「む、」

「ん?なんだよ?」


反則だと思う。


ずるいって言わせて(ヒルダの場合)


「………。」

「……?」

「……別に、」

「………ヒルダ?」

「っ……。……別に!!なんでもない!気にするな!!ドブ男!!」   

「なっ!!」


後ろで非難の声が聞こえるが気にしない。
気になんかしないで私は自室へ向かった。


バタン…


閉じたドアに寄り掛かれば、体の力が抜けて、へなへなと倒れ込む。


情けないことだ。

この私が、

あんな奴の仕草、言葉ひとつで、こんなに動揺するなんて。

ほんとに、

なんだと言うのだ。



***


珍しく髪型を変えてみた。

「たまにはいいんじゃない?」

というお姉様の言葉で。

「やってあげる。こっちにおいでヒルダちゃん。」

「でも、お姉様の手を煩わすわけには…」

「いいのいいの〜。私がやりたいのよ。」

ふふっと優しく笑う彼女は、女の私から見ても綺麗だと思う。それにその笑顔には親しみがこもっていて、なんだかすごく温かい気持ちになった。

「…じゃあ、ありがたくお言葉に甘えさせていただきます…。」



いつも高めの位置にきっちりまとめられた髪は、お姉様によって、ほどかれて、ふたつに分けられる。


「お姉様?」

「ツインテール。きっと似合うわ。」

「………だといいのですが……。」

「大丈夫よ!ヒルダちゃんとっても可愛いもの!」

「そんなことは……」

「きっと、あの不器用男もときめくわよ〜」

「…?」


不器用、男……?


「さ、できたわ!」

「ありがとうございます…。」

「ヒルダちゃん可愛い!」



「ただいまー」

聞き慣れた声が玄関から聞こえた。

なぜだろう、なんというか…もしかしたらこの姿を奴に見られるかもしれないと思うと、正直恥ずかしい…。

「あ、私友達と約束してるんだった!じゃあね、ヒルダちゃん、がんばるのよ!」

「は、はぁ…。いってらっしゃいませ…。」

お姉様はそそくさと私の部屋から出ていった。
言葉の意味はいまひとつ分からないのだが。


さて、どうしたものか。
似合ってないのは百も承知だが、自分の容姿が気になるのは女の性で。奴と鉢合わせないことを祈りながら、洗面所へと向かった。

階段を下りて行くと、悲しいかな、奴とばったり鉢合わせてしまった。

「ヒル、ダ…?」

いつだったか光の妖精に変身した時同様、いつものようにからかうのであろう男鹿をキッと睨む。

「…なんだ。」

「あ、いや…その…」

歯切れの悪い言葉にイライラが募る。
似合わないなら似合わないと早く言えばよいものを…。
白々しい。

「あ〜…ったく!……〜〜!」

「!」

私の頭に触れたのは意外と大きい男鹿の手。

「なっ……!?」

そのまま、ポンポンっと優しく撫でられる。

「…んだよ、……かわいいじゃねぇか。」

低い声が耳をかすめる。

それと同時に私の体温が上がっていくのが分かる。

な、

なんだこれは……



「む、」

「ん?なんだよ?」



反則だと思う。
いつもと違う反応。
いつもと違う優しい表情。

こんなの、

ずるいだろうっ……!!



私は赤い顔を隠すように近くも遠い自室へと急いだ。



* * * * *


久しぶりの男鹿ヒル(*^^*)



×