――これで俺の計画も全て終わる。やっと約束を果たせるよ、リン。
***
俺の首を真っ先に取りに来るのは青の国に仕える赤の騎士だと思っていたから予想外の人物に思わず声を発した。
「へぇ、勇ましい姿だね。普段の貴女からは想像も出来ない」
「………っ」
いつもの、外見だけ取り繕った笑顔の面影などは全くなくそこにあるのはただただ憎悪の色に染まった険しい表情をたたえた青の国の姫がいた。
「――そんなにあの男が好きだった?」
聞けばみるみる内に顔が赤くなる、……ああなんて分かりやすいんだろう。可愛くて可哀相なお姫様。
「……、何故、彼を殺し……緑の国を滅ぼさなければならなかったの」
怒りで震える唇から零れたその台詞は予想していた通りでつい笑みが零れた。
「何故って、邪魔だったからだよ。それ以外の何物でも無い。彼がいては貴女を……そして貴女の国が手に入らなかっただろう?」
「……ッ!」
至極当然の事のようにそう言えば彼女はぎっとこちらを睨んだまま暫く押し黙ってしまった。まぁそれもそうだろう、俺ははなから彼女も青の国も欲してはいなかったのだから。
「……貴方は最低だわ。だって貴方は初めから私など見てはいなかった、見え透いた嘘は止してくれないかしら」
「貴女こそ、想い人である彼が自分を見ていなかった事に気付いていなかったわけじゃないだろう?」
……――緑の国の、あの男は。
一目見てリンに心奪われそしてリンも彼に心を奪われていたのだ。
「…………。それでも私は、」
「?」
しかし彼女は真っ直ぐこちらを見つめて静かにはっきりと、
「……彼を、愛していました」
そう告げた。
あぁ、立場は違えど彼女もただ一人愛する人の為に生きてここまで来たのか。かたきを討つために。そのしんの強さには少し惹かれるものがあった。
「……もしリンがいなかったら、本当に好きになっていたかもしれないなぁ」
そんな世界俺が許さないけれど。
思わず口から漏れた呟きが聞こえたのか、青の姫は僅かに肩を震わせ俺を睨み返していた。
「………私は、何があっても貴方だけは好きにはならない」
彼に愛を告げた時とは裏腹にどろどろとした感情が滲み出た、低く地を這うような声。
「はは、それで結構」
「……?」
「だって俺を好きになっていいのはリンだけだもの。」
彼女の瞳を見つめ返しながら殊更明るくそう言い放つと、まるで恐ろしいものを見ているかのように体を強張らせて顔をしかめていた。
「………貴方、狂ってるわ……」
「だろうね、自覚はあるよ」
――だから滅ぼさなければならないんだ。
リンを長い間暗くて狭い場所に閉じ込めていたこの国を、
この俺を育ててしまったこの国を、
………そして俺自身を。
全てはリンの幸せの為に。
長話をしている内に、気づけば部屋の外がだいぶ騒がしくなってきていた。
「では、さようならお姫様」
もうそろそろ頃合いだろう、俺はそう思い隠し持っていた小剣をそっと首筋に宛がいながら目の前の彼女に別れを告げた。
ああ、これでやっと君の幸せを邪魔するものは全て無くなるよ、
リン。
「………レンッ」 ――意識が遠退く間際、愛する姉の声が聞こえた気がした。