シーツ




幸せになれない人間がいるならきっと彼の様な人間の事を言うのだろうなと考えながら、私はベットに広がるブロンドの髪の毛を眺める。
10代とは思えない色気と、鍛え上げられた身体は、神の愛を一身に受けたと言っても過言ではない。

(キレイ…)

美術品を見つめるように私はただ、少しずつ朝日で照らし出されていく彼の寝顔を見ていた。

どのくらいそうしていたのか。
時間の感覚すらなくして彼を見つめていた私の視線にようやく気づいたのか、彼はフルフルとまつげを揺らして、ゆっくりと目を開けた。

「・・ん、」

「・・起きた?」

「・・・ええ、まあ。・・あなたは僕よりも随分早く目を覚ましていたようですね」

「そうなの。アナタが構ってくれないから、寂しくて死んじゃいそうだったわ」

「ご冗談を」

少し眠気の残った声でそう言って、ジョルノは大きなあくびとともにベットから起き上がった。
昨日の情事の後そのまま眠ったせいで、何も身につけていない彼の身体が惜しげもなく光の中に晒される。

「本当にアナタって綺麗だわ」

「綺麗なんて言われて喜ぶ男はいませんよ」

セリフの割に彼は照れた様子で笑って一瞬だけ私に目を向けると、そのままスタスタと寝室を出ていった。

(ああいうところは、なんだかんだまだ幼いのよね。)

私はそんな背中を見送ってから、彼のいなくなったシーツにもう一度潜り込んで包まった。

そして、香りに惚れ込んで衝動買いした少し高い柔軟剤の香りを堪能する為に、思い切り鼻から空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
新しい柔軟剤と彼の香水の香りは相性が良かった。
彼の香水と混じった時にいい香りになるように柔軟剤を選んだから当然なのだけども。

いい香りは気分を上げてくれる。
このシーツは、たった一枚で私を世界一幸せな女にしてくれる魔法のアイテム。
私はこの香りを一生忘れる事のないように、もう一度大きく息を吸った。

「そんなに僕の匂いが恋しい?」

「・・・違うわよ。柔軟剤、これにして良かったなって改めて思ってただけ」

まさかこんなにすぐに戻ってくるとは。
シャワーを浴びに行ったとばかり思っていたが、どうやら彼はミネラルウォーターを取りに行っただけのようだ。
入口の柱に凭れながら話しかけてくる彼に対して、私はシーツから顔を出して冷静にウソをついた。

「ああ、今日は確かにいつもと香りが違いましたね。新しくしたんですか」

「そう。ちょっと高かったんだけどね、いい匂いだったから」

本当は柔軟剤とジョルノの香水の残り香を堪能していたんだけど、そんなこと死んでも教えたくなくて、私はそう誤魔化す。
幸い彼は気づいてもいない様子で、ミネラルウォーターに口を付けながらベットまで歩いてくる。

水を飲み込む為に喉ぼとけが動く姿まで厭らしいなんて、彼は二十歳を超えたら一体どんな男になってしまうのやら。
想像も出来ないし、したくない。
ただでさえ今も私の手に負えないくらいイイ男なのに、これ以上進化されたら困る。
私なんて相手にもされなくなってしまうじゃないか。

喉の渇きが潤ったのか、ジョルノはベットサイドテーブルにミネラルウォーターを置くとベッドへ片膝をつきシーツごと私を抱きしめるように手を回してベットへ倒れ込んだ。

「なまえには僕の匂いすら恋しいと思って欲しいのに」

そんなこと言われなくたって、とっくにそう思っているとは教えないで私はただ彼に抱きしめられる。
彼の香水と柔軟剤の匂いが先ほどより強くなって、より一層私にまとわりついた。

「ねえ、なまえには僕がどんな人間に見えますか?」

「・・は?」

彼の唐突な質問のせいで変なところから声が出た。

「僕の人間性は、相手の人間性を反映するみたいなんだ」

「なにそれ?どういうこと?」

「例えば、僕が孤独な人間だとなまえが思っているなら、それはなまえ自身が孤独だということ」

「・・・なにそれ、変なの。要するに鏡移しになるってこと?」

「はは、はっきり言うね。まあ、そういうこと。最もそれは僕も最近気づいたんだけど。だからなまえには僕がどう映るのか知りたかったんだ」

ジョルノがどんな人間に見えるかなんて答えは私の中で決まっている。
私は彼にウソを付くべきか少し悩んだ。
例えば、“愛しい人”とか。

でも、彼には本当のことを言ってしまった方がいい気がして私は答えた。

「‥幸せになれない人」

「え?」

「私にジョルノがどう見えるかよ」

「・・・ということは、なまえは僕といても幸せではない、ということ?」

「幸せよ、すっごくね」

でもきっと幸せにはなれないでしょうね、お互いに。
ジョルノはそんな答えを考えてもいなかったようで、疑問いっぱいの顔でこちらを見つめてくる。
それに対して私はただ曖昧に笑いかけた。

少しでもこの幸せが続くように祈りながら。



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