LOVE THE WARD 05



プロシュートとの任務からしばらく経ったある日。
なまえは、重い足取りで夕方の街を歩いていた。
目指す場所はアジト。
今日はチームミーティングの日なのだ。

あの日以来顔を合わせていないリゾットと会わなければならないと考えると、それだけで胃がキリキリと締め付けられる感覚に襲われて、昨日からロクに食事も取れなかったなまえのコンディションは悪いと言える。

その為、可能な限りは行きたくなどないが、仕事は仕事だ。
行かないという選択肢は真面目ななまえには存在しなかった。
着いてしまったアジトの階段をカツン、とヒールを鳴らしながら上り、ノックもせずに彼女はアジトの扉を開けた。

扉の先にはリゾット以外のメンバーが揃って座っていた。
時間に余裕を持って出たにも関わらず、重い足取りのせいで想像よりも時間をかけて来てしまったらしい。

気にしすぎる性格のなまえは、これでは気にしていますとリゾットに言っているようなものだと思い、誰もそんな事を知らないというのに勝手にバツが悪くなった。

「よお、なまえ。頼みがあんだけどよ、この水をビールにしてくれよ。今日はあちいからビールが飲みたくてたまんねーんだよ」

そんななまえの様子に気付くこともなくホルマジオはくだらないことを言ってくる。

「ビールくらい買えばいいでしょ」

「はあ?お前がいればタダで飲めるのに金出す馬鹿がいるか」

アンタはタダでもこっちはスタンドを使わないといけないというのに、自分勝手な態度。
なまえはそんな彼にうんざしたため息を溢しながら部屋の中を歩き、空いている席に腰掛ける。
それから一拍ほど置いて、タイミングを待っていたかの様にリゾットが入ってきた。

それを見て彼女は思いだす。

(あ、そういえば会うの気まずかったんだった)

ホルマジオとくだらない会話をしていたせいでそのことを一瞬忘れていたなまえは、リゾットを見てしまった事で少し胃がキリッと締め付けられる感覚を覚えた。
そして、その感覚と同時に、緊張をほぐしてくれたという点に関してだけ、ホルマジオの自分勝手さに心の中で感謝した。

ちらり。
リゾットがこちらを確認するように目を向けてきたが、なまえはそれに気づかないフリをして視線を避けた。

リゾットはそれに気づいたのか何か言いたそうな顔をしてから口を紡ぐと、低いトーンでビジネスの話を始めた。



「…とまあ、ビジネスの話は以上だ。各自なにかあるか」

そう聞かれて、静まる部屋。
どうせ誰からも質問など出ないのだから、今日はこれで解散だろう。

「…では解散」

(やっと終わった)

予想通りに終わりを告げたリゾットのその声に、私はほっと胸を撫で下ろした。
来るときはどうしたものかと悩んでいたが、会ってみればそんなに気まずいものではないのだと気づけた事は、最近の私には珍しく嬉しい報せだった。

「そうだ。なまえ、次の任務の件でちょっといいか」

「…はーい」

だが、それを上回る悪い報せがすぐにそれを覆い尽くしてしまった。

(さすがに、まだ2人きりになるのはちょっと…)

蘇る気まずさに胃が疼いた。

本当は嫌だったが、リーダーのリゾットから呼び出されてしまったら断る理由はない。
なまえは苦い表情を浮かべてからぎごちなく笑った。

彼女が席から立ち上がりリゾットの方へ向かっていくと、彼も立ち上がって己の執務室に向かって歩き始めた。
部屋までついて来いという事なのだろう。

彼女はそんなリゾットの背中を追いながら、ミーティングをしていた部屋の中をちらりと横目で見る。
チームのメンバーの何人かは帰って行くようでそれぞれ動き出しているが、残りは時間潰しでもするのか座ったままだ。

これならば、さすがに先日のような事にはならないだろうと、なまえは少しだけ肩の荷が降りた。
そして、案内されるがままにリゾットの部屋へ入った。

彼女が入るのをドアの辺りで待ち構えていた彼は、入室を確認すると扉を閉めてから、デスクに歩みを進めながら話し出す。

「ターゲットが追加になった。資料を渡すから確認しろ」

「わかった。」

そう言ってリゾットはデスクに乱雑に置かれた束をなまえに渡す。
本当に仕事の話だったのかと思いながら、彼女はそれを受け取ると、近くの壁に寄りかかり書類に目を通す。

そんな彼女を射抜くようにリゾットはじっと視線を送った。
最初はなまえも気にしないようにしていたが、それが30秒、1分と続けばさすがに気にならずには居られなくなったのだろう。
彼女はじろりとリゾットに鋭い目線を投げつけた。

「…なに?」

「…。別に何もないさ」

「そんなにこっちを見ておいて何もないはさすがに見苦しい言い訳ってやつよ。言いたいことがあるなら言ってよ。ただでさえこの間の件で私はアナタに会うの気まずいと思っているんだから、これ以上気苦労かけないで頂戴」

もうここまで来たら面倒だから言ってしまえ、と彼女は開き直ってリゾットにそう告げた。
彼は表情を変えることなくその言葉に返事を返す。

「気まずいと思っているんだな」

「…当たり前でしょう」

そんな事を聞かれると思ってもいなかった彼女は呆れたようにそう言った。
リゾットはそんな彼女に近づくと壁と己の身体に彼女を挟むように立って、見下ろしながら話し始める。

「それは、この間の事で俺をもう切るからか?」

「はあ?なにそれ。何の話よ」

なにを言われているのか、全くもって理解が出来ないなまえを差し置いて、リゾットは話し続ける。

「俺よりプロシュートのほうが良いか?それともホルマジオか?」

「いやだから、なんの話なの」

プロシュートや、ホルマジオが一体なぜ今出てくるのか。
彼女には全くもって理由がわからず、困惑は増していくばかりだ。

「…俺がお前たちの関係に気づいていないとでも思っていたのか?」

「っ!!」

その言葉でようやく意味が分かったなまえは、息を詰まらせ、大きく目を見開いてリゾットを見つめる。
彼は気づいていたのだ。彼女がほかのメンバーと寝ている事など、とっくの昔から。

先ほどより温度の下がった気がする部屋で、彼女はどう言葉を発するべきか、頭をフル回転させるが答えは浮かんでこない。
そして、その代わりに浮かんで来たのは亡き友人に言われた言葉だった。

―あとで痛い目みても知らねーからな。―

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