「では、行ってくる。」

「…………」

「………む?なんだ?」




ご褒美、あげる
 



「………なんだ?」

ヒルダは魔界へ、主であるベル坊のため、おもちゃを取りに行こうとしていたのだが、

「…………。」

目の前の男、男鹿辰巳がそれをさせない。

「離せ。行けないだろう。」

「…………。」

そうヒルダが言えば、彼女の腕を握る力がさらに強くなった。
さっきからだんまりを決め込んでいる彼に、わけが分からず、ヒルダは不審そうに眉をひそめた。

さっきからなんだと言うのだ。
これでは魔界に行けまい。

「……いつ帰ってくんの?」

「?…3日ぐらいで戻るつもりだ。」

「おもちゃ取りに行くだけなんだろ?」

「私にも用事があるのだ。」

「なぁ、」


突然腕がほどかれ、かわりに男鹿はヒルダをぎゅっと抱き締めた。


「なっ……」

「行くなよ。」

「……私がいないと清々するのではなかったか?」

「しねーよ…。……お前がいねーと、ベル坊が寂しがんだろ。それに、誰が学校までミルク届けにくんだよ。」

「……ミルクは貴様が忘れなければよい話ではないか。毎日届けに行く私の身になってみろ。」

「……ヒルダ、」

「………?」

「俺、お前がいねぇと調子狂う……。俺の側にいろよ…。」

「……………。」


ヒルダが魔界に行く。
これは以前にもあったことで、さして珍しいことではないはずだ。

しかし、



「配慮が足らなかったようだな。」

「?」

「貴様はまだ15の子供。いくら坊っちゃまの親代わりと言えど、な。子供は環境の変化に敏感だと言う。まぁ、安心しろ。早めに帰ってくるからな。」

ヒルダは、いつもベル坊に向けている優しい眼差しで男鹿を見て、彼の頭をぽんっと撫でた。


「ガキ扱いすんなよ……。」


子供扱いされたことに拗ねた男鹿は、それを否定しつつも、認めているようだった。
ヒルダを抱き締める力が強くなる。




ヒルダはそんな男鹿を少し困り顔でくすりと笑う。


「辰巳、すぐ帰る。」

「!!」



あぁ、
帰ったらもう一度頭を撫でてやるか。
ちゃんと待っていたご褒美、だ。







* * * * *

どちらかというと、ヒル男鹿に近いような…←
攻めのヒルダさんも好きですw



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