解している。
「戦に身をおくのが本意ってのはどの本丸の刀もそうだろうし個人差はあると思うけど、ここにいる奴らは少し人に寄ってる気がする」
 戦ってるときがやっぱ一番心が躍るんだけど人として生活してるとこっちも悪くないって思うんだよ、少し眩しそうに目を細めそう続ける獅子王を横目で見つつ改めて三日月は敷地内をゆっくり見渡した。
「俺はここに来て間もない故その感覚は分からんが……」
 自分自身である刀を己の腕で振るうことができるのが今はただ楽しいせいか、人としての生活が浅くまだここに思い入れがあまりない三日月には獅子王の言う言葉はいまいちピンと来なかった。ただ、彼のようにここで長く日々を過ごすようになれば今とは違った景色に見える日が来るのかもしれない。
 それこそ、先ほど話をしながら獅子王が見せた表情のようにこの瞳に眩しく映る日が。

16/02/11
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