secret


私は昨夜と同様に薄暗い裏庭を図書室へ向かって足早に通り抜ける。
足裏に感じるザクザクとした感触の雑草から香る独特の匂いと空いっぱいに広がる星空。
昨夜と違う点は、少し早歩きな事と、頬が熱帯びていることがわかるくらいに興奮している事だけなのに、なぜか今夜はこの夜のすべてが特別な事の様にキラキラと感じるのだから、人間の心理とは不思議なものだ。

そうして、寮から真っ直ぐに歩みを進め図書室の辺りに到着した私は、他の窓には目もくれず、一番奥まったところにある窓を目指して歩む速度を更に上げて、ほとんど走っていた。

(開いてる・・!)

暗いところからでもわかる、開いた窓と揺れるカーテン。
今日も彼に会えるかもしれない。
そう思うと、先程よりも更に胸が高鳴る。
私はその気持ちを抑えもせずに一気に速度を上げて窓の淵に手をかけると、勢いよく窓の中を覗き込んだ。

その窓辺には昨日と同様にジョルノが寄りかかっていた。

微かな明かりに照らされた彼の横顔はやはり美しかった。

そう、私は昨日初めて会ったばかりだというのに、ジョルノに会いたくて仕方なくてまたこの場所を訪れたのだ。

「こんばんは。今日も忘れものですか?」

彼はまるで私が来ることがわかっていた様に、挨拶をする。

「こんばんは。今日は忘れものじゃないわ。アナタに会いに来たのよ、ジョルノ。よかった、夢じゃなかったのね、」

「夢?昨日の夜ずっと一緒に居たじゃあないですか。なぜ夢だと?」

あなたが神秘的だったからよ、とは流石に照れ臭くて言えなかった。

「さあ。わからないけど、アナタと過ごした時間はまるで現実だとは思えなかったのかもね」

「不思議な事を言いますね」

ジョルノはそう言いながら読んでいた本を閉じると棚の上に置いて、窓の外の私に手を伸ばす。

「どうぞ」

「ありがとう」

そんな単純な動きだけでわかる彼は私にとって特別だと。
私は、差し出されたジョルノの手につかまりながら窓枠へ足を掛けると、力を入れて勢いよく図書室へと飛び込んだ。

胸があまりにもドキドキと響くせいで、息苦しさすら感じてしまう。
これは、今ジャンプしたからでも、走ってきたからでもないことは自分が一番よくわかっていた。
夜の静かなこの空間にジョルノと私しかいないのだと思う独占欲にも優越感にも似た、生々しい興奮で胸が高鳴っているのだ。

「さて。今日はなにをしますか?」

私ん招き入れた彼はそう言ってほほ笑んだ。

「そうね、今日は探し物もないから、お話でもしましょう」

彼の事が知りたかった、なんでもいいから。
私はもうこの感情がなんという感情か薄々は勘づいていながら、それを確かめる確証が欲しかった。

「ええ、構いませんよ。じゃあソファーへ移動しましょうか」

そう言って彼はまるで自分の家の中を歩くように、堂々と図書室のソファー席へと向かうと私に座るように促した。
そして、彼に託されるがまま私がソファーへ浅く座ると、彼は当然のように横へ座り、背もたれに肘をつき頬杖しながらこちらへ顔と上半身を向ける。
そんな彼に合わせて、見て私も負けじと彼の方へ上半身を向けて両手をソファーへつきながら、ずいっと彼の顔を覗き込むようにして距離を縮めた。

「ねえ、ジョルノ、アナタって本当にこの学園の生徒なの?」

「ええ、そうですよ。なぜ?」

「アナタみたいな人目立たない訳ないと思って今日構内で探したの。でも、アナタを見かけなかったものだから、気になっちゃって」

「僕が目立つかどうか、それは置いておいたとして、見かけなかったのは、きっとたまたまでしょう。今までだって会ったことは無かったのだから不思議ではない」

彼はそう言って口角を上げた。
その仕草で、ああ、彼は何か隠しているんだな、と直感で思ったが、私はあえてそれに触れなかった。
触れてしまえばもう二度と彼に会えない気がしたのだ。

「それにしても、昨日会っただけの僕をわざわざ探したんですか?」

「ええ、探したわ」

「なぜ?」

「会いたかったからよ。それ以外に何か意味があると?」

「さあね。他人の考えていることなど僕にはわかりませんから」

なんて嘘っぽいんだろう、と彼のセリフを聞きながら思う。
世の中の誰でも知っている常識を言っているだけだというのに、彼が言うとどこか皮肉っぽい。

「ねえ、なぜ会いたかったかは聞かないの?」

「聞いてほしいですか?」

「…いいわ、言わなくてもアナタは知っていそうだもの」

「なまえの気持ちは言ってくれなくちゃあわかりませんよ」

「じゃあ言ってもいいの?」

試すような目で言い返すと彼は妖艶に笑った.。

「ええ、ぜひ教えてください」

その言葉を聞いて、私は彼の方へさらに距離を縮めると下から彼の耳に息を吹きかける様にしてゆっくりと、口を開いた。

「どうやら私、アナタに惹かれているみたいなの」

「それは奇遇ですね、僕も昨日からなまえの事が気になって仕方がないんですよ」

そう言って彼は背もたれに肘かけた腕を伸ばして私の頬に優しく触れると、覆いかぶさるように屈んで私の唇へ、自身の唇を重ねた。



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