LOVE THE WARD 06


壁際になまえを追い詰めたまま、リゾットは話し続ける。

「この間、プロシュートと2人で任務に行っただろう。その時にプロシュートと寝たんだろう?もう寝る事も出来ない俺は用なしか?」

淡々とした声ではあるが、彼からは何か気迫に迫る様子が伝わってくる。
詰め寄ってくるリゾットを見て彼女は焦った。
なぜこんなにも彼が怒っているのかわからないからだ。

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いてよ。私にはリゾットが何を言いたいのか、全くわからないわ」

「いいから答えろ!」

語尾を強めた彼になまえの肩がびくりと跳ね上がる。
彼女はリゾットに熱い視線で見下ろされているせいで肩を寄せ身を小さくはしているが、強気な目つきは決して崩さずに彼の問いに答えた。

「だから落ち着いてよ!私、プロシュートとは寝てないわよ!」

「そんなウソが通じるとでも?」

顔の両脇にリゾットがドンっと手をつく。
なまえは、命の危機すら感じるほどジリジリと迫るリゾットの怒りにどう対応すべきかわからなかった。
リゾットがここまで熱くなる理由が思いつかないからだ。


「違う、そうじゃなくて、確かに私はプロシュートとは肉体関係を持った事はある。でもね!この間は何もしてないのよ!私は今、自分が濡れなくなったことがショックで、誰かと寝れるような気持ちになれないのよ!」

なんでこんなことをわざわざ言わなければいけないのか。
これではただの恥の上塗りだ、と思いながらもなまえはリゾットに赤裸々な気持ちを伝えた。
そんな彼女を見てリゾットは大きく目を見開いて固まり、無意識に息を吐きだすかの様に静かに呟いた。

「…それは、本当か」

「ええ。こんな恥ずかしい嘘いったい誰が言うっていうのよ。冗談じゃあないわ。気まずいっていうのはね、私のせいで出来なかった事を恥じているから、顔を合わせ辛かったって事なのよ」

「っ、すまない、そんな理由だったとは想像もしていなかった。俺はてっきり感じさせられなかった俺に対して怒っているのだと…」

そう言って明らかにうな垂れたリゾットになまえはなんと返して相変わらず口を噤んだ。
先程のミーティングで目を逸らした事に加えて、あの日以来仕事のメール以外の連絡をしてなかった事で、今回の一件をややこしくしてしまったと自覚し、彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだ。

話出さないなまえに、リゾットは畳み掛けるように話を続けた。

「…なまえにとって俺はただのセフレだとわかっていた。だからお前を感じさせられない俺はもう用済みかと思い先走った。許してくれ。…俺はどんな関係でもいいから、お前に捨てられたくは無かった」

リゾットはそう言って彼女の奥の壁についていた手を、なまえの側頭部から両耳にかけてを包み込むように動かして、彼女のつむじのあたりにそっと唇を落とした。
そんな彼の態度で、なまえの頭にはある考えが過った。

それはなまえにとって喜ばしくない考えだ。
そんなわけない、そう思い込みたいが、彼の態度はまるで…。

「…ちょっと待ってよ、リゾット。まるでアナタ私のことを、」

「愛しているさ」

「っ!」

間髪入れずにそう言い切ったリゾットになまえは驚きよりも先に、自分の鈍さに対する嘆きの感情でいっぱいになった。

なんという事だ。
彼もてっきり遊びだとばかり思っていたなまえは、どう反応していいかわからなかった。

「気づいていなかったんだろう?そんな気はしていた。だから、なまえが望まないならこのままで構わなかったんだ、俺は。ただ、仕事仲間としてだけの関係に戻るのは嫌なんだ」

なまえを映し出す彼の目があまりにも優しくて、どう答えるべきか戸惑う。
正直に言えば、なまえはリゾットの事を恋人にしたいと思ったことはない。
嫌いではないし、かっこいいとも思う。
だが、彼とはたまにベットの上で奔放に楽しむような、その程度の関係で十分満足だし、それ以上踏み込んで欲しいとは思えない相手だ。

「ごめ、んなさい。全然気付かなかったわ・・・。でも知ってしまった以上、知らないフリなんて出来ない」

彼女がそう苦しそうに告げると、リゾットは優しい目をしたまま、苦い笑みを浮かべる。
その表情を見て、みぞおちの辺りがきゅっと締め付けられた。
それは、今日来るまでに感じていた気まずさから発生していた胃痛と痛む場所こそ似ているが、全く異なる感情からきている締め付けであることは嫌でもわかった。
だが、それがなにを指し示すのかまでは彼女にはわからなかった。

「…少し時間をくれない?整理したいの、気持ちを」

「…わかった」

彼はそう言って、頷いた。
彼女はその了承を得るとリゾットの腕の中から逃げ出して、ドアまで歩いていく。

「…リゾット」

ドアノブに手を掛けながら彼女は振り向いて声を掛ける。

「なんだ」

「気持ちはすごく嬉しかったのよ。本当に」

この先互いの関係がどうなろうと、これだけはしっかりと彼に伝えておくべきだとなまえは思い立って彼にそう告げた。
その言葉を聞いたリゾットは一瞬だけ何かに耐えるような表情を浮かべてから、彼女のほうへ歩み寄る。

「…すまない。最後に一度キスをさせてくれないか」

なまえはSiともNoとも答えなかった。
そんな彼女の態度を彼はOKだと捉えたのだろう。
そっと頬に手を添えると、焦らす様にたっぷりの時間をかけて優しく唇を重ね合った。

「愛している、いつまでも」

その言葉になまえは返事をせずにドアノブを回して部屋を出て行った。
彼はそんな彼女の姿を目に焼き付けるように見つめながらその場に立ち尽くして、扉が音を鳴らして閉じてもなお、いなくなった彼女の残像を眺める様にその場にしばらく留まった。



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