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「ジョルノ、打ち合わせ終わったわ。これが契約書よ。目を通して」

「ありがとうなまえ。相変わらず貴方は仕事が早い」

「あら、褒めてくださってありがとう」

昔よりも短くなった鎖骨までの髪をかきあげて、なまえはボスであるジョルノに笑いかける。

ブチャラティへの告白から何ヶ月か経った現在。
なまえは男と出かける事を一切辞めて仕事だけに没頭していた。

髪を切ったなまえに一番最初に驚いたのはジョルノであった。
ある日突然耳ほどの長さに統一された髪で出勤したなまえに、ジョルノは何があったのかと問うた。

なまえは笑って答えた。
ブチャラティに振られた事、彼を振り向かせる為に髪を切った事、ジョルノの気持ちは嬉しかったが自分はやはりブチャラティが好きで彼の為に変わると決めた事、そして、ジョルノの思いに応えられない事への謝罪。
迷いない顔のなまえがあまりにも美しく、やはりジョルノには彼女がこのイタリアのどの女性よりも魅力的に見えた。

振られた悔しさはあるにせよ、ブチャラティと彼女の関係を複雑にさせた要因が自分にもあると思っているジョルノは、彼女を応援していく事を決め力になれることはないかと彼女に聞いた。
すると、なまえは強い意思を持った目で言った。

「私の過去は変えられない。だから、今後の私はブチャラティに信用して貰えるまで、仕事だけをしていくわ。そして、あなたのアシスタントとしてもっと成長する。契約を代わりに任せられるような、あなたの右腕のアシスタントよ。私が仕事だけに集中していれば、男の影なんて感じないでしょう?もうブチャラティ以外の男はいらないの。だからお願いよ、ジョルノ。私を応援してくれるというのであれば、私にたくさん仕事をくれないかしら。」

その言葉を聞いてジョルノは思い出した。
彼女はいつだって逆風を乗り越えて、自分の為に生かしてきた女だという事を。
彼女の真っ直ぐな気持ちはジョルノに突き刺さった。

そうしてなまえは、ブチャラティを振り向かせるため仕事の為に生きる日々を過ごす。
ジョルノに与えられた職務を次々と達成し成長していった彼女は宣言通り、彼の右腕のアシスタントとなる。
自分に任される書類の管理はもちろんらジョルノの商談内容まで把握するようになったなまえは、今ではジョルノに変わって組織の契約を1人で纏めて来るまでに成長した。
彼女の美しい外見と真面目で努力家な性格。そして溢れ出る自信は、彼女を女としてだけでなく、人としての新たな道を切り開かせた。

「全く、僕が出向くより、なまえが行ってくれた方が契約が取れるんですから、悔しいものですね」

「あら、だって私はこんなに美しいのよ?美しい女に弱くない男なんて居ないわ。…なんてね。それじゃあジョルノ、次の打ち合わせに行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい」

そう言って去っていくなまえは、今日も完璧な女であった。
Chloéのワンピースにセリーヌで揃えたバッグとパンプス、口元にはDiorのリップが引かれている。誰もが振り返る、計算しつくされた美しさ。
そして、そんな彼女から香るのはもちろんCHANELのNO.5。
彼女は、ブチャラティに告白した日以来、一度たりともこの香水をしなかった日はない。
この香りが彼女をここまで頑張らてきた理由であることは、誰から見ても明白であった。


ジョルノの執務室から出て、夕焼けに照らされるネアポリスの街を眺める。
自分がパッショーネに入った時より治安の良くなった街。
やはりこの街が好きだと、なまえはネアポリスを見る度に気づかされる。

「おーい!なまえー」

突然名前を呼ばれ、声のした方を振り向くと、そこには友人であるミスタが大きく手を振り歩いて来る姿があった。
なまえはそんなミスタに小さく手を振り返して笑う。

「お久しぶりね、ミスタ」

「久しぶりだなー。元気だったか?最近出張ばっかりでほとんど会えてねーからよー。ピストルズたちと一応心配してたんだぜ。」
-[ヨオ!なまえ!]
-[久シブリダナ!]
-[元気ダッタカ?]

「ピストルズも久しぶりね。ええ、おかげさまで元気よ。ジョルノったら最近とっても人使いが荒くなったのよ。今日もついさっきまでスピードワゴン財団との打ち合わせがあって代理でアメリカに飛ばされていたしね」

「へー、相変わらず飛び回ってんだな。ご苦労なこって。ポルナレフさん元気だったか?」

「変わりなかったわ。そう、ちょうど良かったわ、ミスタ。ブチャラティに書類を届けたいのだけど、彼は何処にいるかしら?」

「ブチャラティ?あー。多分事務所じゃあねえか。」

「そう、ありがとう」

ミスタに話してた通り、なまえはここ最近ほとんどネアポリスに居ることはなかった。
その為、最後にブチャラティに会ったのはもう1ヶ月以上前だ。

仕事にのめり込むほど、男と遊ぶ時間など無くなり、彼女が男遊びを辞めたことは誰からでも分かるようになったが、これでは彼を落とす前に顔すら忘れられてしまいそうである。
そこでなまえはネアポリスに戻る度に何かと用事をつけてブチャラティに会いに行くようにしていた。
その事情を知っているミスタは彼女のタフなメンタルに感服するのだった。

「なんつーかよお、お前って本当強い女だよな」

「なに?突然」

「んー、まあ、俺の友人は最高にカッコいい女だなって話だよ」

「あらそう?ありがとう。愛のなせる技ね。それじゃあまたね、ミスタ。私急いでダーリンに会いに行きたいのよ」

付き合ってもいないのにダーリンとはこれいかに。
そう思うミスタであったが、なまえの不屈の精神に敬意を示し、敢えてそれを指摘することはなかった。



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