掛け違えたのはどこ




掛け違えたのはどこ



「――とまぁ、こうなるわけだ」

「ふむふむ……。なるほど、すごい分かりやすいですヒルダさん」



そんな声が聞こえ、男鹿はちらりと目線をそちらに向けた。
教科書とノートを机に並べ、顔を突き合わせているヒルダと古市。


「いやー、さすがヒルダさんですね」

「授業を聞いていればわかる問題だ。元々、石矢魔のために優しくしてあるしな」

「ハハ……男鹿みたいなのにつきあってると、オレも勉強しなくなりますからね……。ちょっとマズイかなと思い始めてヒルダさんに聞いてみたんですけど、正解でしたよ」

「そうか……。私はこういう事に楽しみを見出だせるタイプでな。やりがいもあって楽しいよ」

「ほ、本当ですか! それならこれからも是非……!」


古市は嬉しそうに笑った。
その光景に男鹿の眉は寄る一方だ。
ヒルダと古市は会話に夢中で、男鹿がいることも忘れているように見える。


「ダッ」


ベル坊がぱしぱしと男鹿の手を叩いた。
早く進めろという事らしい。
男鹿は軽く息を吐き出し、再び目線を戻した。
ベル坊も大好き、国民的アニメごはん君のゲーム。
一人ピコピコ進める横で、お勉強中の二人が気になって先ほどからゲームオーバーになってばかりだ。
ベル坊が不服そうな顔をしているが、それに構う余裕は男鹿にはない。



「む、やはり貴様は勉強ができるようだな。覚えが早い」

「まぁ、石矢魔向けの簡単な問題ですからね……。何よりヒルダさんの教え方がうまいですし!」

「誉めても何も出んぞ……む、次は図形か……」


ヒルダは立ち上がった。
そのまま首を傾げる古市の隣に座り、体を密着させる。
図形の問題ならば同じ向きにいた方がわかりやすい。ヒルダはそう思ったのだろう。
だが古市からすれば、白いきめ細かい肌がすぐ近くにあり、加えていい香りがされてはクラクラしてしまうような状況にいるわけだ。
現に鼻の下が伸びている。
その光景に耐えきれず、男鹿は勢いよく立ち上がった。


「おい! いい加減にしろよお前ら!」

「む? 何だいきなり」

「そうだぞ男鹿。オレたちは今お勉強中だ。邪魔をしてもらっては困る」

「うるせーよ! お前はまずその鼻血を止めろ! オレがもっと出させてやってもいいんだぜ!?」


憤慨する男鹿を鬱陶しいというように、ヒルダが顔をしかめた。


「貴様は勉強もせずにゲームばかりだな。たまには古市を見習え」

「な……! お前オレより古市の味方になる気か……!」

「味方も何も、ごく当たり前のことを言ったまでだ」


ぶちぶちと、男鹿の中で何かが切れる音がする。
ぶつけどこのない感情だ。
今、古市にぶつければ確実にヒルダにまた何だかんだと言われるに決まっている。
それがムカつくけれど、拳は震えるだけ。


「ヒルダさん、こんなやつほっといて続きやりましょう!」

「ん?そうだな……では次の問いだが……」

「古市くん……?」

「うるさいぞ男鹿。今ヒルダさんと……」

「パーンチ!!」

「ごはっ!!」


結局我慢できず。
男鹿は力いっぱい古市を殴った。
古市は浮き上がり、ベッドに叩きつけられそのまま気を失ってしまった。
ベル坊が雄叫びをあげる。


「ふ、古市!? 大丈夫か!? 首が変な方向を向いているぞ!?」

「……おい、何で古市の心配なんかすんだよ」

「貴様……私の楽しみを奪うことないだろう!」

「た、楽しみ!? 楽しみっつったか!?」

「さっきも言ったろう! 私はこういう事に楽しみを見出だせると!」


バンと机を叩き、ヒルダは立ち上がった。
至近距離で男鹿を睨んでくる。
ヒルダが何か言うとは思っていたが、これでは不良に彼氏を殴られ立ち向かう彼女ではないか。
男鹿の怒りはさらに増す。


「お前ふざけんなよ! 俺の気も知らねーで!」

「知るわけなかろう! 文句があるなら分かりやすく、ハッキリ言え!」

「こ、んの……!」


まったく、何て鈍い女だろうか。
男鹿は勢いよくヒルダの肩を掴んだ。
そのまま壁に押しつける。


「てめーと古市が仲良さそうにしてんの、ムカつくんだよ」

「ムカつく? なぜだ」

「なぜ? お前は古市に笑いかけるし、古市は鼻の下伸ばすし、距離は近いし。ムカつくに決まってんだろ」

「……? ヤキモチか?」

「……っ……そうだよ」


チッと男鹿は舌打ちをし、顔をヒルダから背ける。
ベル坊が気絶をした古市の頭をぺしぺしと叩いていた。


「……すまなかったな」

「……あ?」

「貴様にそんな可愛いとこがあったとは思わなかった」

「かわ……!?」


男鹿はヒルダの肩を掴む力をゆるめた。
怒りが収まってくると、何だか自分が情けなく感じる。


「ならば早く起こしてやれ。私は先に帰る」

「……は?」

「古市と一緒にゲームがしたかったのだろう? ゲームならば坊っちゃまも喜ばれるしな……存分に古市と遊ぶがいい」

「……え?」


ヒルダは唖然とする男鹿の手を振り払い、机を片付け始めた。


「ヤキモチのことは古市には黙っといてやろう。ではな」


パタン、とドアが閉まる。
ヒルダの言葉を理解するまで数秒。
男鹿はがっくりと項垂れた。


「違ぇだろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


どんな誤解のしかただ。





















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