LOVE THE WARD 04




「ねえ、自分がどう死ぬか想像したことある?」

「はぁ?なんだ急に。おセンチにでもなってやがんのか?」

とあるパーティーの行われている会場の一角に設置されたバーカウンターでプロシュートと私はそんな生産性のない会話を繰り広げる。

「別に、暇つぶしの質問よ」

「そーかよ。…まあ、考えたことはねぇな。わざわざ考えるまでもなくまともな死に方はしねえのは分かっているからな」

こんなくだらない質問にちゃんと答えてくれるプロシュートは優しいなと思ったが、彼も時間潰しの為に気まぐれに相手をしてくれているだけなのかもしれない。
だが、どちらにせよ、鼻で笑うことなく対応してくれる彼の紳士な所に感謝しながら私は彼の意見に賛同した。

「やっぱりそう思うわよね」

自分の考えと彼の考えが同じということを知った私は、ここ数日間心の中に居座っていた鉛のようなドロドロとした感情が少し軽くなった気がして、安堵を浮かべながらそう呟いた。
そんな私をプロシュートは不思議そうに見つめる。

「なまえ、なんかあったのか」

「なんで?」

「普段のお前ならそんなこと考えもしたことなかっただろう」

「…そうだったかもね」

昔はただ与えられた任務さえこなして、暮らすのに困らないお金が貰えればそれでよかった。

だが、この間から私は、自分のあり方というものを考えさせられてばかりで、胃のあたりがズンと重たいまま、気分が晴れないでいる。

このままなら私は恋人を作れそうにもないし、仲の良い友人ももういないので、プライベートな人間関係はほとんどないに等しい。
唯一関わりのあるチームのメンバーは仲間だが、ビジネスだけの付き合いかセフレのみ。
そのセフレ達だって、セックスの出来なくなった私など必要としないだろう。
欲しいものも無ければ、趣味もない。

人を殺すしか能のない私はこの先どうして生きていくのか。
その辺で野垂れ死ぬ運命だと思っていながらも、こんなにも意味のない人生があっていいのかと、つい思ってしまう。

だから気になった。
チームのみんなは自分の人生や死ぬ瞬間をどう思っているのかと。

プロシュートもいい死に方はしないと言っているし、実際暗殺者の末路なんて悲惨なものだ。
だが、どんなに悲惨な死だろうと、彼らは自分の行いを後悔しながら死ぬことは無いのだろうと思う。
そりゃ、死ぬ瞬間は後悔しそうだけど、結果を受け止められるくらいには自分の仕事や過去に誇りを持って死んでいくのだろうし、誰か大切な人の事なんか気にかけたりする余裕もあるかもしれない。

そう考えたら背筋がゾッとした。
ソルベとジェラートの為の復讐しか、今私には残されていないと実感させられるからだ。

「まあ言いたくねえなら別に構わないさ。仕事さえこなしてくれればこちらとしては文句もねぇしな」

プロシュートはそう言ってグラスを煽った。
ほら。結局、私たちはただの仕事仲間だ。
例えどんな関係を持っていたとしても、それ以上にも以下にもならないのだ。

「あら、冷たいのね」

「生憎、俺はなまえを慰めるのはベッドの上だけ、と決めてるんでな。今はまだ慰めようもないさ」

「そう、アナタらしいわね。それじゃあ今日はプロシュートからの慰めは期待出来そうにないわね」

ちょっと前の私ならそのセリフを聞いて確実にベッドへ誘い込んでいたというのに。
この間のリゾットとの一件や、ソルベとジェラートの事を思い出した私は、彼の殺し文句をひらりと交わした。
その言葉を聞いたプロシュートは目を丸くして驚いてみせた。

