青息吐息の繰り返し



はあ…
ヤバイ、また溜め息吐いた

朝、自分の家にいる男鹿はのんびり過ごしている家族たちの声をリビングの外のドア越しから聞いて、今の溜め息を吐いた
その溜め息の意味は、世に言う“恋”が関わっている
それを男鹿が知ったのはつい最近で、その相手もつい最近知った
いや、本当は気づいてたが気づかないフリをしていたのが正解なのかも知れない

何せ、相手は悪魔なのだ


「ん?何だ、人の顔をジロジロ見て…」
「…別に」
「?」

リビングのドアを開けて目の前にいる悪魔、ヒルダは不審な目付きで男鹿を見つつも「まあ、いいか」と視線を男鹿から外した


家族が男鹿に対して「おはよう」と言っている言葉は男鹿の耳の中を素通りしする
男鹿の中には、ただ「何故俺がヒルダの言葉や仕草で心を乱さなければならないんだ」という苛々のみが心をさ迷っていた





「東条が」
「は?」

いきなりの話に間の抜けた返事をする
東条…ってあの東条、だよな?
何で今…?


「今日の夏祭り、来いと…」
「は!?」

間の抜けた声は驚きの声に変わり、思わず目を丸くする

なんで!?コイツら接点あった…!?や、あったかも知れなくもなくもなくも…ないが、え!?デートの約束してたわけ!?

「で、お前は」
「待て!」
「は?」
「待て待て待て!!」

男鹿は慌てて両手を前に出してストップをかける
もちろんヒルダは目を丸めて「何が?」と首を傾げていた


「……お前、行くつもりか?」
「…?まあ、特に用事がないしな」



「…ざけんな」





「え?」


小さく呟かれた男鹿の言葉が聞き取れず、すぐに聞き返すヒルダ
男鹿は下を向いて、ヒルダの腕を掴むとそのまま自分の部屋まで連れていった

少し横暴なその光景を家族は少し驚いていたが、ただ見送ってゆったりと今日を過ごしていた



ところ変わって男鹿の部屋に着いた二人はドアを閉めて立ち止まる
ヒルダは若干怒り気味な表情で男鹿を凝視していた


「一体何なんだ貴様は」
「…駄目だ」
「何が」
「祭りになんて行かせねーよ」
「…行かせてくれないのか」

少し目を伏せて落ち込んだような声を出すヒルダ
きっと楽しみにしていたのだろう
その心中を察するとズキッと胸が痛む

だが、だからと言って「俺は彼女の幸せが俺の幸せだから、他の男とデートしておいで」なんてカッコイイことは言えない
みすみす好きな女をとられることを耐えられるほど強くない


「…デートなんか認めねぇよ」
「デ、デート!?何を言っているのだ貴様は」
「お前は俺の…嫁だろ?」
「『仮』か『偽』を付けろ」


照れた様子もなく、ポーカーフェイスで言葉を紡ぐヒルダ
何となく、目が動揺しているように見えもし、男鹿は少しだけヒルダに詰め寄る
男鹿は、ビクリと肩を揺らすヒルダの頬を撫で、自分と目線をはっきりと繋げる

「お前はずっと俺を見てればいい」


クサイ台詞かも、と後々思い返すが今、咄嗟に出た言葉はそれだけだった
我ながら恥ずかしいことを言った気がするがあまり気にせず、ヒルダを見つめる
きょとん

一番表現に近いだろう
ヒルダは目を瞬かせて呆然と男鹿を見ていた
そしてゆっくりと口を開いた


「…勘違い、してないか?」



あまりにも予想を外したヒルダの台詞に「はい?」と間抜けな声が再び出る

勘違い?
何が…?


「デートだとか…」
「は?…え?」
「私は『今日の祭りに来い』と東条に言伝てを頼まれたと…で、お前は予定は空いてるか?と聞こうとしたんだ。」
「…え」
「そしてお前が行くなら私も着いていって人間界の夏祭りとやらを楽しもうかと思ったんだ…」
「あ、…れ?」

何だそれ、俺の勘違い…?
てっきりデートしてきます、って報告かと…
つーか…

「まどろっこしい言い方すんなよ!!」


叫んだ
全力で叫んだ
行く宛のないどうしようもない怒りをぶちまけた

ヒルダは呆れ顔で溜め息を吐く

「私は言おうとしていたぞ。お前が聞く耳を持っていなかったんだ。途中で『待て』とか言い出したり…」

ぶつぶつ言いつつも正論を返してくるヒルダに頭が上がらない
男鹿はへにゃへにゃと床にしゃがみこんだ
ヒルダはそれを見下ろして「大丈夫か」とあまりしない心配の声をかけた(感情が入っているかは別として)

「大丈夫、な訳ねーだろ」

後から顔が熱を帯出してきて顔を隠す

あー、これ恥だわ


一人悔やんでいると頭をくしゃっと撫でられた

「お前は時々…可愛くなるよな」
「なんか、嫌なんだけど。犯すぞ」
「…で、祭りには行かせてくれないのか?」
「あ、スルーなんだ?了承ってこと?」
「黙れ変態、私の質問に答えろ」
「はいはい…じゃ、6時くらいに行くからな」

渋々祭りに行くことを了承するとヒルダはパアッと顔を綻ばせた
「約束だからな」と鼻唄混じりにリビングへ向かうヒルダの背中を消えるまで見つめて、またも溜め息を吐いた
軽く告白紛いをしたというのに完璧に流されたという言葉では言い難いモヤモヤした感情が波打つ


何で分かってくれないんだ、アイツは


青息吐息の繰り返し
けど…ま、今回は喜んでくれてるアイツの顔を見れただけ、良しとしよう




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