―――何か、おかしい。
あれからリンはぼんやりと遠くの空を眺めている事が多くなった。
緑の国の王子に街中で偶然会ったあの日、会話すら交わしていない相手に想いを寄せるだなんてあるわけがないだろうと軽く見ていたがどうやらそうでもないらしい。ふと過去を振り返れば今まで会った事もない姉に対して随分と盲目的に城中を探し回った自分の姿が頭に浮かび思わず苦笑した。きっかけはどうであれリンが誰かを好きになるのもその者とやがて家庭を築く事にも反論はしないし、むしろ「リンの幸せ」を見届けるという当初の目的からすれば何も問題はない筈だった。
その想い人が自国を滅ぼす計画の為の犠牲となる緑の国の王子で、彼には国王が決めた婚約者が既にいるという事さえ除けば。……丹念に計画を立ててきた手前、今更起動修正などしている余裕は俺には無かった。
――本当に理由はそれだけ?
しかし考えを巡らしている最中頭の中で囁かれた呟きに自然と体が強張る。あの日以来自分の心の片隅に居座っているこの感情にじわじわと悩まされるようになっていた。もともと無い筈だったそれらの感情――リンに対して抱く独占欲、相手への嫉妬、妬み、そして……憎悪。
ただひたすらに黒く淀んだ影のようなこの感情。自分にとってリンはそういう存在ではない、俺はただ……彼女の幸せを願っていただけなのに。いや、気付いていなかっただけなのか。
リンには幸せになってほしい、のに。
(……彼女の意識が誰かに向いていることがこんなにも苦しいだなんて)
その「誰か」を殺せば苦しさから解放されるよ、王様
囁かれる度に少しずつ何かが壊れていくような気がした。
09/04/01