「おいおい、マジにどうしたってんだ?いつものなまえだったら、じゃあベッドで、と言うところだぜ。今日のお前は本当になまえ本人か疑っちまうくらいらしくねえ」

「あはは、そんなに私らしくないかしら。別にただ、しばらくセックスは必要ない気分なだけよ」

本当の理由は言わず私はそう言って彼の質問を誤魔化した。

「…まあ、なんかあれば言え。解決出来るかはわからねえが、聞いてはやる」

「ありがとう」

きっと彼は本当に聞いてくれるだろう。
だが、聞いてもらっても解決する事はないとわかっているから、私はただお礼を言って会話を終わらせた。

彼もそんな私の意図に気付いたのだろう。
特に聞き返す事もなく、お酒を少し飲んでからビジネスモードの目つきになってターゲットを見据える。

「さあ、デートはお終いにして、ビジネスを始めるとするか」

そう言って私たちは飲みかけのお酒を手に持ってバーカウンターから立ち上がるとフロアへと歩みだす。

今日は珍しくプロシュートとペアの仕事で、私たちはターゲットに近づくタイミングを見計らっていたのだ。

ターゲットは、パーティー主催者である夫婦の40代くらいの夫。
彼がターゲットになった理由は知らないが、暗殺されるという事は何かしら後ろ暗いか、もしくは真っ白すぎたのか。
どちらにせよ、組織の反感を買ったのだろう事だけは想像が出来た。

ちなみに、何故プロシュートとペアかと言えば、この夫婦がおしどり夫婦で有名らしく、ターゲットに私1人では近づけそうに無いので、カップルのフリをしてパーティーに潜り込み、握手を交わすという作戦を立てたからだ。

グラス片手に腕を組んで、私たちは誂えた笑顔を貼り付けてターゲットに近づく。

「どうも、お久しぶりですね。今日はお招きありがとうございます。なまえ、彼はこのパーティーの主催なんだ。あ、彼女は私のパートナーのなまえです。ぜひともお2人に紹介したくて、今日連れてきたんですよ」

そう言ってプロシュートは愛想のいい顔をしてターゲットへにこやかに挨拶をして手のひらを差し出す。

ターゲットは、そんなプロシュートの顔をマジマジと見つめてから戸惑いつつも握手に応えながら口を開く。

「あ、ああ!今日は来てくれてありがとう。…えーと、失礼、以前どちらで…」

ターゲットはプロシュートが誰なのか思い出そうとしているのだろう。ぎこちなくそう話す。
だが思い出せる訳などない。なんて言ったって彼とプロシュートは初対面なのだから。
話しながら思い出せない事を確信したのだろう相手が、プロシュートに探りを入れようとしたタイミングを遮って、私はターゲットの手を握り無理矢理に挨拶を交わす。

「はじめまして。なまえです!彼からアナタのお話は聞いています。たしか、半年前の商談でご一緒したとか。お会いできて光栄ですわ。お二人についてとても仲のいい夫婦だとお噂は聞いております。私も彼とお二人のような関係で居られるように頑張ります」

巻き立てるように話しながら私は途中で視線を妻に移して、ターゲットの手を離すと今度は妻の手を握り、笑う。

女の敵は女。
彼女を上手くあしらわないと目を付けられてしまう可能性があるので、私は妻の方へよりアピールを強めた。

「あら、ありがとう。そんな風に言われてとっても嬉しいわ。ね、アナタ」

これから夫を殺されるなんて想像もしていない彼女はそう言って自慢げに幸せそうに笑った。
そういう顔をできる彼女が私には少し羨ましかった。
最後までおしどり夫婦で死ねてよかったですね、なんて皮肉を飲み込んで私は笑い返す。

そんな中ターゲットは、思い出せるはずもないプロシュートに対して思い出したように話し出す。

「あ、ああ。あの時の!失礼。一瞬君が誰かわからなかったんだ、気を悪くしないで欲しい」

「はは、あの時はバタバタとしてましたからね、仕方ないですよ。でも、これで覚えてもらえましたね。また、どうぞよろしくお願いします」

「申し訳なかったね、こちらこそ、今後ともよろしくお願いするよ」

「では、今夜はお招きありがとうございました。また今度ゆっくりお話させてください」

今度なんてない癖に。
プロシュートが綺麗な顔でそう言って頭を下げたので私も同じように会釈をする。

「ああ、また是非。今日は楽しんでいってくれ」

私とプロシュートはその言葉に笑顔で頷いてからその場を立ち去る。
あと1時間ほどで終わる人生に祝福を送りながら。


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