昔からこの国の城の者達は占いやまじないを強く信じていた。俺達が生まれる前、この国に古くから仕えていた呪術師の老婆はこう言ったそうだ。

「やがて生まれてくる後継ぎとなる子は強い魔力を持って一つの命を二つに分けて生まれてくる。二人揃ったままではその魔力の影響によってこの国を滅ぼす災いを招くだろう、しかしだからといって片方を殺せばもう片方へ全ての力が注がれその結果国を滅ぼす事になる。片方、娘の方を殺さずどこかへ閉じ込めて監視しておくべきだろう。」

 全く、馬鹿げた話だった。
 後々この話を病床にふせった父から聞かされた時は思わずそのまま永眠させてやろうかと思ったくらいだ。何故そんな根も葉も無い話を素直に信じてしまうのか分からない、理解出来ない。
 ――しかし生まれてきた後継ぎは双子であり、その片方は呪術師の言っていた通り女だった。


 それから自分の片割れである姉に会ったのは父からあの話を聞いた後ちょうど5日くらい過ぎたあたり、……だったと思う。
 ソレ、――は外見はただの城壁で入り口なんて大層なものはなくただ地面との境目に小さな窓のようなものが見えた。光源を取り込む為のものだろう、そう思いながら俺は窓からそっと中を覗いた。
「………だれ?」
 居たのは見目は薄汚れていたが鏡で見た自分にそっくりで、でも明らかに自分よりもっと細く小さな姿。
「……リン……君が、リン?」
「ごめんなさい、……名前は忘れてしまったの。昔ばあ様から聞いた気がしたんだけれど」
 聞くと彼女は困ったように顔を俯かせてそう言った。まるで鈴を転がしたような透き通った声が心地よく耳に響く。俺は始終気持ちが浮ついて落ち着かせるのが大変だった。

 たった一人の俺の兄弟、
 探し求めた俺の半身、
 愛しい愛しい俺の姉、
 ………リン。

「……っ」
「どうしたの、大丈夫? どこか痛いの?」
「ち、が……っ」
 気持ちが抑え切れなくていつの間にか泣いていた。彼女がおろおろしながらも俺を気遣ってくれるその姿がまた愛おしくて涙が止まらなかった。ああ、ごめん、違うんだ……ごめんねリン、俺は大丈夫だから。
 流れる涙と漏れる嗚咽を抑えるためにしばらく格闘し、それから俺は途切れ途切れに言葉を発した。
「……っ、……ねぇリン。あのね、」
「なに?」
「リンは外に……出たくない?」
「! ……っで、でもばあ様が」
「そんな所、暗くて狭くて……なによりさびしいでしょ。――それにもうばあ様はいないじゃない」
「……、……なんで」

 ――彼女の世話役兼監視役であった老婆は先日亡くなった。
 父はリンの居場所は教えてはくれなかったが姉の名前や身の回りの事は聞けばあっさり答えてくれたので調べる必要さえなかった。監視役が居なくなった今、新しい監視がつく前にどうやってでも居場所だけは見つけなければならないと心に決め散々探し回ったかいがあったというものだ。

 何故ばあ様が亡くなった事を知っているのか分からないという顔で眺めているリンに俺はありったけの想いを込め微笑んでみせた。そして伝えたかった言葉を紡ぐ。
「俺がいつか必ずそこから出して幸せにしてあげるから……だから待ってて、リン。」
 語尾はさっきまで泣いていたせいか少し掠れてしまった。


 姉の話を父から聞いた時、自分が何故こんなにも姉に執着してしまったのか初めは理由も何も分からなかったが姿を見て瞬時に俺は理解したのだ。
 彼女の傍にいなければならない、
 そばにいて守らなければならない。

 幸せに、彼女を幸せにしなければ。

 自分への使命だと思った、彼女の幸せの為なら何を犠牲にしたって構わない。……たとえそれが自分の命であったとしても。

09/02/21
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