13


先程から止まらないあくびを噛み締めて、ミスタは夜更けのネアポリスをアバッキオは歩いていく。

「おい、ミスタ。聞いてンのか?」

「んーーー?わり、ぜんっぜん聞いてなかった。もっかい言ってくれるか、アバッキオ」

「…てめえな、」

「悪かったって、ここんとこ寝不足でよー、」

合流した当初からミスタは心ここに在らずの様子。
アバッキオはそんなミスタを気にかけて声をかけたのだが、彼の予想通りミスタはほとんど話を聞いていなかった。

「ハァ。ったく。だから、てめぇの自称友達だって女に言っておけ。てめぇの股が緩いのは勝手だが、近場で男を食い漁るんじゃあねえってな。これ以上俺の知ってるヤツに粉かけ続けるなら俺はてめぇを女であろうとボコボコにすると、そう言っておけ」

「自称友達の女ァ?誰だそれ…。あぁ。なまえの事か。なんだよ、なまえになんかされたのか?」

「俺じゃあねえ。ジョルノとブチャラティにちょっかい出したくせに、最終的にリゾットと恋人になったと聞いてな。さすがに腹が立っただけだ。それに、あいつら2人が使えなくなるってことは、パッショーネの組織力に関わってくる。これ以上被害者を出されるのはこちらとしても本意じゃねえ。その為に忠告しろって言ってるだけだ」

苛立ちを隠そうともせず、ミスタにそう告げたアバッキオに対して、ミスタは顔を顰めた。

「ハァ!?リゾットとなまえが恋人?なに言ってんだアバッキオ。あいつなら今ブチャラティに振られて…っ!やっべ!」

「…おい待て、ブチャラティに振られた?…どういう事だ」

「あー、今のは忘れて〜、くれるわけねぇよな。あー、やっちまった、、やっぱ寝不足って良くねーな、頭が回らねえ。」

「おい。説明しろ、ミスタ」

ミスタはうっかり口を滑らせてしまったことを後悔しながら仕方なくアバッキオに自分に起きたある出来事を説明する。

ことの発端は、2週間前。ミスタが仕事を終えて家に帰ったことから始まる。

深夜にミスタが自身の部屋へと続くアパルトメントの廊下を歩いていると、ドアの前に黒い物体がある事に気がついた。

「なんだありゃ」

ミスタは警戒を強めてその物体へと近づく。
暗くてわからなかったが、近寄ってみるとそれは人影であるとわかった。
さらに近づくと長い髪と白い肌が見えてくる。
そこまで見えてしまえば、俯いた顔を見なくともミスタはその人物が誰であるかを想像できた。

「…。なまえか?」

「っ、ミ、スタァっく、ぅ」

「は、おまえ、え?何?泣いてんのかァ?」

驚くミスタを差し置いて、彼女は顔を上げると勢いよく立ち上がり、ミスタに駆け寄り抱きついて涙を流す。

「っ、おい!なまえ、ちょっと待て、どうした、なァ?」
-[オイ、ドウシタンダヨ、なまえ〜?]
-[ナンデ泣イテルンダヨー?]
-[なまえ、泣カナイデクレヨ〜、なまえガ泣イタラ俺モ泣キタクナッチマウ〜]

驚いたミスタにつられて出てきたセックスピストルズたちと共に、ミスタは号泣するなまえをなんとか宥めようと試みるが、彼女が泣き止む気配はない。
廊下で慰め続けるわけにも行かないミスタは、泣き続けるなまえを部屋へと招き入れて、なんとかその涙の理由を聞きだした。

「ブチャラティに振られたぁあ?」

「っそうよ、私の好きな人をどこからか知ってしまって、もう食事に行けないと言われてしまったのよ、」

「…そりゃあ、なんつーか、」

「知って断るという事は、彼はやっぱり私に興味なんてないということよ。でも、諦めようにもどうしても、涙が止まらないの。…ねえ、ミスタ友達としてのお願いよ。しばらくこの家に私を置いて頂戴。夜、一人で居たら私は気が狂ってしまいそうなのよ」

「はぁー?おま、いくら俺が友達だからってよぉ、そりゃあ流石に無理な注文ってヤツじゃあねえか?お前は女で、俺は男だ。友達だからと言って、それは…」

ミスタは躊躇した。助けてやりたい気持ちはあるがさすがに彼女のような魅力的な女を何日も置いて置くのは難しいと思ったからだ。

「貴方しか居ないのよ、ミスタ、お願い、」

だが、涙を浮かべて悲願する彼女の顔を見て追い返せるほどミスタは冷たい男ではなかった。

「…。はぁ、ったく、しゃーねーか、」

こうしてミスタがなまえを甘やかした結果。
なまえは2週間ミスタのベットを占領し、部屋にはストレスで衝動買いをしたブランドのショッパーが所狭しと並べられ、夜は思い出したように泣いてミスタを起こす。
結果ミスタは狭いスペースで寝かされるだけでなく、夜中に泣いて起こされ寝不足になってしまったのである。

「…なんつーか。ミスタ、お前っていいヤツだよな」

全てを聞いてアバッキオは同情するようにミスタを見る。

「俺もそう思うぜアバッキオ。まあ、つーわけでよ、俺は家にいる子泣き爺みてえな女を追い返したいんでな。わりーが、そのリゾットが恋人だとかいう話の真相を教えて貰えるとありがたいんだが」

「ああ、そうだな。今誰よりもこの話を知るべきはお前だと俺も思う」

そう言ってアバッキオは、ブチャラティと2人でジョルノから聞いた話について、そしてその後のブチャラティの話についてをミスタに説明をする。

「なるほどな。ようやく訳がわかったぜ。つーんけでよ、わりぃけど、今日の見回りはお前に任せたぜ!アバッキオ!俺は家に帰ってなまえと話す!こういうのは拗れると面倒だ。さっさと片付けなくちゃあならねえからな!」

「!おい!」

そう言ってミスタはアバッキオの返事も待たず駆け出していく。
アバッキオは余計な事を言ってしまったと後悔しながらも、これで全てが解決するのであれば仕方ないと諦めて、その背中が小さくなるのを見つめた。



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