Non conosco


(独白、死ネタ)



昔から、勘は当たる方だった。
雨が降りそうだと思えば、ほんとうに降り始めるし。
嫌な予感がして出掛ける先を変えたら、行く予定だった場所で事故が起こったり。

(だから今回だって、貴方に言ったのに。)



私とレオーネとの出会いは、別に感動的でも運命的でもなかった。

困っていた私がたまたまその場に居合わせた彼に声をかけて、彼がそれに応えた。
助けてもらった私は、彼にお礼をしたくてカッフェをご馳走して、そこで次に会う約束までしちゃって、それからもたまにディナーして、デートしてゆっくりと関係を進めて付き合いだした。

付き合い始めた時、彼とは幸せになれないんじゃないかなんて不安もあったけど、それでも私はとにかく彼が好きで堪らなくて、そんな不安吹き飛ばしてみせるなんて思ったものよ。

彼は私と出会ったときには既にギャングで、元警官だなんて想像もつかない見た目と悪の匂いがする男であったけれど、正義感が強くて真面目なところが垣間見える瞬間、彼は本当に警官だったのね、なんて昔の彼を思い浮かべて実はクスりとしていたのよ。

あんなに女にモテるくせに、女馴れしてなくて、口が悪くて、ぶっきらぼうで、ちょっと天の邪鬼で、嫌いなところもあったけど、真面目で、正義感が強くて、私の事を誰よりも大事にしてくれている事を知っていたから、全てひっくるめて大好きで、彼以上の相手なんていないと思えた。

ある日、電話が来て、仕事で出掛けるから帰るのが遅くなる、と言った彼の声が浮かれてた。
理由を聞くと、詳しくはまだ言えないから帰ったら話す、と言っていたけど、このまま行かせたらもう会えなくなるような気がしたの。
だから、何をするかなんてわからないけど、危ない橋を渡るのを辞めてほしくて、今回は行かない方がいいと口走ったら、彼は怒ったわ。

でもレオーネはブチャラティが大好きだもの。
ブチャラティの為になるのに、着いていかない訳ないのにね。

電話越しで拗ねた私に優しく言い聞かせるように、なるべく早く帰るから、遅くなるなら電話をするから、って言った癖に、すぐに帰って来ないし電話もないし、腹が立ったわ。

そのままレオーネと連絡が取れなくなって、誰かに聞こうにもチームの誰とも連絡手段がなくて、不安で眠れない日々をしばらく過ごしたある日、突然インターホンが鳴ったの。

「よォ」

「…こんにちは」

「あら、ミスタ。と、えーと、初めまして?かしら。急にどうしたの?レオーネと一緒じゃあないの?」

扉を開けると、あちらこちらにケガをして、傷だらけのミスタとこちらも傷だらけの知らないブロンドの男の子が立っていて、二人して神妙な面持ちでこちらを見ていたわ。
私は何があったかわからないけど、とにかく嫌な予感がして、胃液がせり上がってくるのを堪えながら、口元に手を添えて聞いたの。

「…すまない、なまえ。…アバッキオは、一緒じゃあない。あいつは、もう帰って来ないんだ、本当にすまない、」

「…ごめんなさい、ミスタ。何を言ってるのかわからないわ。だって、レオーネは電話で、帰って来るって言ったのよ。彼、私に嘘ついたことないのよ、本当よ。かえ、って、来るって、っっ、言ったの、よぉ、」

ミスタがなんで謝っているのかなんて、わかりたくもないのに分かってしまって、むしろ連絡が来ない時点で覚悟なんてしていたはずなのに。
だって彼はギャングだもの。

嗚咽が漏れて、うまく呼吸が出来なくて、目の前の風景が少し濁って暗く見えて。
過呼吸のように上手く息が出来なくなって、立ってもいられなくて、年甲斐もなく玄関で泣き崩れた私を慰めるように、ミスタとブロンドくんは私の肩を抱いて寄り添ってくれたけれど、二人の手はレオーネとは少しも似てなくて余計に私を苦しめたわ。

それからしばらくの時間、何をしたかは覚えていないのだけれど、二人が帰ってから私は赤ワインを飲んで、バスタブにお湯を張って、バスルームにキャンドルを並べて、彼がバレンタインに買ってくれた、私の全然好きじゃない匂いのするジョーマローンのバスオイルを入れてゆっくりと浸かったわ。

そして、湯上がりにはバスオイルとお揃いの香りのボディークリームを塗って、彼と一緒に買ったペアのバスローブに包まれて寝たの。

朝起きて、体からするボディークリームの匂いがやっぱり好きになれないと思いながら、彼が仕事で全然会えなかった時お詫びと言って買ってきた、私にはケバすぎるピンクのDiorの口紅を塗ってみたの。
鏡に写った私の顔を見たら、泣いたせいで瞼は腫れぼったいし、フェイスラインも浮腫んでるし、何より口紅は全然似合ってなくて、笑えた。

あんなに一緒に居たのに、私の好きな匂いも、似合う色もわからないんだから、レオーネって本当に私の事をわかってなかったわよね。


明日は、お葬式らしいわ。
ブチャラティとナランチャと、3人一緒にお葬式するんですって。
ねえ、貴方って私よりブチャラティが好きだったんじゃあないかしら。
私は置いていけるくせに、ブチャラティとはどこまでも行けちゃうんだから。

結局、最初の勘は当たって、彼とは幸せになれなかったし、最後の勘も当たって、彼は帰って来なかったの。
だから次は幸せになれそうな相手としか付き合わないわ。
彼以上の人なんてそうそう居そうにもないのだけれどね。

明日はレオーネが似合うと褒めてくれた、PRADAのシックな黒いワンピースを着るつもりよ。
レオーネちゃんと見てよね、この似合わない口紅も塗っていくから。


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