あの夜以来ブチャラティは、時折なまえの部屋を訪れるようになった。
フラっと来て、彼女を抱くこともあればただくつろいで帰る時もある。
最初の何回か律義にインターホンを使用していたが、そのうち面倒になったのだろう。鍵も渡してもいないのに彼はいつの間にか部屋に入ってくるようになった。
どうやっているのかと問えば、彼は相変わらず手品だと言って笑った。
たまに自分はギャングの都合のいい女になったのだな、となまえは思い悩む瞬間もある。
だが、いつか日本に帰るであろう自分には真面目な恋愛は重たいし、彼もこんなおばさんに本気ではないだろうと思えば、むしろこの関係で丁度良いんだと、その度に自分を納得させた。
「ねえ、最近男でも出来たの?」
「え?なんで?」
久しぶりに友人とランチをしていると、彼女はなまえにそう質問した。
彼女は以前、なまえにブチャラティのことを教えてくれた女性だ。
仲の良い相手ではあるのだが、忠告を受けると言っておきながら、今の状況になってしまったなまえは、気まずくてブチャラティの事を彼女に話さなかったが、勘付かれてしまったようだ。
「あなた、なんていうか艶っぽくなったのよね。だからもしかして、と思ったの。どう?当たってる?」
なんといえばいいか、ただただ鋭い人だと、となまえは思った。
「…まあ、そうね、恋人ってわけじゃあないんだけど、ね。遊んでる相手はいるわ」
「やっぱり!あなたイタリアに来てから初めてじゃない?男と遊んでるの」
「ええ、初めてよ。だからなかなか言い出せなかったのよね、気恥ずかしくて」
その言葉は半分は本心だったが、半分はごまかしだった。
悪いことをしている訳ではないのだが、忠告を無視して遊んでいるなんて言えるほどなまえは図太くはなかった。
「…まあ、なまえが幸せならよかったわ」
彼女はなまえの顔色を見て何かを察したのか、相手の男のことを何も聞かず、そう言ってエスプレッソに口付ける。
追及しなかったのはきっと彼女なりの配慮なのだろう。本当になんというか、彼女はどこまでも鋭い女性であった。
「あ、そうそう。実は今日それを聞いたのはこれを渡したかったからなのよ」
「?なあに、これ」
そう言ってカップを置いた友人はなまえの前に紙袋を突き出した。
なまえが疑問を口にしながらも、受け取った紙袋を覗くと、そこにはシンプルなデザインのチューブが入っていた。
「ボディークリームよ。知り合いに貰ったんだけど私は使わないから、良かったらどうぞ。ちなみにそれ、フェロモンが入っているとかで、男の人を誘惑できるって、今話題らしいわ。楽しいベットタイムにでも利用して」
「へえ。どんな匂いなのかしら。ありがとう、今日さっそく使ってみるわ」
「ああ、ちなみに明日の会議は重要なんだから、やり過ぎ注意よ」
「…別にその為につけるわけじゃないわよ、試してみるだけよ」
彼が来るかどうかなんてなまえにはわかりっこないのだ。
なぜならなまえはブチャラティの連絡先すらしらないのだから。
そんな事情を知らない友人は、どうだか。と言ってなまえを鼻で笑った。
その夜、自宅でバスタイムを楽しんだなまえは、宣言通りに貰ったボディークリームでマッサージをはじめた。
フェロモン云々はよくわからないが、イランイランとジャスミンだろうか。程よく甘い匂いが心地よい。
ーガチャ
「やあ」
「…いらっしゃい。」
彼女がそうしていると、リビングの扉が開いてブチャラティが入ってきた。
タイミングが良い悪い、というより先になまえが思ったことは気まずい、だった。
彼はこのボディークリームの話を知らないし、ただのマッサージに見えるはずなのに、彼を誘っているように思えてしまったからだ。
だが、ブチャラティはそんななまえの気持ちに気づくことなく、なまえに近づくと座ったままの彼女の頭へただいまのキスを落とす。
「マッサージかい?」
「ええ、新しいボディークリームを貰ったから、試してたの」
彼は彼女の横に置かれたクリームに目を向けてから、ボディークリームの匂いを嗅ぐように鼻から息を吸い込む。
「ふーん…いい匂いじゃないか」
「そう?ならよかった」
「…よければ、俺がマッサージしよう」
「え?」
「ほら、いいから」
彼はそう言いながら腰を下ろすと、クリームを手に取り、両手でこねる様にして手の平にクリームを馴染ませてから、彼女のふくらはぎへ手を遣わせた。
ブチャラティの大きな手から広がる程よい圧力が彼女のふくらはぎを刺激する。
そのなんとも言えない感覚に彼女の口からは無意識に感想が漏れだす。
「あ〜、気持ちい」
「それは良かった」
それからしばらくブチャラティの丁寧なマッサージを堪能していると、彼の手がなまえの内もも辺りにある敏感な場所を掠めた。
「ん、」
その刺激でうっかり声を漏らしてしまい、恥ずかしくなったなまえは俯く。
そんな彼女を見て、ブチャラティは彼女に見えないように口角をあげる。
あくまでもマッサージを続けながら彼はなまえの反応を見て、外ももの恥骨の高さから膝上まで手の位置を下げ、今度は内ももを刺激しながら手を上の方へ這わせると、内またの秘部に触れないギリギリのラインを通り、お尻のほうへ手を滑りこませる。
「っんん!ちょっと、待って!ブチャラティ、あなたわざとね」
「はは、バレたかい?君がフェロモンクリームなんてこれ見よがしに塗っているから誘っているんだと思ってね」
「なんで知っているの!?」
「今日、ちょうどこのクリームを見かけてね。プレゼントしようかと思っていたんだ、君との素敵な夜を過ごすために」
そう言ってブチャラティはなまえの唇を優しく啄む。
「というわけで、これから素敵な夜にお連れしたいのだけど。ご都合はいかがかな?」
「…このクリームの効果はホンモノね。私クリームと貴方のマッサージに誘惑されたみたいだもの」
「それはよかった。期待通りの効果をもたらしてくれた、このクリームに感謝だ」
そういって二人は笑いあってから、もう一度、今度は濃厚なキスを交わした。
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