どろり



例えば、最初は一粒だけ食べようと思って開けたチョコレートを1箱食べちゃったり。
ウィンドウショッピングしようと思ってたのに、うっかりパンプス買っちゃたり。

要するに私は、自分に甘くて、流されやすく、すぐに考えを変えてしまう意思の弱い人間だ。

恋愛だってそうだ。
最初は彼の事を眺めていればよかった。
勝手に好きになっただけだから両想いになんてならなくても良いと思っていた。
彼が私のことを気に掛けるようになった時は、その気持ちを持ってもらえるだけで幸せだと思って満足した。
付き合った後は、私の隣にいてくれるなら、他に何人そういう人がいても気にしないと思えるほど幸せだった。

なのに、もうそんな考えは消え去った。
私は彼を独占したくて、仕方ない。
愛されてる実感を常に感じていたい。
もっと一緒に居たいし、もっと愛の言葉を言って欲しい。

でも、彼はそういう表現がマメなタイプの人間ではない。
彼のそんな性格を知っていて好きになったのに、変わってほしくて、もっと私に依存して欲しくて、私から離れられなくなって欲しいと思ってしまうのだ。
そんなこと現実的じゃない事なんてわかっているのに、感情が止められない。

「ねえ、リゾット、今日は帰らないでしょう?」

「…いや、明日も仕事があるからな。もう帰るさ」

「そんな、久しぶりに会えたのに、もう少しだけいいじゃない」

「無理だ」

甘えた声を出してみたけれど、効果は無さそうだ。
リゾットから冷たく言い放たれた言葉のせいで、私の吸い込んだ息がヒュっと鳴って一瞬だけ息が苦しくなった。

「…そう、忙しいのに、ごめんなさい。」

ベットの上で裸のままシーツに包まる私のことなどまるで気に掛けるつもりがないリゾットは、私の言葉を無視して背を向け服を着替え続ける。

最近のリゾットはいつもこうだ。
することをしたらすぐに帰ってしまう。
本当に仕事が忙しいか、他に女がいるか、私といるのが嫌なのか。
理由はわからないが、会いに来てくれるだけマシだと、そう思わなければいけないのだろう。
分かっている。でも、人間は欲深いのだ。
彼の事は愛しているが、もっとこうなら、ああならとばかり考えてしまう。

目の奥がカッと熱帯びて、涙がじわりと眼球を覆うのがわかる。
私は、それが零れないように目を大きく開けて、リゾットに向けていた視線を窓の外へ向けた。
こんなことで泣くような女だと思われたくなかった、見られたくなかった。

最後にベット以外で一緒に居たのはいつだったろう。
もう思い出せないほど遠い過去を思い出そうとする私に、着替えが終わった彼はコツコツと靴音を響かせながら近づいてきた。

「また連絡する」

「…わかった」

振り向かず窓の外を見たまま返事をした私の頭に、リゾットはキスを落として、そのまま部屋を出ていく。
そうしてだんだんと足音が遠ざかり、バタンと玄関が閉じる音がする頃には、私の頬にはこらえきれなかった涙が伝っていた。

きっと私が涙ぐんでいたことにリゾットは気づいていたはずだ。
彼は勘が鋭いし、洞察力だってある。
では、なぜ何も言わなかったか。
彼はあえて気づかないフリをしたのだ。私の涙などどうでもよかったのだ。

(こんなに愛しているのに、)

ーどうして伝わらないの。
ーどうして愛してくれないの。

このままベットに一人でいたら心が黒く染まっていく気がして、私は手の甲で目の辺りの水分を強引に拭ってから、ベットサイドの携帯を手に取って履歴の一番上の番号にリダイヤルする。

―plululululu……

「…なんだ」

「ねえ、今から来て」

「…リゾットは?」

「帰った」

「あっそ。…20分で着く」

「わかった」

彼が一緒に居てくれないのなら、愛を囁いてくれないのなら、私は他からそれを得るしかない。
両方を彼から得ようとするから、いけないんだ。
人間適材適所というものがあるのだから、欲しいものはそうやって補ってしまえばいい。
私は流されやすくて自分に甘い女だから、仕方ないでしょう?ねえ、リゾット。

「早く会いに来て。愛してるわ、ホルマジオ」

「…ったく、本当に悪い女だよ、お前は」

「ふふ、あなたも十分悪い男よ」

「ッハ、間違いねーな。なまえ、俺も愛してる。すぐに行くから待ってろ」

その言葉を聞いて、私はやっと心が黒く染まるのが止まった。


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