後悔02


街頭だけが照らす暗い夜道を2人並んで歩く。
並んで話すまで気がつかなかったが、彼はかなり背が高い。
おかげで、私は彼の顔を見ながら話すために首を傾けなくてはならないし、逆に彼はそんな私を見るために斜め下を見なければならないようだ。

だが、少なくとも私はそんな煩わしいはずの行為すら、心地良く思えて、胸が温まるような、くすぐったい気持ちでいっぱいだった。

「いつもこんな遅くまで飲んでるんスか?」

「まさか、たまたまですよ。今日は少し飲み過ぎちゃって…」

「へー、酒、強いンスか?全然酔ってるように見えねーし」

「まあ、そこそこ、かな。仗助さんは?」

歩きがてら自己紹介をしてわかったことは、彼の名前は仗助さんで、生まれも育ちも杜王町だということくらい。

あとわかっていることといえば、彼がとても話し上手で人見知りをしない性格だということ。
そのおかげで1人では暗く長い退屈な道も、楽しく過ごすことが出来ている。
私は、仗助さんのその人見知りしない性格に尊敬に近い気持ちを持っていた。
こんなに明るく社交的で、整った顔をしていのなら、きっと女性にもモテるんだろう。

「んー、そこそこっスねー。まぁ、あんまベロベロになるまで飲んだことねーだけなんスけど」

「そうなんだ」

こんなに派手な見た目なのに、彼はずいぶんと大人しい生活を送っているらしい。
ベロベロになるなんて、私からすれば大学時代にはもう何度も苦いほど経験済みだ。
もしかしなくても、きっと彼より私の方が酒癖が悪いのだろうと気づいて、なんだか薄寒い気持ちになる。

話していけばいくほど、最初に感じた絡んではいけないであろうヤンキーや不良といったイメージは、私の中では完全に払拭され、人は見かけにはよらないなと、改めて思わされた。

ちなみに私たちがどこに向かって歩いているかというと、それはコンビニだ。

なぜなら、私たちはお互いの詳細な住所は言ないで、ただ互いの家の最寄りのコンビニを教えあった。
多分それは、私が警戒しないようにという仗助さんなりの気遣いなのだろう。

私と仗助さんの家がある定禅寺の辺りにはコンビニは決して多くないので、ある程度予想はしていたが、私たちが伝えあった最寄りのコンビニは同じお店だった。
だから、私たちはなんとなくそのコンビニまで一緒に歩くと決めたのだ。

そして、そのコンビニまでもうあと少しでたどり着いてしまう。


「もうすぐっスねー」

「…そうですね」

コンビニがもう少し遠かったらよかったのに、と私は心の中で毒づいた。

彼とはまた会えるだろうか。
近所だと言っていたし可能性は決して低くはないはず。
でも、それでもこの時間が終わってしまうことがやけに寂しくて、気づけば私は口を開いてしまっていた。

「あの、良かったら、うちで少し飲みませんか?」

「、え?」

彼の反応を見て、やってしまったと思った。
お酒が入っているせいで少し大胆になり過ぎてしまったようだ。
私は慌てて弁明をした。

「いや、週末だし、私もう少し飲みたいなーと思ってて、だから、その、仗助さんもよかったら、と思って…って、ご、ごめんなさい、急に誘われても困っちゃいますよね」

「え!あ、いや!嫌とかそーゆーんじゃねーんスけど、ちっとばかし驚いたっつーかなんつーか…。なまえさんはいいんスか、俺みてーなよくわかりもしねー男を家に入れちまって…」

「ふ、普段はこんなコト言わないんです、本当に!でも、仗助さんは悪い人じゃ無さそうだし、その…もう少しだけ話してみたいなー、なんて」


言いながら耳が熱く熱を持つのを感じる。
これではまるで、逆ナンだ。
彼のことをナンパじゃないかなんてついさっき警戒したくせに、私のほうがナンパしてどうするんだ。
そう思うと恥ずかしくて穴があったら入りたかった。

彼の反応を見るのが怖くて、私は目線を足元に下ろして必死に彼の顔を見ないようにした。
この気まずい雰囲気が早く終わって欲しいと願いながら。

「あー、…まあ、その、俺も、なまえさんとはもう少し話してみてぇーな、とか思ったりしちゃったりしてるんで、その、実はめっちゃ嬉しいんスけど…」

彼の返事を聞いて、私は耳を疑いながらも勢いよく顔を上げて彼を見た。

「え!ほんとに?」

「はい。でも、ほら、やっぱりこんな夜中に女の子の家に行くっつーのは如何なもんかと思う気持ちもあるっつーか」

「そんな、気にしないでください!私が家で飲みましょうって言ったんですから!ただ軽く、軽く飲んでお話がしたくて!」

「まあ、なまえさんがいいなら俺はウェルカムって感じスけど…」

「じゃあ、ぜひ、飲みましょう」

「…へへ、なんかそんなに嬉しそうにされると、照れますね」

そう言って目尻を下げて笑う彼の笑顔を見て、私もつられて笑う。

「酒、コンビニで買いましょう。俺、運びますから」

「はい!」

さっきまでもう少し遠かったら、なんて思ったコンビニが、今はもっと近ければ良いのになんて思ってしまう自分のわがままさに苦笑いしながらも、私は仗助さんともう少し一緒にいられる事の嬉しさで満たされていた。

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