「ねえ、ホルマジオ。コーヒー飲むけど、いる?」
「あ”−、コーヒーはいらねぇからエスプレッソ飲みてぇ」
「無理、機械ないもん。ホルマジオが買ってくれるならいいよ」
「なんでだよ。おまえの家のモンだろ、おまえが買えよ」
「やだよ。ホルマジオしか使わないのに。私エスプレッソ苦手だもん」
「ハッ、ダッセ」
「うざー。もうホルマジオのコーヒーは作らないからいいよ」
「うそうそ、冗談だって、カリカリすんなよ、
あー、なまえちゃんの入れたコーヒーが飲みてぇなー」
暖かい日の昼下がり、コーヒーが飲みたくなってホルマジオに話しかければ、彼はめんどくさそうにソファーに寝転がって雑誌を読みながら答えた。
うちの彼氏は基本的に素直じゃない。
でも、そこが可愛いし、悪態ついてもなんだかんだ私に甘いから好き。
「はい、どーぞ」
ヴェネツィアでデートした時に買ったピンクとブルーの色違いのマグカップを2つローテーブルに置いてから、ホルマジオの寝転がっているソファーに寄りかかってピンクのマグカップを手にして、少し息を吹きかけてから一口すする。
(うん、おいしい)
新しく買ったコーヒー豆は、ホルマジオの為にビターテイストが強いものにしてしまったから、私には苦いかもと思っていたが、飲めなくはない苦さだし、後味はわりと好みだ。
昔はコーヒーは苦くて飲めなかったのに、ホルマジオと付き合ううちに当たり前のようにコーヒーを飲むようになって、今では美味しいかどうか好みまでわかるまでになったのだから、彼の私に対する影響力は絶大だ。
「ねえねえ、コーヒー豆変えたの、一口飲んでみて」
「んー。後でなー」
「…そしたら冷めちゃうじゃん」
「拗ねんなって、この記事だけ読み切りてえんだよ」
そう言ってホルマジオは雑誌から目を離さずに私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
なんだかんだホルマジオは忙しいから、ゆっくりした休日は久しぶりで、本当はもっともっと構って欲しいのに、適当にあしらえばいいと思われてるのはムカつく。
だけど、一緒にいれるならそれだけでも幸せだと思わないといけないとわかっている。
わかっているけど、私はわがままだから、ちょっと怒った風に彼に言う。
「ちょっと、ぼさぼさになっちゃうじゃん」
「大丈夫大丈夫。それでもおまえは可愛いって」
「〜〜〜っ」
「っおい、邪魔するんじゃあねえよ」
こういう事ナチュラルに言っちゃうところも、ぶっきらぼうに言うくせに構ってくれるところもめっちゃ好き。
彼のことが好きな気持ちがあふれて仕方なくて、コーヒーを置いてから膝立ちになってホルマジオのお腹に顔を埋めると、雑誌が読みづらくなった彼がちょっと怒った口調でそう言った。
口調は怒ってるのに、別に退かそうとしないんだから、本当に私には甘い男だ。
「ったく、ほら読み終わったからどけよ。コーヒー飲むから」
「ん〜、もうちょっとぎゅー」
「あー、はいはい。ぎゅーな。ほらぎゅー。はいじゃあどいてくれなー」
起き上がりながらめんどくさそうに私のことをハグして、彼はソファーに座り直すとブルーのマグカップに手を伸ばし、ゆっくりと口元に運んでコーヒーを啜った。
「ま、コーヒーならこんなもんだろ」
「えー。もっとおいしいって褒めてよ〜」
「はいはい。うまいうまい。ったく、めんどくせー女」
「‥‥」
「…冗談だろ、むくれんなって」
そう言って、ホルマジオはくしゃくしゃと嬉しそうに笑った。
私の事をこうやってからかうのが彼は好きだ。私が彼の態度や言葉に依存している姿が好きなのだと思う。
「じゃあ許してあげるからジェラート買いに一緒に行こう」
「はぁ〜?だりーから却下。勝手に怒ってろバーカ」
「お願いお願い!」
「おまえ一人で行けよ。あ、ついでに俺チョコな」
「やだ、一緒に行きたいの」
「うぜー」
心底めんどくさそうにそう呟きながら、ホルマジオはコーヒーをまた一口飲んだ。
「…ったく、一番近いとこな。おまえのお気に入りの店は遠いから却下だ」
「えー。でも一緒に行ってくれるならいいや」
「ほら、さっさといくぞ」
よっこらしょ、と呟きながら立ち上がったホルマジオの背中に抱き着けば、うぜーうぜーと言いながらも私を引き剥がさないまま引きずって、彼は玄関へと足を進める。
「ほら、さっさと靴穿かねーと行ってやんねーぞ」
玄関までたどり着いても離れない私に彼はちょっと呆れ顔で振り向いて、私のつむじにキスを落とす。
「はあーい」
本当はもう少しだけくっついていたかったけど、彼とのお出かけのほうが大切だから、私は仕方なく抱き着いていた腕を外して、私は急いで靴を取りに戻るのだった。
-
←main