―昼休み、

私、邦枝葵は勇気を出して、男鹿をお昼に誘った。いつも彼は古市くんと食べるらしいから、ふたりっきりじゃないけど。
それでも嬉しかった。

場所は屋上。
今日は晴れていて、お昼を食べるのには最適だと思う。
青々とした空が私の味方だった。



…今日はお弁当作ったんだもん!

ぎゅっとかばんを抱き締める。


…今日こそ



「男鹿っ…「坊っちゃまのミルクを届けにきたぞ。」

ふわりと宙から舞うかのように、さらりと金髪をなびかせ、ヒルダさんがやってきた。
それとともに紡がれかけた私の言葉は意味のないものとなった。

「お、悪いな。……俺の弁当は?」

「…………ない。」

「……………」

「フ…、冗談だ。」

「…ったく焦らせんなよっ………っと、なになに〜?」

『今日はヒルダちゃんが全部作ったのよ!あんたは幸せ者ね〜!うふっ母より』

「うふっじゃねぇええ!!」

「む?」

「俺を殺す気かぁあ!!」


喧嘩するふたりを遠巻きに、なにがなんだか分からなくて、私は呆然と眺めていることしかできなかった。
ただ、日常化されつつある男鹿とヒルダさんの喧嘩…、否、じゃれあいを見ると……ちくり、と胸が痛んだ。

鞄にしまったお弁当も…意味のないものになるのかしら。




「あの……、」

「…ヒルダさんは魔界の料理しか作れないんです。」

戸惑う私に説明してくれたのは、苦笑いを浮かべる古市くんだった。

「魔界の、料理………。」

「それが想像を絶する味でして…」

「………見た目はおいしそうだけど?」

「そうなんスけどね…。」


どうしよう…
どうする………?
私……………


一度はしまい込んだ弁当を取り出す。



今日こそ、
今日こそちゃんと渡したい。




「えっと…あのっ、じゃっ、じゃあっ…。男鹿っ……私のでよかったら食べる?…………?」

見ると、男鹿は屋上のコンクリートに寝転んでいる。
その隣りにはヒルダさん。


「ほう…。食べないのではなかったのか?」


彼女の手には空になったばかりの弁当箱。


「るせー………。ただ腹が減ってただけだ。次はちょっとはマシなの作りやがれ。」

男鹿が自分の頭をヒルダさんの太腿に乗せれば、ヒルダさんは目を細め、男鹿の前髪を優しく撫でる。


「………努力する。」











敵わないと思った。


だって、ふたりにはふたりだけの、誰も立ち入ることのできない絆があるから。

「………古市くん、これあげる。」

「えっ!?マジっすか!?えっ!?」


お弁当を喜んでくれる古市くんを背に、私はその場を後にした。




「……ごちそうさま。」











羨ましいとか

嫉妬とか

それだけじゃなくて

そんなのが私の気持ちじゃなくて。


(まだ…好きでいていいよね。)


たとえ振り向いてくれなくたって

気付いてくれなくたって

私はあなたが好きです。





* * * * *


ミロ様!
リクエスト
ありがとうございました(^^)





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