05


 
なまえ・みょうじは自分をかなりの美女だと自負している。
 
整った顔立ちに、モデルの様に長い脚。男を喜ばせる豊満なバストと細いくびれ。
彼女は美しいものが好きであるが故、自分が美しくなるための努力を惜しまない。
ヨガにジム、エステに断食。できる努力は最大限行う真面目な性格と、何が何でも欲しいものを手に入れようとする貪欲さ。
つまり、天性の素質と性格から湧き上がる自信と、その自信を裏付けるように彼女に傅く数多くの男たちのおかげで、彼女は自分の価値をよく理解しているのである。
 
だが、そんな自信溢れる彼女にも手に入れることが出来ないものがある。
それは意中の相手の心だ。
なぜか昔から好きな相手に振り向いてもらう、ということは彼女には叶わない願いであった。引く手あまたの彼女の腕を、彼女が好きな相手は引いてくれることはないのだ。


 
「なまえ、この書類お願いします」
 
なまえはいつも通りボスであるジョルノの執務室のソファーで運ぶ為の書類を渡されるのを待っていた。
だが、今日はいつもと違うことが1つある。
それはこの書類を届ける相手が、意中の相手であるブチャラティであるという点だ。

そのためになまえは自分を最高の女に作り上げた。
今日の為に買った卸したてのバレンシアガのワンピースに勝負靴であるルブタンを合わせ、極めつけはルブタンのレッドソールと同色のシャネル99番の赤ルージュ。
 
だからこそ、今日こそはブチャラティの目にも止めてもらえるはずだとなまえは思い、期待し、ブチャラティの元へ行くタイミングを今か今かと待ち望んでいたのであった。
 
「ありがとうジョルノ。確かに受け取ったわ。」
 
受け取った書類をブレスレットへ変化させてから、なまえはジョルノに礼を述べる。
そんな彼女を見ていつも以上に気合いの入っていることに気づいたのか、ジョルノは問いかけた。
 
「今日はデートですか」
 
「ふふ、私はいつもデートしているわよ。ご存知でしょう?」
 
「知っていますが、今日は一段と着飾っているので、気になって」
 
いつものなまえであればそれを適当に受け流したことだろう。「いつも通りよ、ありがとう」とでも言って。
だが、今日の彼女はいつもとは違った。
先日、朝まで付き合わせたミスタとの飲み会で、ミスタに言われ続けた「好きな人がいる」発言を実行するには今しかないと思ったのだ。
 
「ええ、実はそうなの。今日は本命に会うの」
 
そう言って口角を持ち上げたなまえを見てジョルノは心底驚いたように目を丸くした。
その予想外の顔になまえ驚く。
 
「…そんな相手がいるんですか?」
 
なまえはもともと、ジョルノに対して気のある素振りをしたつもりは無かった。
年下は嫌だと口に出しているし、他の男の影を隠したこともない。
確かにジョルノに口説かれているのでは、と思う時もあったが、思わせぶりな言い回しはジョルノの性格だと思っていたし、口説いていたとしてもせいぜい遊び相手にしたいだけだと思っていたので、勘違いだと決めていた。
 
だからこそ、ジョルノのなんとも言い難い複雑そうな顔に驚いたのだ。
 
「え、ええ、いるわよ。」
 
思わず声が上ずる。
なまえはジョルノを仕事のパートナーとしてしか見ていない。
だからこそ、あのじゃれあう冗談交じりのいちゃいちゃとしたやりとりが楽しかったのだが、そう思っていたのはどうやら自分だけで、ジョルノは本気で口説いているのかもしれないと勘ぐる。
 
「…そうですか、知りませんでした。お相手は?」
 
「そう言われると思って黙っていたの。内緒よ。」
 
先ほどの表情をさっと隠してにこやかに問いかけてくるジョルノになまえは少しばかり怖さを感じた。
と、同時にさすがマフィアのボスだ、とも思った。
 
「言ってくれれば、あんなに口説かなかったのに弄んで、ずるい人ですね」
 
「ずるいだなんて。聞かれなかったから言わなかっただけよ」
 
「はは、なまえらしい。それでは、デートに遅らせるわけにはいきませんから、この書類をさっさとブチャラティに届けてもらえますか?」
 
「ええ、わかったわ」
 
先ほどの表情は気のせいだったのだろうか。
そう疑問を持ちつつもなまえはあえて気づかないふりをして振り返ることなく部屋を出た。
だから、後ろのジョルノがどんな顔をしていたか、彼女は知らない。
 
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